歩きんぼ

読んでおもろいやないけ、っちゅうもん書けたらなあと。

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記事一覧

マーフィーの法則を解体

 小学生の頃、図書館の飴色をした本棚に『マーフィーの法則』と背表紙に書かれた本が他の本と整然と並んでいた。パラパラとめくって読んだ。なんだおふざけの法則か、と半…

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3週間前
1

『人生の短さについて』(セネカ)を読んで、何となく思うこと。

 人生百年時代とか。これは字面だけで捉えると純粋に寿命が百年ということなのだが、実態はそんな生易しいものではない。高齢者は「こんな長生きするもんやない。はよお迎…

歩きんぼ
4週間前
1

密やかな行為

 ひそやかと表せば響きが良いのである。妙味は「やか」にある。健やか、晴れやか、しめやか、嫋やか、雅やか、静やか、と。なんかええ感じなのである。で、このタイトルだ…

歩きんぼ
3か月前
2

赤い屋根

 幼児の僕は泣いていた。幼稚園に行くのが嫌だったのである。なぜ嫌だったかは思い出せない。親と離れ離れになるのが嫌だったのか、それとも幼稚園の生活が嫌だったのか、…

歩きんぼ
3か月前
1

適材適所

 昔々、当時入社した会社の新人だった頃、長野県に出張に行くぞ、と連れて行かれた。安物のチンピラのような細身でガラの悪い部長と二人、大阪から車で長時間掛けて向かう…

歩きんぼ
4か月前
2

【詩】山の子

熊笹の乾いた音に釣り込まれ 小枝を踏み踏み山道をたどる 霧雨が身を取り巻く気配がある 油断ならぬとはこのようなこと 樹皮の破れから覗く子に誓うが 山の神をたぶらかし…

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4か月前
4

【随筆】危ない奴

 小中学生の頃、友達に研磨の会社を経営している家の子がいた。少しだけ所謂オタク気質で、色の薄い猫ッ毛だった。この友達は空手を習っていたが、その所為もあったのか、…

歩きんぼ
4か月前
3

【随筆】烏は光りものを持ち帰る

 先日、あまりにも広告が鬱陶しかったので、YouTubeのPremiumに入会した。まんまと、である。私はあの構造も珍妙なものだなと思い、世の中のおかしなパズルの境界線を眺め…

歩きんぼ
4か月前
4

【詩】春風

終端が眩ゆい煌めきをある者に放ち 生命の燃焼の幕引きを刷り込む 薄桃色の春風が体を撫ぜ 渦を巻いて 見返りながらさってゆく その者は川端に沿って続く道に立ち 胸中に芽…

歩きんぼ
4か月前
1

【詩】汽車と私

いわゆる二等星です 汽車の脇腹に飾るのです よく空を走らせるから なかなかの見ものですよ 金砂子をうしろに引いて ほとんど縦に翔ますから 見あげる私も星ごと 宇宙に放…

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4か月前
3

【怪談】田舎の家

 友人が和歌山の田舎へ行った時の話である。父方の祖父母の家で、来るのは幼時以来、朧げな記憶しかなかった。屋敷のような日本家屋である。畳敷の居間も広く、妙に落ち着…

歩きんぼ
4か月前
5

【詩】西の方

天井に巣食った丸が脈動する条件を、駅の印刷物から探すことの大切さを、甥に説かなければならないが、私には私の孤独もあるのだから、まずはこちらに茅を葺かなければ話に…

歩きんぼ
4か月前
5

小春日和の憂鬱

 最近昼間なんかけっこう暖こうてね、ちょっと歩いててもじわっと汗かいてくるぐらいで。まあ心地ええわけですけども、昼夜の寒暖差が大きいもんで、とりわけ夜が難儀する…

歩きんぼ
4か月前
1

素敵な文章にふれて

 何かを書こうとする時、例えば今なんてのはノートパソコンでカタカタ打っているわけですが、昔はこのような手元にありませんでした。子どもの頃に文章を書くと言えば原稿…

歩きんぼ
6か月前
4

急がせるということについて

 日常に猶予なく感じることが常態化している。趣味などにおいて長い目で見て楽しみむことが気分的に難しくなってきている。週末の土日の二日間が最長の余暇であり、平日を…

歩きんぼ
6か月前

粒立ってゆらめいて けぶる雲のたなびきは 僕の胸のなかに似て それなら僕の胸には 空を見上げる僕がいる? この胸の奥の奥 その僕の胸にも僕がいて 空の向こうにも…

