渡邉有

読書が好きな40代です。ミステリー、ホラー、戦前の小説が大好きです。お気に入りの本の感…

渡邉有

読書が好きな40代です。ミステリー、ホラー、戦前の小説が大好きです。お気に入りの本の感想や自身で書いた小説などを投稿していきたいと思います。

マガジン

  • 読書感想文

    思うがまま感想を書き連ねています

  • 小説 月に背いて

    note創作大賞2024 恋愛小説部門応募作です

  • 小説 日輪

    note創作大賞2024 お仕事小説部門応募作です

  • 掌編小説

    ワタナベワールド全開の掌編達です。

  • 小説 弦月

    創作大賞2023恋愛小説部門 中間選考通過作品です。時間軸を超えて過去と現在の熱情が交錯する物語。宿世の業と自由意志について書きました。

最近の記事

  • 固定された記事

小説 月に背いて 1

 スマートフォンの着信音が鳴る。私は目を閉じて、彼の声の響きを聞いていた。それはまるで深い深い海の底にいるように、無機質で乾いた声だった。 「これから行ってもいいか?」と彼は言う。いいよと私は答える。  彼が私の体の輪郭をなぞるたびに、このまま消えてしまいたくなる。私は見えない鎖で繋がれている。私の心はその鎖につながれたまま、どこまでも彼と歩調を共にしなければならない。触れている冷たい肌の感触は間違いなく彼のものなのに、実体は、魂は、ここにはない。どんなに手を伸ばしても私

    • 雑記(日帰り温泉へ行く)

       今日は家族で山奥の日帰り温泉へ行ってきました。渓流沿いにある絶景露天風呂目当てに。  まず、地元で有名な蕎麦屋で田舎そばを食べました。開店30分前からすでに長蛇の列…。  蕎麦殻が多く、硬くて歯ごたえ抜群の蕎麦は珍しいので、人気なのも納得です。美味しくて感動。更科そばとは違い、ツブツブが残る食感が娘には合わなかったようですが。  昼食後、日帰り温泉に到着。そんなに混んでなくて良かったです。ここは冬はスキー客、夏は登山客で賑わうようです。今どき大人650円。物価高騰祭り

      • 海にプチ旅行

         娘が「海で泳ぎたい!!」と言い出しまして、家族で新潟県にプチ旅行してきました。  海水浴なんて何年ぶりでしょう。ラッシュガードを着込み、日焼け止めを何層にも塗り重ねて、いざ出陣! 混んでないし、波は穏やかだし、とても癒されました。やっぱり海は特別ですね。  私は海なし県で生まれ育ち、小学6年生の時の臨海学校まで、海を見たことがありませんでした(世の中にはこんな人間もいるんですよ!) なので、いまだに波打ち際に立つと、「日本の果てまで来てしまった…!」と胸が熱くなるので

        • 最近読んだ本の感想②

          小説投稿期間中と投稿後に読んだ小説の感想を書こうと思い立ったはいいものの。 おやおや??私何読んだんだっけ?と思い出せない始末。 Blueskyで確認したら意外にたくさん読んでました。その中で印象に残ったものをご紹介したいと思います。 安部公房「箱男」 タイトル通り、段ボール箱をかぶり生活する人間の話。な、難解でトチ狂ってる…。視点が錯綜するので、現実と虚構の境目がわからない。さらに、窃視などのフェチズム描写が臨場感にあふれていて、息遣いまで感じられそう。圧倒的。でもそこ

        • 固定された記事

        小説 月に背いて 1

        マガジン

        • 読書感想文
          124本
        • 小説 月に背いて
          15本
        • 小説 日輪
          16本
        • 掌編小説
          9本
        • 小説 弦月
          12本
        • 短編小説アナザーワールド
          2本

        記事

          感想をいただきました!③

           海人さんに「日輪」をご紹介いただきました。  海人さんは私がnoteを始めた頃からフォローさせていただいています。彼女のフォロワー様はご存知だと思いますが、本当にありとあらゆる小説を読んでいらっしゃいます。特に近代文学、英米文学に非常に明るい方です。  そんな方に感想をいただいて、光栄の極みです。ありがとうございます。 「日輪」は、noteに投稿する前に、主人公を変更したり大幅な加筆修正をしました。起伏の少ない、緩急に乏しい小説だと自覚していたので、少しでも読者の方に

          感想をいただきました!③

          感想をいただきました!②

           パッパルデッレさんが「月に背いて」の感想を書いてくださいました。    パッパルデッレさんは私がnoteを始めた初期からフォローさせていただいている方です。近代文学、現代文学、さらには近代史など、幅広い知識と教養を持つ方です。年代問わずあらゆるジャンルの作家に精通しておられ、文学に造詣が深いのです。時々おすすめの小説を教えてもらっています。  それにしてもですね、裏設定を丁寧に考察してくださっていて、すごい感性と読解力だなあ〜、と感動しました。  正直、「月に背いて」

          感想をいただきました!②

          河童忌

           今日は河童忌。芥川龍之介の命日です。私は芥川龍之介が大好きです。気に入っているいくつかの短編を阿呆みたいに何回も読み返しています。  芥川にハマったきっかけは「歯車」です。半分は遺稿であるこの小説の、悲しい狂気に激しく魅せられて、以降芥川作品を読みふけるようになりました。  当時青空文庫には小品や随筆を含めた芥川の作品が250くらい公開されていて、(今はもっと多いかも)それを毎日順番に読みました。全て読み終わったあと、またはじめから読みました。3巡しました。そのなかで自

          雑記(最近買った本④)

