中世の動物寓話集(サークル・オブ・ライフ)
今回は、インパクト大の画像から。
ネトフリにあるドラマ・シリーズの広告。このドラマを観たことがないのに、画像を出した理由は、この言葉 Bestiary にある。
Bestiary(ベスティアリ)動物寓意譚(どうぶつぐういたん)。
寓話の寓に、譚=物語。12世紀~13世紀に、イングランドやフランスで流行していた、動物の寓意集の総称だ。
さまざまな動物・植物・鉱物の特徴や習性と、キリスト教的教訓とをむすびつけ、そこに寓意や風刺をこめるという内容だった。
ベスティアリでは、それぞれの動物の宗教的意味に、焦点があてられていた。しかし、人々に、キリスト教的なインスピレーションを与えただけではなかった。幻想的な生き物の物語を読んだり絵を見たりすることは、よい娯楽となった。
当時のいろいろな芸術形態に、それらのモチーフを発見することができる。
ドラゴンやユニコーンやセイレーン(人魚)。現代の私たちも、みんな、これらを知っている。途絶えることなく語り継がれ、好まれ続けているということだ。
ベスティアリには、実在/架空を問わず、百種類以上の生き物が描かれている。
多くのベスティアリは、陸の動物・空の動物・海の動物・ヘビ、などのジャンルにわかれている。
それぞれ解説していく。
ベスティアリで、ライオンは、獣の王として描かれる。そのため、ベスティアリの一番はじめに配置されるのが、常だ。
紀元前8世紀にはすでに、ホメロスが、ライオンを獣たちの王と表現していた。
このアイディアの起源について、あらゆる説がとなえられているのだが。個人的には、そのどれもが正しいような気もするし、そのどれもが決め手に欠けるような気もする。
マサイ族の戦士たちは、以下のように語る。
ライオンは、口を大きく開けながら、獲物に向かって突進する。タイミングをあわせ、うまく口に槍を向けることができれば、案外簡単に殺せる。ライオンとは、そういう生き物だ。
そんな彼らが、ヒョウのことは、決して過小評価しない。
目の前にいるヒョウは、次の瞬間、消える。3秒後には、上からおそいかかってくると。柄がファッショナブルだからかもしれないが。アフリカの強者や権力者が身にまとうのは、ヒョウの毛皮ばかりだ。
この動画の中でも、「俺はライオンを倒した。彼もライオンを倒した。彼も彼も……」と言っている。
正直、けっこう大勢の人がライオンには勝っているのだなと、思ってしまった。成人の儀式が、ライオン狩りからヒョウ狩りに変わることは、きっとないのだろう。
話がそれた。ベスティアリの話に戻る。
一番下の絵に注目してほしい。親ライオンが子ライオンに、息を吹きかけている。
ベスティアリによると。ライオンの子は死んで生まれる。3日後に、親が命を与える。
「死んで生まれる」のパワー・ワードに、どんな哲学かと、ツッコミたくなるのはわかるが。これには、ちゃんと理由がある。
キリストの十字架刑と、その3日後の復活を反映した描写なのだ。
典型的なベスティアリでは、ライオンの後に、陸上の動物を紹介するセクションがくる。
ユニコーンは、ベスティアリの中で、森の乙女(?) にしかつかまえられない獣とされている。
ユニコーンは、乙女と出会うと、おとなしくなる。これにより、猟師からの攻撃を受けやすくなってしまう。
これは、受肉(キリストが聖母マリアの胎内に宿り、人間となり、死に対して弱くなった瞬間)を象徴している。つまり、ユニコーンはキリストを、乙女は聖母マリアを表している。
乙女を好むという設定から、騎士道物語の中にも、ユニコーンがよく登場するようになった。宗教的なシンボルから、宮廷恋愛のそれへと。
騎士道の物語って恋愛系の話なの?と気になった人は、この回を読んで。全力解説してある。
下の獣は、長い角を独立して動かすことができる。前方と後方、二重の脅威から、身を守ることができる。
イラストの角が、テキスト部分を “切り裂いて” いる。このような、イメージとテキストを両方活用した表現は、ベスティアリの1つの特徴である。
ライオンが獣の王として描かれるように、ワシは鳥類の頂点として描かれる。
ワシは年をとると視力を失うが、太陽を見つめることで若返る、と語られている。
老い木に花咲くーーか。いい話だね。
青年よ、大志を抱け。中年も、大志を抱け。
本当の勇気を見せてくれたら……
すごくわかる。私はそういう人が好きだから。
世阿弥『風姿花伝』の第一章「年来稽古条々」などについて、詳しく解説した回。
グリフィンは、中世最初の百科事典『花の書』に書かれている、数少ない「動物」の1つである。
ライオンとワシの雑種という、架空の生き物。
グリフィンは、若者を養うために成長した人間を連れ去る、と信じられていた。
若者とは、子グリフィンのことだと解釈して、よいのだろうか。もしそうでないのなら、成田説が浮上する。 😅