歩きんぼ
6か月前
4
マーフィーの法則を解体

マーフィーの法則を解体

 小学生の頃、図書館の飴色をした本棚に『マーフィーの法則』と背表紙に書かれた本が他の本と整然と並んでいた。パラパラとめくって読んだ。なんだおふざけの法則か、と半分面白がったが、歳なりの笑えない経験も増えてくると、あながちおふざけともいえない皮肉さに改まってくる。とはいえ法則とされた種々の傾向に客観的な偏重があるとは思えず、あるように感じてもそれは錯覚であり、所詮はマーフィーの法則の正体は認知バイア

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『人生の短さについて』(セネカ)を読んで、何となく思うこと。

『人生の短さについて』(セネカ)を読んで、何となく思うこと。

 人生百年時代とか。これは字面だけで捉えると純粋に寿命が百年ということなのだが、実態はそんな生易しいものではない。高齢者は「こんな長生きするもんやない。はよお迎えけえへんかな」と呟く。他方の人生百年時代では「いつまで働けばええねん」という批判的感情も芽生える。

 勤勉な日本人は敗戦後の新たな光を目指して、あるいは自由を、あるいは盲目的に、目の前の仕事に没頭した。その効果は目覚ましく、優良な企業を

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密やかな行為

密やかな行為

 ひそやかと表せば響きが良いのである。妙味は「やか」にある。健やか、晴れやか、しめやか、嫋やか、雅やか、静やか、と。なんかええ感じなのである。で、このタイトルだが、ここで言いたいことは何もええ感じのもんではなく、真逆のあさましき行為のことである。

 職場が変わり、行きも帰りもめでたく満員電車となった。たいへんに気をつけて交差させた手で自らの肩を掴んだままなんとかバランスを保って運ばれている。そう

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赤い屋根

赤い屋根

 幼児の僕は泣いていた。幼稚園に行くのが嫌だったのである。なぜ嫌だったかは思い出せない。親と離れ離れになるのが嫌だったのか、それとも幼稚園の生活が嫌だったのか、さて分からない。嫌だった記憶はあるが、それも今思えば月並みな嫌さだったのだろうと思われてくる。このように記憶がはっきりしないことの方が多いのだが、妙に鮮明に蘇ってくる情景もあるのである。

 ある日の僕は、幼い頭で効率について考えたようであ

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適材適所

適材適所

 昔々、当時入社した会社の新人だった頃、長野県に出張に行くぞ、と連れて行かれた。安物のチンピラのような細身でガラの悪い部長と二人、大阪から車で長時間掛けて向かうのである。車中にはミスチルが流れ、部長は「ええわあ、歌詞がええわあ」としきりに唸っている。助手席で僕は相槌を打っていた。松本に着いたのは二十時頃だったか。美味い蕎麦屋があるとチンピラが言うので腹を鳴らしてついて行く。確かに美味かった。そこで

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【詩】山の子

【詩】山の子

熊笹の乾いた音に釣り込まれ
小枝を踏み踏み山道をたどる
霧雨が身を取り巻く気配がある
油断ならぬとはこのようなこと
樹皮の破れから覗く子に誓うが
山の神をたぶらかしはしない
この誘いを不意にはしまい
受信機のつまみを捻って
感度を最大限にし
腹に息を吸い溜めて
現には戻らないと決めた

【随筆】危ない奴

【随筆】危ない奴

 小中学生の頃、友達に研磨の会社を経営している家の子がいた。少しだけ所謂オタク気質で、色の薄い猫ッ毛だった。この友達は空手を習っていたが、その所為もあったのか、ちょっと戯れにからかわれると忽ち豹変してよく人を殴った。普段はニコついているだけに、その変りっぷりには皆が肝を冷やしたものである。体は小さくむっちりとしていた。親友に選ばれるというタイプではなかったようである。しかし僕らがギターを持ってある

