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赤裸々なブックレビュー

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本を読む時間のない方はぜひ「パン」と「スープ」を

本を読む時間のない方はぜひ「パン」と「スープ」を

↓が店頭に並んでいます。

出版社はKADOKAWAで著者は柴田ケイコさん。待望のシリーズ第6弾です。

去年も同じ時期に「パンどろぼうとほっかほっカー」が出ています。2年前の「パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち」も9月8日発売でした。

「9月といえばパンどろぼう」が定着してきた印象を受けます。ぜひ継続してほしい。どれか買ってみようかな。

ところで、少し前に「なぜ働いていると本が読めなくな

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いま紹介したい「佐々涼子さん」の名著

いま紹介したい「佐々涼子さん」の名著

お会いしたことはありません。

著書の内容や文体から「この人は熱いし信用できる」「末端が日々接する理不尽の実態をわかっている書き手だ」と感じていました。実際、読む前と後で世の中や人間(己も含む)に対する見方が一変する名著ばかりです。

最も印象深いのは、2014年に発売された↓でしょうか。

出版社は早川書房。2017年に文庫版も出ています。

初読時に読書メーターへ記したレビューを紹介させてくだ

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ハードボイルド書店員の「すべての始まり」になった一冊

ハードボイルド書店員の「すべての始まり」になった一冊

来月13日に↓が出ます。

収録作は八篇。オススメをひとつ挙げるなら「女の決闘」でしょうか。斬新なものを書こうとしていた初期の太宰の意向に、中期に至って磨かれた技巧がようやく追いつき、生まれた前衛芸術です。

6月に発売された↓も気になって仕方ない。

処女短編集です。にもかかわらず「晩年」と名づけた事実が当時の苦境を物語っている。

多くの人がそうであるように、私が太宰に夢中になったきっかけは「

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「失われた時を求めて」を巡る冒険⑧

「失われた時を求めて」を巡る冒険⑧

↓を読了しました。

巻の大半を占めるのは、ゲルマント侯爵夫人邸で催された晩餐会。なかなかの苦行でした。

本を読み慣れていない頃だったら、確実に投げ出していたはず。「魔の山」や「白鯨」で味わったことのある感覚だったゆえ、どうにか最終ページまで辿り着くことができました。

「なぜこんなに響かないのか」と悩み、己の無知に原因を求めてしまう部分もなくはない。当時の文化やフランス史に詳しくないのは事実な

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「2025年大河ドラマ」の予習にオススメの二冊

「2025年大河ドラマ」の予習にオススメの二冊

早いものでもう8月中旬です。

9月になると来年用の手帳やカレンダー、家計簿がごっそり入ってきます。おそらく全国の書店員が「今年もそろそろか」と感じるはず。

来年用といえば、NHKの大河ドラマ関連。2025年は蔦屋重三郎が主人公を務める「べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~」です。

NHK出版のドラマガイド前編は、例年12月下旬の発売です。しかしそれまでにも各出版社がいろいろ出してくるはず。

前から

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「失われた時を求めて」を巡る冒険⑦

「失われた時を求めて」を巡る冒険⑦

↓を読了しました。

ヴィルパリジ侯爵夫人のサロン。そこに集った人々の様子をプルーストは冷徹な筆で描き出します。たとえばこのように。

たしかにそういうものかなと感じました。裕福な大貴婦人に限らず。

思春期の頃、女性にまったく関心がない風を装っていたことがあります。硬派に振る舞いつつ、でも内心では彼女たちの目に己の一挙手一投足がどう映っているか気になって仕方なかった。いま思うと、これはまさに「気

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「本を読む気がしない」方へオススメの2冊

「本を読む気がしない」方へオススメの2冊

連日暑いですね。

夜中に目が覚めることが多く、おかげでボーっとしがち。せっかくの休日も無為に時間を過ごしてしまいます。

読書界隈では「こういう時こそ部屋を涼しくして、普段は読めない大作に挑もう」みたいな話が出ているようです。それこそ話題沸騰のガブリエル・ガルシア=マルケス「百年の孤独」(新潮文庫)とか。

