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#小説

小説 日輪 10

小説 日輪 10

 太陽が照りつける暑い夏が訪れた。抗癌剤治療が終わり、体調が落ち着いたところで次は腫瘍を取り除く手術が行われる。八月の上旬、手術説明を受けるため、紗季や義母と一緒に病院へ向かった。

 正面玄関を入り、二階の乳腺外科で受付を済ませる。相変わらずとても混み合っていて、せわしなく、それでいて冷たい空気が充満していた。
 

 ひと山越したせいか、前回ここに訪れた時よりも遥かに気持ちは落ち着いていた。紗

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夜にしがみついて(1998〜1999)

夜にしがみついて(1998〜1999)

ちょっと前、クリープハイプの「ナイトオンザプラネット」がラジオでよくかかっていた。
映画の主題歌だったが、特定の年齢の人間は、心の奥底にしまっていたものを、ぎゅっと掴まれてしまったのではないだろうか。

2022年の私は「エモ」がしんどいと思っていた。

今の私の生活。仕事、子供、受験、家事(最低限の)。

子供のスケジュール管理が大変で、仕事でミスることすらある。心も体も余裕がないから、そこにエ

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【随筆】STAY GOLDを忘れない

【随筆】STAY GOLDを忘れない

パーソナルスペースなんてクソくらえ。どこを見渡しても肉の壁。
そして大量の汗と唾液の体液コラボレーション。

おまけに狂ったような叫び声と轟音。

「なぜ、そんなすぐ跳べる!?」と丸ゴリもビックリの狂ったように飛び跳ねるたくさんの桜木花道とヤンキーたち。

そんな箱詰めされた人々。

神輿とは違いマグロか人間魚雷か、はたまた神を気取っているのか分からないが、どこからか現れる彼らを半ば強制的に持ち上

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村上春樹『パン屋再襲撃』

村上春樹『パン屋再襲撃』

こんにちは。
何かが狂っているかのような暑さに、
村上春樹の短編集『象の消滅』を手に取りました。

黄色い本です。

この中に収められている『パン屋再襲撃』を、読みます。

パン屋を襲撃するなんて、正気の沙汰とは思えませんが、
狂った夏にはちょうど良いかもしれません。

ページ数にして約17ページ、
小さいけれど、ぎっしりと餡子の詰まった鯛焼きみたいに
食べ応えのある作品です。

「再襲撃」という

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ただのファンの一人です

ただのファンの一人です

仕事が終わってしばらくすると
私のミュージックプレイヤーを見て
先輩が少し不思議そうにした。

「ねぇ、留美子ちゃん。
この人達だれ??」

私が聞いていた音楽のタイトルを
目をこらして見る先輩。

「あー!!すみませんっ!!

職務中に音楽聞くとか
やっぱ、ダメですよねっ?!」

「あ、ううん、それは良いのよ。

今は休憩の時間だし、
留美子ちゃん、仕事終わってるし。

ただ、音漏れて聞こえてて

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『ぽぽるちん』

『ぽぽるちん』

んふ♪ 

ぽぽるちんて おなまえなの

にゅうよっく とか あめりかの こども みたくて

ゃあだなぁ こんな おなまえ まぢ で!

ままちんがね いってたん だけどぉ

はぢめの はぢめ はね

たんぽぽちん に ちゅるちゅもり だったんだって

だけ どぉ うんせーが わるいくなるから

ぽぽるちんて おなまえに ちたんだって

たんぽぽちんのほが よかったのになぁ まぢ で!

ちよこの

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虚構の世界

虚構の世界

【虚構の世界】

マリエさんのインスタがどうだって、大騒ぎになっているらしい。

うーん。

芸能界って難しいな。

何か知らんけど、昔チェッカーズのファンやったんやでーって、誰かに説明した時にチェッカーズの動画を出したら、そこから解散コンサートとか、解散の理由とか、暴露本とかそんなネタが出てきて

なんだかなぁ、という気分になった。

いや、いろいろあるのはわかるんだけど、

難しいなぁ、と思う

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缶チューハイと桜と涙

缶チューハイと桜と涙

last

チアキくんが辞めてすぐ、新しく高校生の女の子がふたり店に入った。夕方の勤務時間帯が被ることも多く、人に教えるという行為を初めて経験してわたしは、これまでとは違う魅力ややりがいをバイトに見出すようになった。

その日も、夜勤のイチカワさんと顔を合わすことにはなったものの、ペアになった高校生の子と忙しい時間を過ごし、頭の中は充実していた。退勤したあと、いつもの道を家に向かって歩いていると、

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ショートショート『密の味』

ショートショート『密の味』

この先の世界のことをぼんやりと考えていたら、こんな物語になりました。

 立錐の余地もない、という状態を久しぶりに見た。狭い空間に集まっているのは、全部で二百二十四名。みんなステージに眼を向け、欲望を剥き出しにしている。私は唾棄したくなる気持ちを抑えながら、彼らを観察した。
 ステージの照明が一斉に消えると、期待の籠もった歓声があがる。その後にスポットライトがひとつ灯って、中央に立つ男を照らしだし

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