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どう在りたいのか、わからなくなった時の為に

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自分がどう在りたいのか、わからなくなったとき。読むと「何か」変わるかもしれない作品を選びました。
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#エッセイ

抽象度に託された意思

抽象度に託された意思

「そこまで詳しく伝える必要があるだろうか?」

仕事やプライベートで、こう立ち止まる瞬間は枚挙に暇がない。何も大げさな話ばかりではなく、メールやチャットに付け加えた一言を消したり、敢えてぼかした書き方に改めるなんてことは日々無意識のうちに行っている。

詳しさとは、情報の解像度だ。被写体が何であるかわかる程度のピンボケ写真と、臨場感あふれる鮮明な写真のどちらを渡すか。とりあえずモノトーンに加工し、

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青いブリンクはけしてやって来ない、けれど

青いブリンクはけしてやって来ない、けれど

※こちらはWEBマガジン「She is」公募エッセイ用に書いたものです。

比較的はじまりに近い記憶の中で、覚えていることがある。
自転車に乗る練習をしていて、なかなかうまくいかなかったある時。ふと私は「こわい」と思った。転んだら痛い。皮膚が擦りむけて、血が出てくる。痛いのはいやだ。
そこで私は練習をやめた。結局小学生のある時点まで、自転車に乗らずに過ごした。

ビビり。それこそが自分のコンプレッ

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僕なりの、創作意欲の保ち方

僕なりの、創作意欲の保ち方

創作には二種類あると思っています。ひとつは、「手段としての創作」。楽しい、ワクワクするというように、自分が心地よくなるための手段として「創作をする」こと。こたつで描いたマンガのように、人に見せるためでなく、自分のための創作です。

もうひとつは「目的のための創作」。コンテスト受賞や書籍化など、何かを実現するための創作です。僕が仕事でするデザインもそうです。デザインは、ある課題を解決することが目的で

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書いて、今の自分を定義する

書いて、今の自分を定義する

仕事柄、言葉の定義を重視することが多い。多いというか、定義がすべてである場面がほとんどだ。書くことは定義付けの連続のように思える。

言葉の定義は、文脈によって範囲が変化する。一般的な定義は辞書に載っているが、会話の中で使われる言葉の定義がお互いにピタリと合致していることは少ない。すれ違いが基本。だからぼくらは、慎重に言葉を重ねながらピントを合わせるようにして会話を進めていく。非言語コミュニケーシ

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立冬のお墓参り巡りとプレモル

立冬のお墓参り巡りとプレモル

この週末、2日連続で何年ぶりかのお墓参りをしてきた。

土曜日、用事があって亀戸に行った。都内の東、江東区の北側に位置する下町であり、ぼくの生まれ故郷。母方の祖母が住んでいて、生後間もない時期をそこで過ごした。もちろん記憶はない。でも幼い頃からよく祖母の家に遊びに行っていたため、今も確かに「帰りたい場所」の一つになっている。

祖母は10年ほど前に亡くなった。癌だった。身長150cmもなかった祖母

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「叶う」と「叶わない」のあいだにあるもの

「叶う」と「叶わない」のあいだにあるもの

幼い頃に描いていた夢がまったく思い出せない。

お花屋さん?ケーキ屋さん?たぶん違う。しいて言えばエレクトーンの先生や漫画家には憧れた気もするけど、どちらも中学生になったぐらいで早々に諦めた。習い事もぜんぶ途中でやめた。運動部に入っても補欠だった。何かの目標に向かって頑張る、といった努力が全然できない学生だった。ひとつのことに熱中している子たちがいつも羨ましくてしょうがなかった。

そんな私が小さ

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綺麗の先の、美しさを目指して

綺麗の先の、美しさを目指して



「人は、なぜ花を美しいと感じると思う?」

駅までの道を歩いていると、友人に質問された。この手の哲学的考察は好きだけど得意じゃない。ぼくは首をかしげ、わかんないな、という目線を彼におくった。

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この問いに多くの人が様々な答え方をしている。学術的に言えば、花が受粉するために虫や鳥に花粉を運んでもらうから、という解答が一般的だろう。正解がない問への答えは、その人の人生観に繋がることが多い。美