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【随筆】烏は光りものを持ち帰る

【随筆】烏は光りものを持ち帰る

 先日、あまりにも広告が鬱陶しかったので、YouTubeのPremiumに入会した。まんまと、である。私はあの構造も珍妙なものだなと思い、世の中のおかしなパズルの境界線を眺める心地だった。それというのは、YouTubeは巨大プラットフォームなわけで、常におびただしい数の人々が寝転がりながら、また無謀にも歩きながら、行儀悪くも食べながらYouTubeに首を突っ込んでいる。そのような人類の集う場所だか

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【詩】春風

【詩】春風

終端が眩ゆい煌めきをある者に放ち
生命の燃焼の幕引きを刷り込む
薄桃色の春風が体を撫ぜ
渦を巻いて
見返りながらさってゆく
その者は川端に沿って続く道に立ち
胸中に芽吹いた植物の匂いを
鼻腔いっぱいに溜め込んで
土に還るという標本的な定めを
薫風を睫毛に受けるが如く心持ちで
それを身に引き寄せた

【詩】汽車と私

【詩】汽車と私

いわゆる二等星です
汽車の脇腹に飾るのです
よく空を走らせるから
なかなかの見ものですよ
金砂子をうしろに引いて
ほとんど縦に翔ますから
見あげる私も星ごと
宇宙に放り出されたように
上も下もなく回りはじめます

【怪談】田舎の家

【怪談】田舎の家

 友人が和歌山の田舎へ行った時の話である。父方の祖父母の家で、来るのは幼時以来、朧げな記憶しかなかった。屋敷のような日本家屋である。畳敷の居間も広く、妙に落ち着いた。特に気に入った一室があった。その部屋も畳敷で、八畳程の部屋だった。そこに寝転んで天井を見ていると、何だか吸われていくような心地がして、それがとても気持ちよく、安堵を感じていたらしい。すると祖父が来て部屋から出されたという。友人は、夜寝

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【詩】西の方

【詩】西の方

天井に巣食った丸が脈動する条件を、駅の印刷物から探すことの大切さを、甥に説かなければならないが、私には私の孤独もあるのだから、まずはこちらに茅を葺かなければ話にならない。水米を渓流に還してもこの真理は変わるまい。柿の襞にとまる蜻蛉のようである。文庫の背に和芥子とはよく言ったものだが、意味がわからない。西の川に、キーボーと鳴く鳥がいるらしいが、上方の妖か何かであろう。

小春日和の憂鬱

小春日和の憂鬱

 最近昼間なんかけっこう暖こうてね、ちょっと歩いててもじわっと汗かいてくるぐらいで。まあ心地ええわけですけども、昼夜の寒暖差が大きいもんで、とりわけ夜が難儀するわけです。暑気みたいなんの残りで暑かったりして、こら堪らんと思てちょっとエアコンを付けまして、そしたら今度はえらい冷えてきたりして、こらさぶいってことで止めましたらまた暑ぅなってくる。日中の陽気はええもんでも、夜はちょっと中途半端でちょうど

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素敵な文章にふれて

素敵な文章にふれて

 何かを書こうとする時、例えば今なんてのはノートパソコンでカタカタ打っているわけですが、昔はこのような手元にありませんでした。子どもの頃に文章を書くと言えば原稿用紙でしたし、けれどあれは、まあ苦役でしたわね。子どもなんてそんな思慮深くはない(目を見張る洞察がある)し、つぶさに何事かを思惑的に考えるなんてことより、めまぐるしく移り変わる目の前のきらびやかな世界のエンターテイメントに魅了される連続なん

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急がせるということについて

急がせるということについて

 日常に猶予なく感じることが常態化している。趣味などにおいて長い目で見て楽しみむことが気分的に難しくなってきている。週末の土日の二日間が最長の余暇であり、平日を通して楽しもうとする余裕がなくなっているのである。仕事が忙しすぎて、殺伐としていて、納期のお化けに憑りつかれているのだ。ああ、また明日から急ピッチでこなさなければ、そう思うと余暇はブツ切りになる。

 なぜ人はこれほどまでに急いでいるのだろ

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雲

粒立ってゆらめいて

けぶる雲のたなびきは

僕の胸のなかに似て

それなら僕の胸には

空を見上げる僕がいる?

この胸の奥の奥

その僕の胸にも僕がいて

空の向こうにも僕がいる