たしかにそういう考え方もあります。ただ、私も全14巻のプルースト「失われた時を求めて」(

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「失われた時を求めて」を巡る冒険⑥

「失われた時を求めて」を巡る冒険⑥

↓を読了しました。

この巻で関心を抱いたのは、1894年に起きた「ドレフュス事件」です。

学生の頃、世界史が苦手でした。あちこちへ視点が飛び、馴染みの薄い人物が大半だから。

一方で字面のインパクトが頭に焼き付いているエピソードもなくはない。「ドレフュス事件」もそのひとつです(他は「カノッサの屈辱」や「テルミドールの反動」など)。

ドレフュスは1906年に無罪判決を受けます。つまり冤罪。しか

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「失われた時を求めて」を巡る冒険⑤

「失われた時を求めて」を巡る冒険⑤

↓を読了しました。

704ページ。しかしまだ序盤なのです。

4巻の肝は主人公とアルベルチーヌの出会い、新たな恋の始まりでしょう。いまの自分が読むと、無邪気な言動や行動で他人を振り回す彼女よりも、気配りができて頭脳明晰なアンドレに目が向く。でも「私」と同じ年代の男性がアルベルチーヌみたいな子に惹かれるのも理解できます。

19世紀後半のフランスが舞台の物語に、現代日本における「恋愛あるある」を見

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イチ書店員が記す「2024年新潮文庫の100冊」に関するあれこれ

イチ書店員が記す「2024年新潮文庫の100冊」に関するあれこれ

先日お客さんが↓を買いに来ました。

こちらは「2024年新潮文庫の100冊」に入っているので、特典である「ステンドグラスしおり」をお渡しできます。しかしカウンターへ置かれたものには「新潮文庫の100冊」という帯が付いていない。フェア台へ積まれたものではなく、前から元棚にあるものを手に取られたのでしょう。

私の職場では、フェアの帯が付いた本か、8種類ある「2024年プレミアムカバー」のいずれかを

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「失われた時を求めて」を巡る冒険④

「失われた時を求めて」を巡る冒険④

数日前に↓を読了しました。

元・大使のノルポワ侯爵という人が出てきます。いささか保守的とはいえ、海外を渡り歩き、各国の有力者と交際してきたがゆえの知見に富み、様々なジャンルに一家言を持つエリートです。

しかし知らないことや詳しくないことをそうと告白せず、すべてを古い物差しで測ってしまう弱点が少しずつ浮き彫りになってくる。評価の定まった名作には鋭い見解を示すけど、現代作家についてはピントのずれた

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「失われた時を求めて」を巡る冒険③

「失われた時を求めて」を巡る冒険③

数日前に↓を読了しました。

とにかく「スワンの恋」が生々しい。主観的な思い込みや芸術作品との偶然の一致に運命を感じ、燃え上がる姿に学生時代の苦い記憶をちくちくと刺激されました。最初の印象が良くない方が逆に、みたいな現象にも既視感を覚えます。

すでに1巻を読んでいるから、株式仲買人の息子であるスワンと元・高級娼婦のオデットが結婚することは知っています。でもオデットは平気で嘘を吐き、スワンも素晴ら

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ずっと「○○○○」であり続けたいから

ずっと「○○○○」であり続けたいから

↓を読了しました。

西郷隆盛といえば、明治政府の急激な欧米化政策に反発した不平士族に担がれ、西南戦争を起こしたイメージ。しかし彼は必ずしも近代化それ自体に反発していたわけではなく、たとえば福澤諭吉「文明論之概略」を読むことを周囲の者に勧めていたとか。

あと興味を惹かれたのは西南戦争時における新聞各社の対応。政府の情報統制に従って事実とは異なる報道をする会社がある一方、過激な論調を繰り返して反乱

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「本屋に『○○○』は必要か?」を考えさせてくれた一冊

「本屋に『○○○』は必要か?」を考えさせてくれた一冊

何度となくオススメ本について書いています。

私のnoteがキッカケで読んだ、購入したという方が時折いらっしゃいます。嬉しいです。いい本だから多くの人に届けたい。そんな想いを込めて発信しているので。

一方で懸念していることもあります。それは「万が一、このnoteがキッカケである本がバズったら」ということ。

著者や出版社、あと大型書店の経営陣は大歓迎でしょう。でもお店の最前線で働く身からすると必

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