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#連載長編小説
明のイントロダクション「カゲロウ」(05)
バーベルを落とすとともに、手を下ろした。上半身には熱気と汗がまとわりついているが、コンプレッションタイプのスポーツウェアはすぐにそれを振り払ってくれる。一仕事終えたのと同じ類の疲労感と達成感を覚えつつ、体を起こす。ベンチプレスの前には腹筋のワークアウトをしたので、体を起こしたとき腹筋に痛みが走った。床のタオルを拾い、顔の汗を拭う。首にタオルを回し、少し顔を下に向けて休んだ。人から疲れた表情を隠す
もっとみる明の3 「ロマンスⅡ」(09)
人を殺害する方法の中でも、絞殺は特に命のぬくもりを感じる殺し方であった。命が消える瞬間を、私ははっきりと認識することが出来るのだ。人の命を三枚におろしてやり、それに舌鼓を打つのが私である。
「遺伝子情報は残ると面倒なんだ」
私は食品工場で使われる作業帽子をかぶる。粘着カーペットクリーナーで自分の毛を丹念に掃除した。普段であればオールバックにしてジェルで固めてあるので、それほどの丹念さが求められ
貫一の1「ハニーポット」(28)
脇腹を何度か刺されたので、血が出ていた。そのままでは生死にかかわるために、止血しながら私は紅葉を電話で呼んだ。移動手段を確保する必要がある。
河原の道を外れた雑草畑の上で私は足をのばしていた。この時間は、福岡市から唐津方面へ向かう車が多く、いつまでも橋の上は混雑していた。ここ数日はずっと晴れていたが、土はまだ湿っていて、腰を下ろすのは心地のいいものではなかったが、応急処置を済ませるためにはこう