ながやん

文系院(考古学)→社会人。主に学問、映画、文学、芸術などの感想から日々の創作まで発信し…

ながやん

文系院(考古学)→社会人。主に学問、映画、文学、芸術などの感想から日々の創作まで発信しています。26歳、京都在住。最近、アーティスト活動も始めました。 Instagram⬇️ https://instagram.com/nagayan_art?igshid=ZDdkNTZiNTM=

記事一覧

アートに関する覚書12.ポップアートの復讐、そして反省へ。

クエンティン・タランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)を鑑賞していて、考えたことがある。 日本にとってのポップアートと欧米諸国のそれは、全くといっ…

ながやん
5か月前
5

詩人の沈黙

戦争や言論弾圧に際して、如何に詩人が振る舞ったのか調べていた。 太平洋戦争が終結し、日本が敗戦を迎える前は、詩の領域においても戦争賛美がなされた。 近代詩の先…

ながやん
6か月前
12

考古学の公共性~地域とメディア~

少し前の記事になるようだが、非常に興味深い内容だった。 今回の事例について、記事の内容を踏まえた所見をまとめておくことにする。(厳密な現状整理でも、分析でもない…

ながやん
6か月前
6

アートに関する覚え書11.~追憶への折り返し地点~

最近、詩も、造形物も、文章も、あらゆるものが創れなくなっている。何も起こらない明日という空隙へ放り込まれる夜が増えた。 本来、創れない方が「幸福」なのだと思う。…

ながやん
6か月前

宿命を突き抜ける~アンドリュー·ニコル『ガタカ』感想~

もう既に多くの人達によって語られている作品であるけれど、初めて視聴した。そして、言わずもがなとても素晴らしい作品だと感じた。 全てが遺伝子によって決定されている…

ながやん
8か月前
3

修練

事物を眺め、裂け目を生み出す修練としての写生を試みる。それは絵も、詩も同じ。 裂け目は忍耐強い事物の観察から突如として生まれるのではないか。 しかし、写生そ…

ながやん
9か月前
2

アートに関する覚書10.線と面

線的な絵画がある。対象を捉える時の平板さが立ち現れてくる技法。若冲や村上隆に連なる現代日本美術で流行している系譜。 他方で、面的な絵画。伝統的な西洋美術のデッサ…

ながやん
9か月前
1

問い続けること~森達也『福田村事件』 感想~

 包み隠されることのない剥き出しのままの獣性は、根も葉もない噂やちょっとした妬みの感情などの僅かなきっかけで、波紋のように広がってやがて大きな波となって発露され…

ながやん
9か月前
1

生きるという無常~武田泰淳『ひかりごけ』 感想~

無常は詠嘆に浸ったしめやかな情緒のみを表すものではない。『ひかりごけ』における無常は、血生臭くも生きようと踠く恥ずかしい人間の矮小さと、それらを沈黙して見つめた…

ながやん
10か月前
4

高級フレンチの孤独

これは、ただの個人的なみっともない独白であるから読まない方がいいと思う。もし、人生の時間を無意義に過ごしたいのであれば、読んでもらってもよいだろうが。 孤独につ…

