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散文詩

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#言葉

水と風の音 《詩》

水と風の音 《詩》

「水と風の音」

遠い昔 

僕等は静かな森の中で

ひっそりと約束を交わした

非現実的な永遠のお伽話

僕は水の音を聴き 

君は風の音を聴く

水面に波紋が広がる 
でも其処に水は無い

木の枝が擦れた様な音がした
でも風は吹いていない

僕等は文化的スラムな街に生まれ

幻想の中の森で出逢った

僕が瞳を閉じ 君が眠る時

水と風の音を聴く 続いている

何もかもが続いている

到着点を示

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悪魔と青く深い海のあいだで 《詩》

悪魔と青く深い海のあいだで 《詩》

「悪魔と青く深い海のあいだで」

その水は何処までも
透明で純粋だったんだ

それを知る者は誰も居ない

灯りすらない夜の闇 

誰かの足音

くだらない
辻褄合わせに僕等は泣いている

銃声の音が聴こえますか

また大切な何かが失われて行く

知らぬ間に

目隠しをしていた愛の調べ

不釣り合いな恋に

傷付くのが怖かった

水平線の向こうには
花は咲いていますか

僕等の話を聞いてください

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善導 《詩》

善導 《詩》

「善導」

其れは無意味で

硬直した幻想でしか無い

四方を囲む幻の壁 

其の中で僕は

単純で一面的な
発想の微笑みを浮かべる

疑心暗鬼を押し殺して

口に出すべき
事柄で無いものの中に真実はある

非論理的で無意味な心の通わぬ善導 

僕は今日も異論はありません 

そう笑って答える

世界の認識なんて知らない 

社会の秩序だってどうでもいい

お前達の事だって興味は無い

僕は自分の

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ジョンレノン 《詩》

ジョンレノン 《詩》

目には見えない程の細かな雨 

白夜の様な清潔な静寂

何処かしら温かみを欠いた
無機質な風が吹く

誠実な靴音を響かせて歩く人

しかし其れは硬く的確に
不透明を排除する音の様に聴こえた

原色が至る所に塗り付けられた

肖像画は難解では無いが

その絵の意味する事柄が

僕には読み取れない

何ひとつとして
怠りの無い光が床に射し込む

違和感は無いが

匿名性を帯びコンセプトを持たない

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言葉 《詩》

言葉 《詩》

「言葉」

非調和性を帯びた不協和音と

トランス状態に似た
微かではあるが確実な狂気

意識と無意識の境目が手招きをする

僕は半円形の世界を見ていた 

其れはただ

見る必要性に迫られたからで

本当に見たいから

見ていた訳じゃ無い

いつしか僕は
現実では無い世界の中に

自分の見たいものを

自分自身で見つけ出した

其処には僕と個人的に

結びついているとしか思えない

そんな言葉が

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静脈 《詩》

静脈 《詩》

「静脈」

時間が不規則に揺らぐ

僕が心の中の牢獄に

閉じ込められている事を

誰も知らない 

其の牢獄を出る事は 簡単だ

自分自身の意志で出てゆけば良い

鍵をかけたのも
鍵を開けるのも全ては自分自身

周りの声達は

もう僕に話しかける事を辞めていた

僕は誰にも

見る事の出来ない風景を睨みつける

其処には枯渇した水脈がある

僕が解き明かすべき暗号を
君は持って居る

現実と仮説

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風を待つ月 《詩》

風を待つ月 《詩》

「風を待つ月」

いつか遠からず其の日はやって来る

長い沈黙の後にそう彼奴は言った

僕は記憶の寿命を延命する様に 

其の断片を永遠に刻み込む様に

時折 
彼奴の言葉を心の中に落とし込む

ジムビームとメンソールと小説と

あの夜 
高速の高架下から見上げた月

僕は意識の中にある

彼奴の扉をノックした

彼奴の愛した最後の女 
そして弟

桜の花びらが結晶化する

永遠を形造るもうひとつ

