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長崎ライチ 『紙一重りんちゃん』 : やさしい〈鬼才〉の愉快な世界
書評:長崎ライチ『紙一重りんちゃん』第1巻(ハルタコミックス・KADOKAWA)
まさに「鬼才」と呼ぶにふさわしい、独特の鋭いセンスを持った作家(マンガ家)である。
しかしそれでいて、決して「尖っている」部分だけが目に(つき、鼻に)つく前衛作家などではなく、「ちょっと変わった子(変わった人)」への、やさしく温かい視線が、きわめて印象的な作家なのだ。
古い言い回しで恐縮だが、ミステリ作家の島田荘司風に言えば、まさに「長崎ライチのような作家は、めったに出るものではない」ということになろう。
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すこし劇画寄りの絵柄は、決して今風でもなければ、私の趣味でもない。けれども、本編作品から表紙(カバー画)に転用された、主人公りんちゃんの独特な感性が光る(1コマの)一言『100年後には地球のメンバーって、ごっそり入れかわってるね』が、私をとらえて離さず、思わず衝動買いしてしまったのだが、結果としては大正解。本巻読了後、同著者の別作品(『ふうらい姉妹』全4巻、『地球に生まれちゃった人々』『阿呆にも歴史がありますの』)を注文してしまった。
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主人公のりんちゃんは、いわゆる「変わった子」であり、いまどきの言葉でリアルに言えば「発達障害」に分類されるのかもしれない。
頭は大変良いのだが、空気が読めず、自分の思いつきを何の悪気もなく大真面目に口にしては、親友のこだまちゃんを呆れさせるのだが、こだまちゃんの方は、そんなりんちゃんの「ズレた言葉や発想」を、「個性的なボケ」として自然に受け止めて、嫌味のない(大阪弁の)ツッコミを返す、二人はまさに名コンビなのだ。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/60343117/picture_pc_3945298b0dd9390d1b0ba2f99fe5e75f.jpeg)
たしかに、りんちゃんのこうした「ズレた」ところは、作品の中では「笑い」を誘うけれど、現実においてなら、周囲との齟齬や軋轢を生まざるを得ないだろう。また、同じ意味で、本作の「ズレかた」を「シュール」と呼ぶに止まらず、ある種の「気味わるさ」と感じる読者がいても、ぜんぜん不思議ではないし、それ自体は責められることではない。
普通の人は「普通の世界」に住んでいるつもりだからこそ安心できるのであって、そこにひょっこり「宇宙人」が現れれば、その「普通の世界」観が動揺をきたして、ある種の不安や恐怖を感じるのは当然だし、そのせいで拒絶反応を起こすというのも、ごく自然なことなのだ。
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だが、実際のところ、この「現実世界」は「一色」ではないし、本当は、その人ごとに「世界」の色合いは違うのだが、自分のことに忙しい多くの人は、他人がどのように世界を見ているか、なんてことに興味を持つ余裕はなく、「きっとみんな、私と同じように世界を理解しているんだ。なぜなら、私の見ている世界(理解)が正しいからだ」と考えて、安心しているのである。
ただ、そうした「私の世界」観が硬直化し絶対化されてしまうと、少数派や弱者の持つ「個性的な世界観」は、排除の対象とならざるを得ない。曰く、「おかしい」「変」「迷惑」「キモイ」…。
「お互いの価値観を認め合う」などと言うと、いかにも「きれいごとの偽善的な言葉」のように聞こえてしまうかもしれないが、しかし「自分とは違う=変なもの」を「面白い」と感じられる「心の余裕」が少しでもあれば、殊更に「ご立派」ではなくとも、私たちはお互いに、もっと朗らかな生き方ができるのではないだろうか。
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/60343183/picture_pc_5bfbc56b501c3af5e8341ffe16f08e26.jpeg)
せっかちな私は、現実の身近にりんちゃんがいたら、時には苛立ったり腹を立てたりすることだろう。
しかし、それでも「りんちゃんは困ったもんだけど、でも面白いよな」と言える人間でありたいと願うのである。
初出:2021年9月1日「Amazonレビュー」
(2021年10月15日、管理者により削除)
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