ながやん
10か月前
2

2023.08.11 詩 鉄学

錆びた鉄の色をした 油 微かに流れる 眼球の底 砂塵 捕らわれ 表面で 粒だっている 奥歯 根元から また 血の混じる唾(つばき)が 滲み出す 硬直した…

ながやん
10か月前
4

2023.07.28 詩 アメリカの旅人

耳触りのよい 明日の神話 ただ拝むくらいならば 肉体を迸らせ 渇いた泥 節々に纏い 黄金の 鈍い輝き 隙間から漏れ出る 時を満たす 今が 伝承として語ら…

ながやん
11か月前
3

2023.07.22 詩 登山

韻律の夏 錆びれた橋の欄干に 震えながら 浸透する 9月1日がくる前 名も知らぬ 汗にまじる 吃り 三年の間 繰り返す 頂からの 街 そして、 額に受け…

ながやん
11か月前
9

2023.07.16 詩 青い

深みを増す父の肋 青い陰 若き張のある肉は 削ぎ落とされる 溝の深く深く その更に奥へ奥へ 陰さらに濃く 群青へ向かう

ながやん
11か月前
3

映画「として」~ジャン·リュック·ゴダール『ゴダールの決別』 感想~

音は音「として」。映像は映像「として」。「として」存在する全ての前に立ち尽くす。ただ立ち尽くす。 「ために」ではない。物を語る「ために」映像はなく、区切る「た…

ながやん
11か月前
5

2023.07.03 詩  歌

全てを真綿で包み 天上の微笑にも似た この白い病に対峙して マッチを一本擦り 立ったまま 眠りから醒める その血潮を  浴びせかけていかなければならない …

ながやん
1年前
4
アートに関する覚書12.ポップアートの復讐、そして反省へ。

アートに関する覚書12.ポップアートの復讐、そして反省へ。

クエンティン・タランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)を鑑賞していて、考えたことがある。

日本にとってのポップアートと欧米諸国のそれは、全くといっていいほどに背負う重さが違うということ。

本作品では、マカロニ·ウェスタンやグロ·ナンセンスといったサブカルチャーの要素をコラージュし、キッチュな雰囲気を漂わせている。これは『パルプ·フィクション』(1994年)などでも用いられ

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詩人の沈黙

詩人の沈黙

戦争や言論弾圧に際して、如何に詩人が振る舞ったのか調べていた。

太平洋戦争が終結し、日本が敗戦を迎える前は、詩の領域においても戦争賛美がなされた。

近代詩の先鞭をつけた北原白秋とその影響を受けて口語詩を確立した萩原朔太郎は、晩年に戦争が苛烈さを増すにつれ、日本賛美的な創作活動を行った。白秋は「日の丸万歳」の童謡や戦争詩を詠み、朔太郎も『日本への回帰』を執筆して伝統的な「日本」への回帰を謳っ

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考古学の公共性~地域とメディア~

少し前の記事になるようだが、非常に興味深い内容だった。

今回の事例について、記事の内容を踏まえた所見をまとめておくことにする。(厳密な現状整理でも、分析でもないことをはじめに断っておく。)

1.文化財行政と地域開発

 日本の埋蔵文化財行政を取り巻く現状は、芳しいものであるとは言えない。市の方針や予算によって文化財技師の雇用が難しく、各地の文化財センターなど各種施設の維持費も削減されている。こ

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アートに関する覚え書11.~追憶への折り返し地点~

アートに関する覚え書11.~追憶への折り返し地点~

最近、詩も、造形物も、文章も、あらゆるものが創れなくなっている。何も起こらない明日という空隙へ放り込まれる夜が増えた。

本来、創れない方が「幸福」なのだと思う。疑念、反発、嫉妬、熱情。そういった感情の大きな起伏に振り回されずに済むのだから。

たった5年の間に傑作とされる詩を書いたランボー。10代という逆巻く波浪のような時が、彼に詩を書かせた。20代以降の人生は商人として財を成し、生涯を終えた

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宿命を突き抜ける~アンドリュー·ニコル『ガタカ』感想~

宿命を突き抜ける~アンドリュー·ニコル『ガタカ』感想~

もう既に多くの人達によって語られている作品であるけれど、初めて視聴した。そして、言わずもがなとても素晴らしい作品だと感じた。

全てが遺伝子によって決定されている近未来の社会。デザイナーズベイビーで、容姿端麗で健康的な遺伝子を作り出せる。顕在化した差別はなくとも、予め良い遺伝子で産まれた人間と不完全な遺伝子の人間が全てにおいて区別されている。

そのようなデタラメな社会に自然妊娠で産まれたヴィンセ

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修練

事物を眺め、裂け目を生み出す修練としての写生を試みる。それは絵も、詩も同じ。


裂け目は忍耐強い事物の観察から突如として生まれるのではないか。

しかし、写生そのものを"作品"とするほどの技量に乏しい。

だから写生を修練ということにしている。


逸脱を抑制しなければならないという葛藤そのものに対峙する覚悟が必要。

その果てで、見ようとしていないのに、見ている、読もうとしていないの

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アートに関する覚書10.線と面

線的な絵画がある。対象を捉える時の平板さが立ち現れてくる技法。若冲や村上隆に連なる現代日本美術で流行している系譜。

他方で、面的な絵画。伝統的な西洋美術のデッサンなどで学ぶ技法。レオナルド·ダ·ヴィンチなどに代表されるルネサンスの画家達。

一度、この雑な分類に基づいて考えてみる。

アンドレ·ルロワ=グーランの『身ぶりと言葉』を読んでみると、言語はあらゆる要素を捨象して、線的な形態を取るように

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問い続けること~森達也『福田村事件』 感想~

問い続けること~森達也『福田村事件』 感想~

 包み隠されることのない剥き出しのままの獣性は、根も葉もない噂やちょっとした妬みの感情などの僅かなきっかけで、波紋のように広がってやがて大きな波となって発露されるようになる。
 獣性は群を成すことで過激さを増しながら暴力として止めどなく溢れ出し、言葉は繊細さを失っていく。反省を始めるのは、全てが破壊されてしまった後でしかない。
 こうして多くの罪を人類が重ねてきたことは変えようのない事実として厳然