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方舟と幸せの鐘 《詩》

方舟と幸せの鐘 《詩》

「方舟と幸せの鐘」

心を失くした

深い森の中を彷徨っていた

全ては無音のうちに始まり

邪悪な野獣と

純粋な精霊の吐息を聞いた

不確かな人生の灯りが揺れる

暗い終末の気配を含んだ
湿り気を帯びた風

彼女は方舟…そう一言だけ呟いた

特別な生命の匂いを彼女に感じた

僕等に歌う歌があるとしたなら

僕は漠然とそんな事を考えていた

僕の純粋な仮説が

保留の無い激しい愛を呼ぶ

彼女に

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月明かり 《詩》

月明かり 《詩》

「月明かり」

満月がくまなく街を照らす夜

僕は自分自身が
失われるべき場所のドアを開けた

その場所に君が

閉じ込められている事を

知っていたから

君は残された短い命を慈しむ様に

詩を書いていた

その事だけは僕には 
はっきりとわかっていた

その場所には僕達ふたりしか居ない

そのドアは一方向にしか開かない

僕等は

正しく人を愛する事が出来なかった

そしてまた

自分自身を正

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思考犯罪 《詩》

思考犯罪 《詩》

「思考犯罪」

世界はこの僕に伝えるべき言葉を

何ひとつ持ってはいない

仕組んだ謀略の行方 

謎に満ちた怪文書

霞の様な無気力な世界は

僕とは無縁な場所で
時を刻み続けている

パンドラの箱は既に開けられいる

僕は世界に不足している

パズルピースを

ひとつひとつ探し集めて手に入れた

終わる事の無いゲームは続いている

赤いランダムスターに祈りを捧げた

君の髪がキリストより長くな

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冬の月 《詩》

冬の月 《詩》

「冬の月」

死がふたりを分かつまでは…

そんな言葉を何処かで聞いた

冷気を含んだ丘からの風が
僕の前髪を揺らす 

空は灰色の雲に覆われ

静かに雨が降り始めた

大きくて白い冬の月を見たのは

いったい いつだったろう 

思い出せない

僕は

其の小説を書きあげてはならない

其れは未完成で無くてはならない

姿形を持たない

観念的な象徴の中にだけ

物語は生きている

其れを具現化

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星だけがやけに綺麗に見えた夜 《詩》

星だけがやけに綺麗に見えた夜 《詩》

「星だけがやけに綺麗に見えた夜」

何が原因で何が結果なのか 

何処にも答えなんて無かった

夢の中に紛れ込んだ現実の切れ端と

現実の中に断片的に現れる夢

ただ 
がむしゃらに追いかけ続けた

傷だらけのコルベットC5

モーテル 

星だけがやけに綺麗に見えた夜

使い回された古いベッドの軋む音

遮光カーテンの裏側 

天井が波打つ 

求められた色なら全て与えてやるよ

いつか俺が途中

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暗雲の隙間 《詩》

暗雲の隙間 《詩》

「暗雲の隙間」

雲が千切れる様に割れ

僅かな月明かりが射す

暗雲の隙間 

途切れ途切れの光が

僕の胸の中に隠された言葉を照らし

浮き彫りにしては消えてゆく

淡い青色の世界が訪れては消え去る

そして無音の漆黒が全てを包み込む

肉を削ぎ落とした骨格から発する

意識の放射が暗闇を貫く

其の凝縮された陰影を

網膜と脳裏に焼き付ける

僕は思考の切れ端を追い続ける

脳内の架空の白紙

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時間 《詩》

時間 《詩》

「時間」

過ぎ去る時間の中で

沢山の感情と言葉 

多くの迷いと沈黙
多くの約束と秘密 

そして諦めと

決して口に出す事の無い想い

感情の振り子が弧を描き揺れた

僕達の心に傷跡を刻み込みながら

色彩の裏側にある
骨格を指先でなどった

僕が創り出した

異なったふたつの人格には

共通する欠落があった

その共通する失われたものは
形象を持たず

窓から射し込む朝の光の様な

柔らか

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