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「早すぎた天才」の実像『真説・佐山サトル』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に12月26日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

「真説」というタイトルに偽りなしの、佐山サトル・初代タイガーマスクの評伝の決定版。往年のプロレスファン、あるいは佐山サトルという稀有な格闘家に興味をもってきた読者なら、数々の疑問が解けてスッキリすること請け合いの力作だ。

『真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男』集英社インターナショナル 田崎健太/著

人気絶頂期にあったタイガーマスクの電撃引退。

初期UWFでの不可解な前田日明との対戦の内幕。

奇書『ケーフェイ」が誕生した理由。

創設者だったはずの「シュート(修斗)」からの離脱。

マニアックなテーマも含まれるが、上記のいずれにかについて、心のどこかにひっかかりがある読者なら、多数の肉声をもって語られる秘話に「そうだったのか」と膝を打つことだろう。プロレスや格闘技の世界の人間関係やカネの裏話も、生々しく、人間臭く、徹底した取材をもとに描かれている。

私自身は、小学生で古舘伊知郎実況の新日本プロレスのテレビ中継に夢中になった「佐山タイガー」世代ど真ん中で、その後も新旧UWFと「リングス」、そしてグレイシーファミリーを軸としたバーリ・トゥードブームのころまでは、熱心に格闘技を追いかけていた。佐山を軸とした「シュート」の流れは、正直、地味でメディア露出も少なく、もっと派手な演出の総合格闘技に目が生きがちで、佐山はいつしか「過去の人」になっていた。

もっとも、一人の格闘家としてみた場合、最初期のUWFでの佐山のキックの切れと体格差を跳ね返す格闘センスは異次元のものとして目に焼き付いていた。身のこなしや技の美しさで比肩できるのは、ブルース・リーぐらいしかいないのではないかと今でも思う。

今回、本書を読んで、身体能力や技だけでなく、格闘技のあり方を問う姿勢や発想の面でも、佐山が非凡な人物だったことが理解できた。作者が指摘するように、競技としての総合格闘技を志向したパイオニアとしての評価は不当に低いと言わざるを得ない。

最終章にたどり着いたころには、読者は「佐山サトルは『早すぎた天才』の一人だったのだな」という感慨を抱くだろう。

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