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【展覧会レポ】BASE Q「ENTOUCHABLE MUSEUM -超さわれる美術館-」
【約4,000文字、写真約25枚】
ミッドタウン日比谷のBASE Qで開催された「ENTOUCHABLE MUSEUM -超さわれる美術館-」を鑑賞しました。その感想を書きます。
※この展覧会はすでに終了しています。
▶︎ 結論
魅力的なタイトル「超さわれる美術館」に惹かれましたが、期待を下回りました。それは主に、アートを鑑賞するというより、アートを材料にしたハプティクス技術のアピールが目的と思えるイベントだったためです。なお、この投稿を通して、目の不自由な人はどのようにアート鑑賞をするのか?知っていただける機会になれば幸いです。
おすすめ度:★★☆☆☆
会話できる度:★★★★☆
混み具合:★☆☆☆☆
展覧会名:ENTOUCHABLE MUSEUM -超さわれる美術館-
場所:BASE Q
会期:2024年12月20日(金)〜2024年12月22日(日)
休館日:ー
開館時間:日によって異なる
住所: 東京都千代田区有楽町1丁目1−2 東京ミッドタウン日比谷 6F
アクセス:日比谷駅から徒歩約5分
入場料(一般):無料
事前予約:必須
展覧所要時間:約30分
撮影:すべて可
URL:https://www.dentsudigital.co.jp/news/release/services/2024-1203-000188
▶︎ 訪問のきっかけ
偶然、noteの「今日のあなたに」で以下の投稿を見かけました。
子どもを美術館に誘う時、必ず出る意見が「触われないなら行きたくない!」です。その課題を見事に克服してくれるタイトル(しかも「超」!)だったため、展覧会の予約を即申し込みました。参加が無料、場所が日比谷でアクセスが良かったことも、きっかけの一つでした。
▼ 過去に訪問した触れる展覧会(神奈川県立近代美術館)
▶︎ アクセス
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「BASE Q HALL 1」は日比谷駅から徒歩約5分。ミッドタウン日比谷6階にあるイベントホールです。なお「BASE Q HALL 1」の使用料は、終日78万円だそうです(参考)。
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▼ 映画「モアナ2」の感想
ミッドタウン日比谷6階には、レストラン、屋上庭園、イベントホールなどがあります。今回の展覧会は「Q HALL」で実施。「超さわれる美術館」というタイトルになっていますが「美術館」ではありません。イベントホールにいくつか機材を持ち込んだ「イベント」と呼んだ方が感覚的に近いです。
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なお、当日は予約した時間に遅れてしまいました。遅れることを運営側に連絡したかったものの、サイトのどこにも連絡先の記載がありませんでした。
唯一「TOKYO ART BEAT」で展覧会の電話番号を見つけました。そこに電話すると「ミッドタウン日比谷 コールセンター」につながりました。「遅れることを聞いても、お役に立てない。主催者の電話番号も分からない」とのこと。公式サイトには、当日につながる連絡先は記載いただきたいです。
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▶︎ 「ENTOUCHABLE MUSEUM -超さわれる美術館-」感想
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✔️ 展覧会の概要
最先端のハプティクス技術を活用し、触ったり聞いたりしてアートを全身で体感できる不思議な美術館です。(略)「アートは視覚で一人で“観賞”するもの」という常識を、「アートは全身で"体感"し、他者との“感性共有機会”にもなるもの」に変え、目の不自由な方も一緒にアートを楽しめる世界の実現に向けて取り組んでいます。全作品において、触覚と聴覚による体験拡張により、体験者同士の対話を促し、視覚による鑑賞体験だけでは気がつかないような作品要素の発見にもつなげます。
展覧会の主催は、NPO法人八王子視覚障害者福祉協会/電通デジタル、パートナーは、東京大学大学院新領域創成科学研究科などが務めています。
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概要を見た時「ハプティクスって何や?電通がつくった造語か?」と思いました。調べてみると、ハプティクスとはもともと存在する言葉でした。語源は、ギリシア語の「触る」を意味する動詞 ἅπτεσθαι (haptesthai) です。
ハプティクスとは、⼒・振動・動きを与えることでユーザーが「実際にモノに触れているような感触」を得ることが出来る、⽪膚感覚フィードバック技術だそうです(参考)。例えば、状況に合わせて振動するゲーム機のコントローラーなどがそれに当たります。
公式サイトや、会場内で「ハプティクスとは何ぞや」と注記した方が親切だと思いました。
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会場には5つの作品が展示されていました。
