文化結社 ×HEЯBES(×えるぶ)

パン以外で人々を満たしてきた偉大な表現者たちも、 始めから陽の目を浴びていたわけではあ…

文化結社 ×HEЯBES(×えるぶ)

パン以外で人々を満たしてきた偉大な表現者たちも、 始めから陽の目を浴びていたわけではありません。 私たちは「声を上げる場所を提供する」というミッションのもと、 今を生きる人々を満たせる、 古今東西の表現者たちの作品を取り上げて世界に知らしめていくことを目的とした文化結社です。

記事一覧

曰く言い難きもの―サウダージ、トスカー、なつかしさ―【えるぶのつぶやき】

他の言語には翻訳できないことばというものがどの言語にもあるものだ。 ポルトガル語のsaudade(サウダージ)はその一つである。 ポルノグラフィティの楽曲のタイトル…

グノーシス神話とモモの類似性/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

シュ:ソフィーはグノーシス主義についてどこまで知っている? ソ:あまり知らないんだよね。「グノーシス」という言葉がギリシャ語で智識という意味であるということを知…

「あなたは死なの?」マイスター・ホラという存在について/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

シュ:カシオペイアに案内されてたどり着いた「時間の国」は幻想的で美しい場所だよね。 ソ:うん。 シュ:今回は「時間の国」でモモが出会ったマイスター・ホラという老…

灰色の男たちの正体とは?/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

シュ:灰色の男たちって結局どういう存在だと思う? 一般的には功利主義のメタファーであるとか言われているけれど。 ナチスに対する批判というのも多分に入っていると思う…

エンデとシュタイナー/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

シュ:本書の前半では、モモはひたすら、このような態度で周りの人たちの話を聴いていたと思うのだけど、 聞く姿勢に徹するというのは非常に難しいことだと思ったんだよね…

「劇場」と「物語」/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

ソ:この物語の舞台はイタリアなのかな? シュ:だと思われるんだよね。というのも物語の中ではそれについて明言されていないんだよね。 でも、町の人たちの名前や様子か…

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第五回/「たやすく書かれた詩」【えるぶの語り場】

シュ:この詩集でソフィーの好きな詩は? ソ:僕は「たやすく書かれた詩」だな。 第七連の 「人生は生きがたいものだというのに 詩がこれほどもたやすく書けるのは …

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第四回/「ひまわり顔」【えるぶの語り場】

ソ:気に入った詩を三つ選んできてとお願いしていたんだけど、最後の一つは何ですか? シュ:「ひまわり顔」かな。 まさに一日の僕という感じがするから(笑) ソ:なる…

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第三回/「夜が明ける時まで」【えるぶの語り場】

ソ:他はどんな詩が気に入った? シュ:「夜が明ける時まで」も好きだな。 「残らず死んでゆく人たちに 黒い衣を着せなさい。 精一杯生きている人たちに 白い衣を着…

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第二回/「帰ってきて見る夜」【えるぶの語り場】

ソ:読んでみてシュベールが気に入った詩を教えてもらっても良い? シュ:一番は「帰ってきて見る夜」かな。 一人暮らしの身として共感した。 「世の中から帰ってく…

「さようなら全てのエヴァンゲリオン」の意味【えるぶのつぶやき】

アヤナミレイ(仮):サヨナラって、なに? ヒカリ:また会えるためのおまじない。 シン・エヴァンゲリオンでのトウジの妻のセリフは実に的を射た答えである。 フラン…

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第一回/Don't think, feel!【えるぶの語り場】

ソ:個々の詩を取り上げる前に全体的な感想を聞いても良いかな? シュ:大きく三つの感想を持ったかな。 一つは喇叭とか十字架とか、キリスト教的なモチーフが多いという…

『兎とよばれた女』part6/未完成な自伝【えるぶの語り場】

シュ:今回は最後まで読んできてもらったわけだけど、恒例の感想タイムからいきましょうか。 ソフィーは前回までは「存在の不安定さ」という部分に着目していたかと思うの…

『兎とよばれた女』part5/かぐや姫とプラトン【えるぶの語り場】

シュ:早速なんだけど、ソフィーはかぐや姫に対してどのような印象を持っている? ソ:俺がかぐや姫に対して持っているイメージとしては、男たちに対して無理難題を押し付…

『兎とよばれた女』part4/本書における神さまと美の定義【えるぶの語り場】

ソ:シュベールに聞きたいのだけど、この作品に出てくる神さまは、どんな神さまだと思う? 例えばだけど俺は、新約・旧約という神で考えたときに、本書に関して言うと新約…

『兎とよばれた女』part3/矢川澄子と2人の男【えるぶの語り場】

シュ:今回は「いまはむかし 神さまと兎の住む小さな島国の物語」という二章に該当する部分を読んできてもらったわけだけど、 この章では第一章「翼」に登場した男女は出て…

曰く言い難きもの―サウダージ、トスカー、なつかしさ―【えるぶのつぶやき】

曰く言い難きもの―サウダージ、トスカー、なつかしさ―【えるぶのつぶやき】

他の言語には翻訳できないことばというものがどの言語にもあるものだ。

ポルトガル語のsaudade(サウダージ)はその一つである。

ポルノグラフィティの楽曲のタイトルとして有名な「サウダージ」は、「郷愁」、「思慕」、「恋しさ」などと訳されるが、帰ることの叶わない過去への郷愁から手に入らないものへの憧れの気持ちと様々な意味を持ち、一語で訳すのが難しい単語である。

サウダージは、故郷に戻るこ

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グノーシス神話とモモの類似性/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

グノーシス神話とモモの類似性/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

シュ:ソフィーはグノーシス主義についてどこまで知っている?

