マガジンのカバー画像

16
運営しているクリエイター

記事一覧

花 / 詩

花 / 詩

根方に咲いてる一本の
俯き顔のその花の
なんてきれいな色でしょう
指で触れるとゆらゆらと
右に左に笑ってる
明日に枯れると知っていて
今を今をと笑ってる

叫ぶ世 / 詩

叫ぶ世 / 詩

そんなんじゃだめだと誰かが叫ぶ
時代は変わったと誰かが叫ぶ
攻めてくるぞと誰かが叫ぶ
立ち上がれと誰かが叫ぶ

そして平和ぼけだと誰かが叫ぶ

昔の人は言った
戦争をしてはならないと
過ちを繰り返してはならないと
人が人でなくなるからと

平和ぼけだと誰かが叫ぶ

そう叫ぶ世が平和ぼけ
恐さ忘れた平和ぼけ

無題 / 詩

無題 / 詩

ひかりをふくむかぜ
まえがみながれてかおをなで
むこうにだれかのしろいすそ
いっぽいっぽのくつなかこいし

無題 / 詩

無題 / 詩

曇り空 部屋の明かりが目に痛い
頭がほんやりうつらうつら
しんとした部屋にこころがひとつ
回転椅子に宇宙がまわる
帰りたいのは昔のお家
道を忘れた昔のお家

金魚 / 詩

金魚 / 詩

 壁が波紋を継続したのなら、それもこれも終わりのやまびこである。蝶番に蝋を塗ってももう元には戻らないのが教育なのだから。茅も焼石である。ただ磁場だけは振動しているから、麩菓子にしても倫理的には乙となろう。見上げれば柿の木。金魚ともつかぬ薫風に肝臓が笑っている。

心象風景 / 詩

心象風景 / 詩

町の底に凝った靄は、

ある部分がまとまりを帯びて濃くなったと思えば、

薄らいで離れたり、

そんな風にして漂っていたが、

そこに突如強い光が射し、

絹のようだった靄が俄に粒立った中を車が貫いた。

靄は素早く揺れ、渦を巻いて千切れたが、

暫くするとまた浮かびあがるようにして濃さを改め、

その薄片が粘りながら融合するのだった。

天狗星 / 詩

天狗星 / 詩

夜の空に閃光が走って、あれは天狗星。
深山へ下りて人界に紛れようと、
嘴鋭く、
大目玉を見開いて、
背中の翼は紫のゆらめきを僅かに帯び、
無数の松の影の間を飛び抜く姿は妖獣の類。
狗か鳥か、混じりものか、怖じ気か。

暗い部屋 / 詩

暗い部屋 / 詩

マッチを擦ると暗闇の部屋に燐光が走り、

どこから吹くのか風に焔がぼぼぼと鳴った。

その橙のほのめきに手をかざし、

もう軸に延びはじめた焔を蝋燭へ近づけて、

つと火がうつると、

部屋がぼうっと朧に浮かびあがった。

闇に紛れた場景は、

焔に潤んで、

ひそやかに震えていた。

多きもの / 詩

多きもの / 詩

微細な振動を有したそれらは、

寄り集まることで模様を呈しはじめる。

その一つ一つは無意識的でありながらも、

巨大な全体なる一塊は、

連なりあった肉体に甚だしい唯一の頑な精神を有し、

ただ直進する。

しかし、その精神の中心は不気味に空洞で、

同時に高圧で、

それ故もはや止まる術を知らずに拍車がかかる。