1つの展示につき1人5分まで鑑賞できます。それぞれの作品にはスタッフが配置され、丁寧に説明をしてくれました。入口でアイマスクも渡されます(使わなくてもok)。会場では、実際に目の不自由な人もいました。
✔️ 超音波ハプティクス技術を使った作品
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モナリザの下にある穴に手をかざすと、それをセンサーが読み取ります。その手がモニターに映ります。
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無数の小さな扇風機から適度に風を出すことによって、モナリザに触られる疑似体験ができます。
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小さな扇風機から若干強めの風が出てきます。そのため「言われてみれば確かに触られているような…」という気がしました。
✔️ 音声触覚変換ハプティクスを使った作品
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絵の表面を「超さわれる」作品です。X軸とY軸にセンサーがついていて、それを機械が認識。絵の触る場所によって、水や風、人の声がスピーカーから出ることに加え、絵の表面が振動します。目が不自由な人でも、情景が想像できるようにつくられている、とのことでした。
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《風神雷神図屏風》は《諸国瀧廻り…》と違い、絵の所々に丸い突起が付けられています。その突起を触ると、雷や太鼓の音が聞こえることに加え、絵の表面が振動します。何もないところを触ると、一番近い突起を触った時と同じ反応が起こります。
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展示作品は以上です。
モナリザ以外は仕掛けがほぼ同じだったため少し退屈でした。ハプティクスを使った、さらに複数のアイデアがほしかったです。
✔️ 展覧会からの気付き
キュレーション全体からメッセージ性が希薄だと感じたことに加え、アートをダシにしたハプティクスの技術を伝えるイベントという印象を受けました。会場内に、イベントの明確な趣旨や、目の不自由な人が過去にこの展示を体験した時の感想や映像などを掲載してもよかったのかもしれません。
ハプティクス技術を使って「アートを手で見る」能性は伝わりましたし、子どもは楽しい「体験」ができたと思います。ただし「超さわれる美術館」というタイトルや「目の不自由な方も一緒にアートを楽しめる世界の実現」というメッセージと、実際の私の感想には乖離がありました。
それは主に「描かれた対象、マチエールは実際に見いひんと、得られるもんも得られへんのちゃう?」と思ったためです。
ただし、これらは目が見える私の感想です。実際に、目の不自由な人がこの展覧会でどう感じたのかが重要だと思います。私は『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(伊藤亜紗)を読んだことがあります。
その中には、目の見える人が作品の感想を話し合うことで、目の不自由な人がアートを鑑賞する「対話型アート鑑賞」が登場します。
2022年には『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(川内有緒)が「本屋大賞 ノンフィクション本大賞」を受賞しました。全盲の美術鑑賞者・白鳥建二を取り扱った作品です(映画化もされました)。
白鳥建二については「JINS PARK」のコラムが分かりやすいです。
鑑賞だけをとってみても、自分にとってはその“場”が重要。他のお客さんたちもいる展示室で、誰かと一緒に作品を見ながら話す“場”。そこには展示室の空気感や、一緒にいる人たちの声量、身体の向き、声の圧力、いろんな要素があるんです。その全部を含めての“鑑賞”なんですよね。
白鳥さんは「よくわからない」作品を好む。誰も説明ができない「不思議さ」を心からおもしろがっているのだ。なににも捕まえられることのない“自由さ”との出会いが、白鳥さんを美術鑑賞に惹きつける。
私は白鳥建二の考えに深く同意できます。私は芸術について、こう思うからです:アート鑑賞は「お勉強」ではなく、誰もが気軽に行う「娯楽」。作品だけでなくキュレーション、雰囲気などすべて含めて「アート」。同じ作品を見ても、それぞれの人生によって十人十色の感じ方がある。それが面白い(中でも現代アートは顕著)。
私はこれらの著書やサイトを読んだことがありました。そのため、今回のイベントのように強制的で画一的な音や振動が出る仕掛けは「情報の押し付け」であって「鑑賞」に当たらないのではないか?本当に対話の促進になるのか?など、モヤモヤが残りました。
▶︎ まとめ
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いかがだったでしょうか?「超さわれる美術館」というネーミングにワクワクしました。しかし、期待に沿わない結果となりました。それは主に、ハプティクス技術が作品内容の情報伝達にとどまっており「目の不自由な方も一緒にアートを楽しめる世界の実現」になっていないと感じたためです。子どもは単純に楽しんでいたこと、ハプティクス技術を知れたこと、目の不自由な人のアート鑑賞について再認識できた点は良かったです。
▶︎ 今日の美術館飯
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