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東原そら
2021年8月5日 19:23
「さよなら」 俺の腹に生えたナイフを見下ろし、彼女は静かに呟いた。 一年前、告白された。 戸惑ったけど、俺はOKした。 でも、彼女の秘密はわかっていた。 それでも、俺は── ごめんよ、俺が君のお父さんを轢いてしまったから。 ──君に償いたかった。 涙? どうして君が泣くの?
2021年6月7日 20:16
何度、彼女はごめんなさいと、口にしただろう。 もう自分の意志では涙を止めることができないようだ。「絵が描けても、あの場で君を見殺しにしていたら、僕は一生後悔した」 泣き声が一瞬止んだ。 絵を描く以上に、僕は尊いことができた。 命が尽きる前に、君の成長も感じることができた。
2021年5月19日 19:53
辞令がおりた。 九州への異動。事実上の左遷だ。 取引先へのミスから二週間、会社の対応は早かった。 彼女に話すと、そう、と一言だけ。 こちらも事実上の破局だ。 荷物を出した部屋で、床を拭きながら涙が落ちた。 移動当日、駅には彼女がいた。「鹿児島なら黒豚だよね!さあ行くよ!」
2021年5月17日 20:17
雨がきらい、という感情がわからなかった。 雨がないと、世界は死ぬ。 雨は、穢れた世界を綺麗にしてくれる気がする。 雨が降ると、私は泣ける。 雨は、涙を隠してくれる。 雨に、私は身体を流してもらう。 雨は、穢れた私を浄化してくれる。 雨しか、血にまみれた私を抱き締めてくれない。
2021年3月22日 19:42
僕には許嫁がいる。 親の政略だ。 僕は彼女に惹かれていた。 でも彼女は将来の伴侶と決めている人がいた。 彼女の幸せが僕の幸せだ。 結納の席で僕は架空の恋人をでっち上げ、勘当された。 数年後、風の噂で彼女が意中の人と結婚したと聞いた。 その時の涙のわけは、僕にはわからなかった。
2021年3月20日 20:29
拡声器の声が校庭から聞こえる。「学園の教師は全員出ろ!」 先日、卒業した三年生が武装して集まっている。「バカなことをするな!」 教師達は諭そうとする。 途端、生徒達は深々と礼をした。「三年間ありがとうございました!」 ドッキリ成功。 教師達が全員涙したのは言うまでもない。
2021年3月16日 19:51
うちは貧乏、食卓は質素だ。 だから俺の好物は昔からみそ汁だ。 今日は卒業式。 父が夜は外食にした。 好きなものを頼めと言うので、俺は『神の味噌汁』を頼んだ。 神と付くだけあり、超高値だった。 会計時、父は涙を流した。 卒業が嬉しいのか、財布の中が悲しいのか。 神のみぞしるだ。
2021年3月15日 16:57
今年のホワイトデーは何にするか。 彼女に負けない熱い想いを伝えたい。 様々な店を巡り、いいものを見つけた。 当日は俺の想いと同じ色のクッキーを贈った。 彼女は珍しい色に目を輝かせ、一口かじる。 途端に激しい涙を流した。 そんなに喜んでくれるなんて。 ハバネロレッドクッキーを。
2021年3月7日 20:07
タイムカプセルを掘り出す。 同窓会のメインイベントだ。 あの頃、恋人だった僕らは、互いへの手紙を入れていた。 掘り出し、彼女からの手紙を開く。「ずっと好きだから」 一粒の滴が垂れ、彼女の字が滲む。 僕は自分の手紙を開き吠えた。「ずっと好きだぁぁぁぁあ」 届け!天の彼女に。
2021年2月1日 19:45
そっと頬に触れる。 ひやりとした冷たさが指の温度を奪う。 紺の唇に口づけると零した涙が彼の頬を這う。 馬鹿。 口を衝く一言は自慢と暗澹が混在している。 お胎で彼か彼女も怒ってるよ。 会うことを誰より心待ちにしてたくせに、知らない 子供を庇って。 誇らしいけれど憎らしい。 馬鹿よ…
2020年12月29日 22:21
おはよう、の声と共に毎朝勢いよく僕の肩を叩く子がいる。 脱臼の際の治療費請求の為、毎日記録を取る。 ある日、理由を尋ねてみた。「いざというとき君を助けるためだよ!」 三日後、いざが来て彼女は僕を救った。 朝の恒例の出来事が消え、僕は涙と共に、遅い彼女への恋心を自覚した。
2020年12月22日 08:34
クラスの気になる以上好き未満の女子が公園のベンチに腰かけていた。 俯く様に声を掛けてみたが、すぐに浅慮さを後悔した。 涙を堪えているのが、ありありと伝わった。 ハンカチを渡し踵を返すと、袖をギュッと掴まれた。「ごめん……いてくれない?」 とくんと僕の心の未満が姿を変えた。
2020年12月18日 09:50
水たまりに、ポツポツと描かれる芸術性が高い円形。 輪と輪が互いの領域を侵す様は、とても幻想的に映る。 ふと、ポツリと一際重厚な円ができる。 二粒、三粒と段々と折り重なっていく。 涙でも波紋ってできるんだ。 下ばかり向いてても、いいことないぞ。 上を向け! がんばれ!あたし!
2020年11月21日 20:32
想像よりスッと闖入された。 抗うはずの腹直筋は盾の役目を果たさず、簡単に破れた。 針の痛みがまだ脳に刺さるかもしれない。 尖った痛みではなく、鈍い痛みがじわりと波紋のように広がる。「……ごめんね」 女が雫を垂らす。 いいから行けと、おとがいで示す。 掌に紅葉。 花冷えだが、まだ早えだろ。 あとがき 悪い男なりの優しさを表現したく、執筆してみました。 ラ