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【怪談】田舎の家

 友人が和歌山の田舎へ行った時の話である。父方の祖父母の家で、来るのは幼時以来、朧げな記憶しかなかった。屋敷のような日本家屋である。畳敷の居間も広く、妙に落ち着いた。特に気に入った一室があった。その部屋も畳敷で、八畳程の部屋だった。そこに寝転んで天井を見ていると、何だか吸われていくような心地がして、それがとても気持ちよく、安堵を感じていたらしい。すると祖父が来て部屋から出されたという。友人は、夜寝る部屋はあそこがいいなと思っていた。目を盗み、またその部屋に近づいた。閉まる襖の上に欄間がある。その欄間の向こうにこちらを覗く顔が見えた。ここに居る身内の顔ではない。その顔は触れられそうなほど生々しく生きた人間のようだったと友人は言う。

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