           最近購入した本達です。近所の書店よりもブックオフの方が遥かに品揃えが良く、最近はブックオフばかり行ってます。そこまで読みたいと思っていなくても、110円だとつい買ってしまう…。 ちゃっかり「うしおととら」も混ざってます。「からくりサーカス」は読んだことあるけど、うしおととらは初見。私は少年漫画が大好きです。普遍的なテーマを魅力的なキャラを通して躍動的にえがいているところが素敵です。勇気、友情、フェアプレイ、仲間、愛!!みたいな。それに比べて純文学ってなんであんなに暗いんだ

          雑記(最近買った本④)

          雑記(乳がん検診を受ける)

          近所の病院で乳がん検診を受けてきました。自治体の検診です。 予約しなくてもすぐ診てもらえるし、空いてるし、田舎って素敵だなあ。 まずマンモグラフィを撮りました。女性の放射線技師さんが丁寧に対応してくださいました。なんだかよくわからない方向におっぱいを引っ張られたり、凄まじい圧力を加えられたりしながら、無事に撮影が終わりました。  私は日輪あとがきで書いた総合病院で働いている時、放射線治療室に入ることがあり、その時は空き時間によく放射線技師さん達とおしゃべりしたなあ…と思

          雑記(乳がん検診を受ける)

          読書感想 藤田和日郎さん 読者ハ読ムナ(笑)

          「うしおととら」、「からくりサーカス」を描いた漫画家、藤田和日郎さんの新人アシスタントの育成術の本です。藤田先生の物語創作術がアツく語られています。あくまでも少年漫画の創作論ですが、小説にも通じるものがあります。    本書は、藤田先生と、「うしおととら」の初期の担当編集者飯田一史さんが、架空の新人アシスタントに対して週刊連載を獲得するためのアドバイスをそれぞれ行っていく、という形式で書かれてます。実際、藤田先生の仕事場からはプロ漫画家が多数輩出されているようですね。

          読書感想 藤田和日郎さん 読者ハ読ムナ(笑)

          創作大賞感想 吉穂みらいさん「眠る女」

           吉穂みらいさんの昨年の創作大賞応募作品です。    そして今年の応募作、「眠る女」もこれまた素晴らしいので、今回も感想を書かせていただきます!    睡眠障害を患う女性が経験した、不思議な出来事についての物語です。  性交渉のない夫婦関係に虚しさを覚えながら、大学時代の友人カオルと逢瀬を重ねてしまう主人公、葵。ただしそれは体だけの関係で恋愛感情はない。気持ちを持て余す葵は不眠に苦しんでいたが、夫時生の失踪と同時に、今度は過眠になってしまう。4日間眠り続けて栄養失調と

          創作大賞感想 吉穂みらいさん「眠る女」

          感想をいただきました!

           吉穂みらいさんからご紹介いただきました。大先輩noter様です。数々の素晴らしい作品を書いていらっしゃいます。 「月に背いて」と「日輪」について、深く考察してくださっています。キレのある考察に加えて、それをまとめ上げる文章構成力に脱帽です。うるうるしながら読みました。あ〜、書いて良かったな、noteに投稿して良かったな、と思いました。感無量です。本当にありがとうございます。  吉穂さんも創作大賞に応募なさっています。不思議な余韻の残る、素敵な物語です。近いうちに感想を書

          感想をいただきました!

          「日輪」あとがきのようなもの

           「日輪」を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。心から感謝申し上げます。  まず最初にお伝えしたいことがあります。まえがきにも書いた通り、この作品はフィクションです。乳癌の治療は個人により異なります。その点をご了承いただけますと幸いです。  また、医療現場の描写についてですが。 私は一昨年まで約10年間、総合病院の外来でパートをしていまして、色んな診療科を担当しました。(散々こき使われました…)なかでも乳腺外科外来と放射線治療科に入ることが多かったのです。

          「日輪」あとがきのようなもの

          小説 日輪 16(最終話)

           翌日は朝から雲一つない晴天で、風が強かった。十月の乾いた風を全身に受け止め、紗季の手を引いて駐車場から病院へゆっくり歩を進める。この手だけは何があっても絶対に離してはいけないと思いながら。  自分の頭上にはどこまでも奥深い蒼空が音もなく覆いかかっていた。この空は何色なのかとぼんやり思う。すれ違う人達が振り返って僕達を見るのがわかった。皆これから仕事なり学校なりへ行き、せわしない一日を過ごすのだろう。  MRI待合室の長椅子で順番を待つあいだ、生きた心地が全くしなくて、二

          小説 日輪 16(最終話)

          漫画 うみべのストーブ

           小説投稿中ですけど、次回最終話なんですけど、ある漫画を読んだらまたしても胸が苦しくなり、吐き出さずにはいられなくなりました。  SNSで紹介されていて興味を持ち、購入しました。大白小蟹さんの漫画「うみべのストーブ」です。このマンガがすごい!2024 オンナ編第一位だそうです。7つの短編が収録されています。  物語が大きく展開するわけではなく、ストーリー性に乏しい短編ばかりなのですが、心の隙間をついてくる丁寧で優しい描写が秀逸なのです。 「ああ、こういう気持ちになることあ

          漫画 うみべのストーブ

          小説 日輪 15

           翌日の早朝、紗季から電話がかかってきた。頭痛に加えて今朝からは吐き気も続いていると言い、涙声で何度も謝っている。僕は朝一番に病院に電話をかけ、放射線治療室の看護師に紗季の症状を伝えた。すると、医師に相談してくれたようで、すぐに来てくださいと言われた。  仕事は有休をもらって、車で紗季の実家に向かった。紗季は義母に肩を抱かれ、真っ青な顔をして車に乗り込んできた。口元にハンカチを当てている。 「お願いしますね。紗季が私は付き添わなくていいって言うから」  義母は苦しそうな

          小説 日輪 15