ベスティアリには、へビも、よく登場する。
陸海空ヘビ。この作品でも、カーだけは特別・カーはジャングルと同じくらいの年齢、という描写がある。
ドラゴンはヘビ界の王であると。文章(ドラゴンの尾の力を説明する部分)をななめに横切り、火をふいている。
リマスター版を記念して。キャストとスタッフが語るこの作品のメッセージ性が、改めて紹介されている動画。
ベスティアリの最後のセクションは、通常、海の生物をとりあつかう。
巨大な魚が、船乗り2人を危険な目にあわせている。
航海は、常に危険をともなうもので。たとえば突然の嵐は、少なくない数の乗組員を、帰らぬ人にしたのだろう。
海の生き物にとっては、大海は遊び場だが。いや、人間にとっても、魅力的な場所なのだが。時に、残酷なことが起きる。まぁ、それは、人生と同じだよな。(私の意訳)
と、人生の荒波的なことが書いてある。
フランス語でイルカと書いてあるが。これは、どうやら、クジラの話らしい。
イルカという言葉がダイレクトにイルカを表すようになったのは、14世紀から。それまでは、さまざまな種類の海洋哺乳類を表す言葉だった。さらなる語源は、子宮を意味する言葉だ。哺乳類だからね。
絵に、白い腹部が見てとれる。クジラだ。
このタペストリーでは、バラの木(なのだそう)がつくる三角形の中に、ユニコーンやライオンが並ぶように配置されている。
これは、三位一体(ホーリー・トリニティー)である。
貿易などがさかんになり、西ヨーロッパと世界の他の地域とのむすびつきが強まったことで、ヨーロッパの人々の世界観は広がっていった。
ベスティアリが最も流行した1100年から1300年頃は、あらゆる知識を集めた百科事典をつくろうとしていた時期と、合致する。
発達しつつあった地図づくりの分野では、地図と航海図の上に、それぞれの地域の生き物が表現された。
中世の地図は、南を左・北を右、とすることが多かった。海図で、アフリカを表す左側の部分に、多くの動物が描かれている。
遠く離れた土地はエキゾチックだ。興味をそそられる対象であるのはたしかだが、未知の危険がひそんでいるかもしれないーーという、中世の認識を反映していたか。
さて。ここからは、「現実は小説より奇なり」の実例を紹介していく。
北米北東部に生息するアンビストマ・サラマンダー(トラフサンショウウオ)の、一部のメスは、オスの存在に左右されない繁殖方法をもっている。
彼女らは、オスのDNAを卵の授精に使うのではなく、自分自身のゲノムに加える。
春、サンショウウオのオスは、湿地に精子の袋を残す。一部のトラフサンショウウオのメスは、精子を探し出し、それを自分の生殖器に吸収する。その方法で、遺伝物質を子孫に組みこむことも、クローンを作成することもできる。
詳しく解明されていない部分があろうが。その「メスだけの村」は、500万年前から存続し続けている。
チーム「斗羅婦産勝宇王」は、必ずどこかでいきづまるーーと考えている学者もいるようだが。不自由していないどころか、大いに繁栄しているようにしか見えない。
ある実験の結果。
トラフサンショウウオの内、メスのみで繁殖する集団と・オスメスで生殖する集団で、切断された尾が再生される速さを比較。前者の再生は後者の再生より、1.5倍速かった。
複数他種のオスのDNAをとりこみ、彼女らのゲノムは、ごちゃ混ぜになっている可能性。彼女らの中には、2本1対ではなく、3本あるいは4本1組の染色体をもつ者が存在する。
DNAが余分にあれば、多くの遺伝子をコピーしなければならない。よって、そのコピーを助けるタンパク質も、多くもっているはずだ。
再生の速さについて、一応、これで筋は通る。
一方、瞬発力や持久力のテストでは。両者の優劣の結果は、ひっくり返った。
メキシコとアメリカ南西部の砂漠や草原に生息する、ミナミバッタネズミは、ありとあらゆるものを襲い・殺し・食べる。サソリでさえ食べる。
人間を死にいたらしめることもある毒を発する、サソリに刺されても。このネズミは、傷口をほんの数秒なめるだけで、すぐさま反撃を開始する。
サソリは最期の力をふりしぼり、何度も刺す。ミナミバッタネズミがそれで食事を中断することは、決してない。
毒が効かないだけではないのだ。ミナミバッタネズミの体内にこのサソリの毒が入ると、痛みの伝達が遮断され、鎮痛剤として働き出す。
これでは、サソリは、敵に(毒でなく)塩を送っていることになる 。
刺された人間の感想はこう。「まず火のついたタバコを押しつけられ、次にそこをクギでつらぬかれたら、きっと、こんな痛みなのだろう」
アフリカレンカク
その長い足指で、体重をより広い面に分散させ、水面の葉の上などを歩くことができる。「ジーザス・バード」というニックネームがついている。それこそ、ベスティアリに載せるのに、ぴったりではないか。
