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つけびの村、を読んだ。

忘れもしない。仕事の移動中に上野駅構内の本屋さんで、明らかに異質なアウラを放つ黄色い装幀に吸い寄せられた。手に取り、そのままレジに進んだ。今回文庫化され、ふたたび戦慄のノンフィクションを体感する。

限界集落で発生した凄惨な放火殺人事件を、世間はエンターテイメントとして囃し立て消費したのだろう。怖いもの見たさ、野次馬根性。自分にもそういった大衆的な興味関心がないわけではないが、知りたいのはそこではない。

人は何故、噂話をするのか。噂話が好きなのか。自分が住んでいる、東京都にほど近い埼玉県の地方都市にだって、似たような噂話(が好きな人々)が一定数存在する。彼らにみて取れる共通点は、さしたる趣味を持たず、他人に対してあることないことを喧伝する傾向があること。つまり、噂がライフワーク化しているということ。

表面上は何事もないようにコミュニケーションをとるが、いない場所では悪口を言う。この村はそのような者たちの集まりだった...みんな話すのはあそこの家のアレはどうのこうの、という話。

「うわさ話です。...当てずっぽうの思い込みに同調する人が出てきよった。何も知らずに、ただあの人が言うから、そやったらそうしようかちゅうような」

本文から

今回のハイライトは、著者の高橋さんが取材対象者から貰い受けた干し椎茸の存在を思い出し、食すシーン。ストーリィに強く作用する場面ではないのかもしれないが、思わず落涙しかけてしまった。

限界集落で誰にも知られず、人生を幕をひっそりとおろした老人のエレジーを感じた。

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