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高井宏章 雑文帳

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徒然なるままに。案外、ええ事書いてます
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#光文社

多様性がぶつかる最前線のリポート『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

多様性がぶつかる最前線のリポート『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に8月21日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

いきなり私事で恐縮だが、私は2016年から2年間、家族そろってロンドンで暮らし、娘たちはそれぞれ地元校に通った。三姉妹の次女が入ったのが、成績や素行に問題を抱える生徒が多い、「地区の底辺校」のハイスクールだった。それほど大きな事件はなかったが、生徒間の窃盗などのトラブルは日常茶飯事

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SFに息吹を吹き込む新たな古典の誕生 『三体』

SFに息吹を吹き込む新たな古典の誕生 『三体』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に8月8日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

話題の中国発の大作は、評判に違わぬ一気読みのエンターテインメント性をそなえた第一級のSFだ。多くの識者が指摘しているように、スケールの大きさとグイグイと引き込むストーリー展開は巨匠アーサー・C・クラークの古典「幼年期の終わり」を想起させる。

『三体』早川書房
劉慈欣/著 立透耶/監

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賢者が説く、しなやかな生存戦略 『反脆弱性』

賢者が説く、しなやかな生存戦略 『反脆弱性』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に7月29日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

著者ナシーム・ニコラス・タレブは、ユニークな実践知を提唱する当代の賢者の一人といって良いだろう。

ベストセラー「まぐれ」では、生物としての人間が進化の過程で獲得した「世界の切り取り方」が、現代社会、特に経済・金融分野では有害なバイアスとなり、意思決定やリスク管理などで重大な誤りを

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主流派経済学への強烈なアンチテーゼ『父が娘に語る美しく、深く、とんでもなくわかりやすい経済の話』

主流派経済学への強烈なアンチテーゼ『父が娘に語る美しく、深く、とんでもなくわかりやすい経済の話』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に7月17日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

原題は”Talking To My Daughter About Economy”。
昨今の経済・ビジネス書の常で、邦題はいささか冗長だが、タイトル通り、父から娘への語りかけというスタイルでつづられたこの本は、いくつかの理由で類書とは一味違う魅力を放っている。

『父が娘に語る美し

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あまりに過酷な「天職」との出会い 『紛争地の看護師』

あまりに過酷な「天職」との出会い 『紛争地の看護師』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に7月1日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

「国境なき医師団」で活動する日本人看護師の話題の手記は、私にとって期待したテーマに対する満額回答以上の読書、そして意外な面で深く考えさせられる読書になった。

『紛争地の看護師』小学館 白川優子/著

まず感想より先にお伝えしておきたい。この本はできるだけ多くの人に読まれるべきだ。多

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幻想を解く本音トーク 『誤解だらけの人工知能』

幻想を解く本音トーク 『誤解だらけの人工知能』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に5月29日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

副題にある「ディープラーニングの限界と可能性」についての対話を中心とした、手軽に読める格好の入門書だ。
特に「限界」についての専門家による明け透けな本音トークは、巷にあふれる「ディープラーニング万能論」や「人工知能脅威論」がいかに陳腐で安易か、具体例を挙げて指摘する痛快な読み味があ

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天皇家という家族の実像 『天皇陛下の私生活』

天皇家という家族の実像 『天皇陛下の私生活』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に4月3日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。もう元号が変わったので、最後だけ少しリライトしています。

半藤一利の「日本のいちばん長い日」など、終戦の年である昭和20年(1945年)の昭和天皇と周辺の言行を記録した読み物はおびただしくある。
本書のユニークさは、その激動の1年を「観察期間」としながら、あえて天皇家という特殊なファミ

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「外さない書き方」の指南書 『東大作文』

「外さない書き方」の指南書 『東大作文』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に5月9日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

ベストセラー「東大読書」の姉妹作の売り文句は、「『伝える力』と『地頭力』がいっきに高まる」。ずいぶんと欲張りなタイトルだ。看板に偽りはないのだろうか。

『「伝える力」と「地頭力」がいっきに高まる 東大作文』東洋経済新報社
西岡壱誠/著

四半世紀近く記者稼業をやっているので、一応、

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「欠けたピース」が示す米国の病『大統領失踪』

「欠けたピース」が示す米国の病『大統領失踪』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に1月14日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

元米国大統領が書いた、大統領を主人公としたエンターテインメント小説というだけで、「勝負あった」感のある秀作だ。

『大統領失踪』(早川書房)
ビル・クリントン、ジェイムズ・パタースン/著 越前敏弥・久野 郁子/訳

政権基盤がもろく、弾劾の淵にある大統領ダンカンは、米国を突如として

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「早すぎた天才」の実像『真説・佐山サトル』

「早すぎた天才」の実像『真説・佐山サトル』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に12月26日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

「真説」というタイトルに偽りなしの、佐山サトル・初代タイガーマスクの評伝の決定版。往年のプロレスファン、あるいは佐山サトルという稀有な格闘家に興味をもってきた読者なら、数々の疑問が解けてスッキリすること請け合いの力作だ。

『真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男』集英社イ

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「逆アルジャーノン」のスリル『うつ病九段』

「逆アルジャーノン」のスリル『うつ病九段』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に12月26日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

いわゆる「羽生世代」のベテラン棋士にして、軽妙なエッセイでも知られる先崎学氏のうつ病の闘病日記だ。エッセイストとしての先崎学ファン(私自身がそうだ)はもちろんのこと、「将棋」「うつ病」「闘病」といったキーワードがひっかかる人なら、読んで損はない。棋界の人間模様だけでも読み物として

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「大衆」は変わらない 『ゲッベルスと私』

「大衆」は変わらない 『ゲッベルスと私』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に12月17日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteに転載することといたしました。

初めはあまりに淡々とした語り口に違和感を覚える。
だが、読み進むうちに、読者は「語り手と自分に、どんな差があるというのだろうか」という問いを突き付けられ、知らず知らずのうちに鏡をのぞきこむような思いでページをめくらされる。
『ゲッベルスと私』は、数あるナチスドイツ関連の

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