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【ランプみたいに揺れるあの子】

【ランプみたいに揺れるあの子】

彼女は、重厚な一冊を差し出した。
黒い表紙に題名は無い。
そして、こんなのでゴメンね…と涙をこぼした。

あんなに綺麗な雫を見たことはなかった。
見惚れる私を前に、
街灯が反射してきらりと光るそれを、彼女は服の袖で慌てて拭った。

アメリカ留学・ノンフィクション──親友との別れ編

       ∇∇∇

彼女は、中学、高校と一緒に登下校してきた一番の存在だった。
私は、彼女の前ではよく笑った。

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△ずっと前から、TLは本棚だったのかもしれない

△ずっと前から、TLは本棚だったのかもしれない

積読への罪悪感は「大丈夫、いつか読むもん」「本は財産」と思って打ち消すことができるのに、TwitterやInstagramやnote、すなわちSNSの類では、なぜか同じように捉えることができずにいた。

未読を作らないことに、必死なわたしがいる。

自身が凝り性なのは、認める。あまり芸能人や有名人に興味を持つほうではないけれど、ひとたび好意を抱こうものなら、ブログを毎日チェックするし、それどころか

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別の人の生き方に憧れたら、池平撤兵さんの『ふつうのいるか』を思い出す。

別の人の生き方に憧れたら、池平撤兵さんの『ふつうのいるか』を思い出す。

高校生のころまで、絵は私の味方だった。

自分のことは大嫌いだったけれど、自分の描く絵だけは好きになれた。つらいことがあったときには、自分の描いた絵に慰められた。絵を無我夢中で描いているうちに、ボロボロと涙が溢れて心が軽くなったこともある。

我流なので構図がおかしいのもわかっていたけれど、趣味と呼べないくらい大切だった。

それなのに、20歳を過ぎたあたりから、パタッと描けなくなってしまった。

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大志がなくても、取り柄がなくても

大志がなくても、取り柄がなくても

昔から、大志というものを抱いたことがなかった。

誰かと比べては、あれが足りない、これが足りない。もともと凸凹のヘコんでいるほうという認識が強く、人生はそれを埋めていく作業の繰り返しだと思っていた。

それなのに。習い事はすぐ辞める、大学時代はバイト三昧、取り柄など見当たらず。

どちらかというと冷めた目で物事を捉える由々しき癖。出世欲もなければ、社会貢献も興味ない。いつも小さな自分ゴトばかりで世

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ことばと目を獲得する

ことばと目を獲得する

「ことばにする」ということは大切で。

普段、自分がどういうことを考えているのか。あるいは、大切にしていることは何か。それらをことばにして、説明できるようにしておくことは大事だと思うのです。表現や創作に関わっている人なら、特にね。

「ものづくり」は、つくり手の思想や哲学が反映されます。反映されていないものはつまらない。ぼくはそう感じます。そこにはつくり手の正義や美意識が息づいていて、呼応したり、

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Process is Precious.

Process is Precious.

最近コーヒーを淹れるのが楽しい。ハンドドリップしていると、立ち上る香りを胸いっぱいに吸い込みたくなってしまう。

飲むのは前から好きだった。在宅勤務になってから飲む頻度は増えた気がする。インスタントも飲むけど、仕事中に一息つきたくなったらドリッパーとコーヒー粉をいそいそ取り出している。

コーヒーを淹れている時間が、楽しい。

サーバーを温める。コーヒー粉をならして、ポットからこぽこぽお湯を少し注

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「好き」は、諸刃の剣。

「好き」は、諸刃の剣。

好きって感情は、都合のいいものではなくて諸刃の剣だと思うのです。

誰かや何かを好きになると、アップだけじゃなくて、ダウンも伴うじゃないですか。自分で自分をコントロールしきれない部分が出てくる。惹かれることを「心を奪われる」「酔わされる」「溺れる」って表現、しますけど、本当にピッタリですよね。

これは恋愛に限った話ではないです。最近は、子ども達を見ていると思うのです。

私の職場には、「横浜ベイ

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