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生きるという無常~武田泰淳『ひかりごけ』 感想~

生きるという無常~武田泰淳『ひかりごけ』 感想~

無常は詠嘆に浸ったしめやかな情緒のみを表すものではない。『ひかりごけ』における無常は、血生臭くも生きようと踠く恥ずかしい人間の矮小さと、それらを沈黙して見つめたまま、ただ持続していく世界とが混合した無常である。

この作品は、羅臼町で実際に起きた人喰事件を題材とする。流氷と吹雪によって難破した船の船員は、上陸して助けを待つなかで飢えに苦しむ。やがて一人、また一人と死んでいく極限状態において、船員

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高級フレンチの孤独

これは、ただの個人的なみっともない独白であるから読まない方がいいと思う。もし、人生の時間を無意義に過ごしたいのであれば、読んでもらってもよいだろうが。

孤独についての認識が違うのだなという人の意見を見聞きした。

話を聞く限り、彼等にとっての孤独は高級フレンチのような孤独、或いは大都会の真ん中にある洒落た酒場のような孤独なのだと思う。

大きな皿に難しい名前の小さな料理が運ばれてくる孤独。数

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2023.08.11 詩 鉄学

2023.08.11 詩 鉄学

錆びた鉄の色をした



微かに流れる

眼球の底

砂塵

捕らわれ

表面で

粒だっている

奥歯

根元から

また

血の混じる唾(つばき)が

滲み出す

硬直した



微積分で

計算しうる

手と

その運動

Rusty
iron-colored oil
flows
slightly in the bottom of
the eyeba

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2023.07.28 詩 アメリカの旅人

2023.07.28 詩 アメリカの旅人

耳触りのよい

明日の神話

ただ拝むくらいならば

肉体を迸らせ

渇いた泥

節々に纏い

黄金の

鈍い輝き

隙間から漏れ出る

時を満たす

今が

伝承として語られんこと

《大地、それだけで充分だ》

○英訳
Pleasant to the ear
The myth of tomorrow

I would rather
gush out my flesh
jus

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2023.07.22 詩 登山

2023.07.22 詩 登山

韻律の夏

錆びれた橋の欄干に

震えながら

浸透する

9月1日がくる前

名も知らぬ

汗にまじる

吃り

三年の間

繰り返す

頂からの



そして、

額に受けた

一滴の目薬

遮ることのない

黄昏の火が映る

2023.07.16 詩 青い

2023.07.16 詩 青い

深みを増す父の肋

青い陰


若き張のある肉は

削ぎ落とされる


溝の深く深く

その更に奥へ奥へ


陰さらに濃く

群青へ向かう

映画「として」~ジャン·リュック·ゴダール『ゴダールの決別』 感想~

映画「として」~ジャン·リュック·ゴダール『ゴダールの決別』 感想~

音は音「として」。映像は映像「として」。「として」存在する全ての前に立ち尽くす。ただ立ち尽くす。


「ために」ではない。物を語る「ために」映像はなく、区切る「ために」音はなく、説明の「ために」映画を観るのではない。


映画館という場の、スクリーンという壁の前で、私たちは椅子に腰掛け、映像を見て、そして、音を聴いている。ただ、それだけが明確に存在している。


銀幕で名を馳せた俳優も、一人

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2023.07.03 詩  歌

2023.07.03 詩  歌

全てを真綿で包み

天上の微笑にも似た

この白い病に対峙して

マッチを一本擦り

立ったまま

眠りから醒める

その血潮を 

浴びせかけていかなければならない

全てを平に均し

善き魂かのように振る舞うもの

全て

その全てを

拒絶していかなければならない

弾け飛ばすのである

筋肉の筋一本たりとも

この踏み締める

脚や

拳を