ほとんどの生物では、メスの方が、生殖に多くの投資をするが。一部の種類のレンカクは、そうではない。
さまざまな雌雄逆転。アフリカレンカクは、メスの方が、体が大きく・攻撃的で・翼のトゲ(翼からつき出たケラチン質の武器)も大ぶり。さらに、複数のパートナーをもち・オスをうばいあい・ナワバリを守る。
メスが出産に要する時間は、約3週間。オスは、シングル・ファザーに近い状態で、4ヶ月ほど子育てをする。
羽の下にヒナを隠し、守ることができる。オスにしかない特殊な翼の骨の、なせる技である。
オールドワールドフルーツコウモリは、アフリカ、ユーラシア、オセアニアの熱帯・亜熱帯に生息するコウモリで、200種ほどいる。
(メガバットとも呼ばれるが、その1/3は、メガサイズではない)
彼ら彼女らは、長い舌をもっている。それで、花のミツをすするだけではない。交尾の前後や最中に、オーラル・セックスをするのだ。いわゆる前戯が長いほど、性交自体も長くなる傾向がある。受精の確率が上がる。
オス同士でフェラチオをする者もいる。
コウモリは、強化されたDNA修復経路によって、自分自身のDNAを守る。他の哺乳類とは異なり、コウモリは、全面的な炎症反応によって病原菌を全滅させようとしない。
コウモリが、SARS・中東呼吸器症候群・ニパウイルス・ヘンドラウイルス・(おそらく)エボラ出血熱などの新興ウイルスの、貯蔵庫である理由だ。
いかに人類にとって不都合かろうが、これはまぎれもなく、この生き物が獲得した特殊技能である。
生息地や食料の不足によって、強いストレスにさらされたり・栄養失調におちいったりすると、病原菌を排出しやすくなる。……言いたいことわかるよね。
ヨーロッパ、アジア、北アフリカで、一般的に見られる、モンシロチョウ。
その幼虫に、体長5mmほどの、黒いハチ(羽アリのようにも見える)が近づく。
体内に、数十個の卵を産みつける。
体を表す名で、シロチョウ寄生バチである。
この繁殖戦略を採用している種は、他にも、多数存在する。Koinobiont(コイノビオント)と呼ばれる、飼い殺し型の寄生様式だ。より進化した/派生的なグループに、多く見られる。
エメラルド・ゴキブリ・スズメバチが有名か。おそらく、名前にインパクトがありすぎて笑。
他力本願!こちらから画像をお借りした。
説明もイラストもすごくお上手だ。
この話にはまだ続きがある。話の続きには、リジビアナナという別のハチが、登場する。
リジビアナナは、モンシロチョウに寄生するハチの幼虫の中に、卵を産みつける。つまり、シロチョウ寄生バチ寄生バチなのだ。ハイパー・パラサイト。
このサイコパス連続殺人事件には、裏で糸をひいている黒幕がいる。本当の悪事の天才は、相関図に欠かせない存在とは、一体誰なのか。
答えは植物。
① モンシロチョウのイモムシにかじられると、芽キャベツは “Help Me!と叫ぶ”。草食動物誘導性植物揮発性物質と呼ばれる物質を発する。
② シロチョウ寄生バチが、このにおいを察知して飛んでくる。
③ 寄生された幼虫の口腔分泌物は、変化する。寄生された幼虫がかんだ植物からは、寄生されていない幼虫がかんだ植物とは、異なるにおいがする。
④ リジビアナナが、このにおいを嗅ぎつけて飛んでくる。
と、こういうカラクリだったのだ。
『アバター』で、ヒロインが、私たちの祈りがエイワに届いた・エイワが私たちの祈りに答えてくれたと、大喜びするシーンがある。
これは、架空か実在か。オカルトかサイエンスか。
「パンドラ」の木々は、電気信号で交信をしている。化学物質よりも速い。それは、より統合されているということだ。
ここで、ベスティアリに話を戻す。と言っても、一からは書いていられない(文字数がいきすぎる)。詳しくは、この回を読みにいってほしい。
ネイティブ・アメリカンのある部族も、ある種のベスティアリを遺した。
西洋のベスティアリは、発生元が、キリスト教的教えであったが。チェロキー族の寓話は、自然観察の末に、できあがったものである。
影の支配者は植物であるーー彼ら彼女らは、このようなことを知っていた。科学的な検証などなしに、自然とともに生きることから。漠然と、世界の実態を把握していた。
チェロキーの物語から、そのことが、ハッキリと見てとれる。
このように。私たちは、遠い昔からずっと、大切なことが何かはわかっている。わかってはいる。
サークル・オブ・ライフ。調和とバランスだ。
今回は、私にしては珍しく、ディズニー作品を多く貼ることになった。
自然を大切にしなきゃいけないんだね。動物さんのお家をとっちゃいけないんだね。このような会話を親子でかわすことなどの、よいきっかけになる。
大人と小さな子が一緒に観れる作品をたくさんつくってくれて、ありがとう。