ソ:あまり知らないんだよね。「グノーシス」という言葉がギリシャ語で智識という意味であるということを知っているぐらいかな。
あとは、英語のcognition(認識)の由来になっているよね。
キリスト教の異端という印象が強いけど、実際のところどうなのかな?

シュ:ソフィーの言う通りキリスト教の異端という面を持つグノーシス主義者たちもいたの

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「あなたは死なの?」マイスター・ホラという存在について/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

「あなたは死なの?」マイスター・ホラという存在について/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

シュ:カシオペイアに案内されてたどり着いた「時間の国」は幻想的で美しい場所だよね。

ソ:うん。

シュ:今回は「時間の国」でモモが出会ったマイスター・ホラという老人が誰なのか?ということについて話したいと思う。

ソ:それでいうと、マイスター・ホラという名前を見た時にラテン語の「時間 hora」から取ったと思ったのだけど、
他は特に思い浮かばなかったんだよね。

シュ:だよね。説明が少ない割に急

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灰色の男たちの正体とは?/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

灰色の男たちの正体とは?/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

シュ:灰色の男たちって結局どういう存在だと思う?
一般的には功利主義のメタファーであるとか言われているけれど。
ナチスに対する批判というのも多分に入っていると思うんだよね。

ソ:というのは?

シュ:灰色の男の言動を振り返ってみると分かるのだけど、例えば理髪師のフージーさんという人がいたじゃないですか。

ソ:いたね。物語の中で一番最初に灰色の男の毒牙にかかってしまった人だよね。

シュ:そうそ

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エンデとシュタイナー/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

エンデとシュタイナー/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

シュ:本書の前半では、モモはひたすら、このような態度で周りの人たちの話を聴いていたと思うのだけど、
聞く姿勢に徹するというのは非常に難しいことだと思ったんだよね。

ソ:それは価値判断として評価している?あくまでも文面からしか判断できないから推測なのだけど、人の話を聴いている時のモモの姿勢からは絶対的な無反応さを感じたんだよね。
カウンセリングの場合は、アドバイスはしないけれど、それなりに言葉を返

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「劇場」と「物語」/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

「劇場」と「物語」/ミヒャエル・エンデ『モモ』【×えるぶの語り場】

ソ:この物語の舞台はイタリアなのかな?

シュ:だと思われるんだよね。というのも物語の中ではそれについて明言されていないんだよね。
でも、町の人たちの名前や様子から考えるとイタリアがモチーフだと考えられるかな。

ソ:読む前にシュベールが円形劇場について話していたから、注意して読んでいたのだけど、
最初はピンと来なかったんだよね。というのもローマのイメージは円形劇場ではなくて、円形闘技場なんだよね

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ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第五回/「たやすく書かれた詩」【えるぶの語り場】

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第五回/「たやすく書かれた詩」【えるぶの語り場】

シュ:この詩集でソフィーの好きな詩は?

ソ:僕は「たやすく書かれた詩」だな。

第七連の

「人生は生きがたいものだというのに
詩がこれほどもたやすく書けるのは
恥ずかしいことだ。」

という部分が詩を書いていた頃の僕にとってすごく響いた。

シュ:というのは?

ソ:詩人にとって一篇の詩を書くっていうのはとても大変な仕事なんだよね。

それでも、どんなに苦しい思いをして書いた詩だ

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ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第四回/「ひまわり顔」【えるぶの語り場】

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第四回/「ひまわり顔」【えるぶの語り場】

ソ:気に入った詩を三つ選んできてとお願いしていたんだけど、最後の一つは何ですか?

シュ:「ひまわり顔」かな。

まさに一日の僕という感じがするから(笑)

ソ:なるほど。
またサラリーマンとしての自分に重ね合わせたわけね(笑)

シュ:そうそう(笑)

ひまわりって一年草だから、ひと夏で枯れてしまうわけだよね。

その儚さとか哀愁とかもまさに僕だなって。

ソ:たしかに労働者の哀愁というのはとて

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ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第三回/「夜が明ける時まで」【えるぶの語り場】

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第三回/「夜が明ける時まで」【えるぶの語り場】

ソ:他はどんな詩が気に入った?

シュ:「夜が明ける時まで」も好きだな。

「残らず死んでゆく人たちに 黒い衣を着せなさい。

精一杯生きている人たちに 白い衣を着せなさい。」

っていうのを読んで思わず「逆やろっ!」ってツッコんじゃって(笑)
それがこの詩が気になったきっかけなんだよね。

朝鮮の喪服とか死装束の色は日本と同じじゃないの?

ソ:同じだね。

朝鮮も喪服は黒で、黒いチ

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ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第二回/「帰ってきて見る夜」【えるぶの語り場】

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第二回/「帰ってきて見る夜」【えるぶの語り場】

ソ:読んでみてシュベールが気に入った詩を教えてもらっても良い?

シュ:一番は「帰ってきて見る夜」かな。

一人暮らしの身として共感した。

「世の中から帰ってくるように いま私は狭い部屋に戻ってきて灯りを消しまする。」ってあるけど、僕も家に帰ると灯りを点けないんだよね。

会社って常に灯りが点いていて、夜になっても昼間みたいに明るいんだよ。
でもそれって朝起きて夜は寝る人間にとってすごく

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「さようなら全てのエヴァンゲリオン」の意味【えるぶのつぶやき】

「さようなら全てのエヴァンゲリオン」の意味【えるぶのつぶやき】

アヤナミレイ(仮):サヨナラって、なに?

ヒカリ:また会えるためのおまじない。

シン・エヴァンゲリオンでのトウジの妻のセリフは実に的を射た答えである。

フランス語で「さようなら」を意味するau revoir(オ ルヴォワール)は、
直訳すれば「再会(revoir)まで(au)」である。

ドイツ語のauf Wiedersehen(アウフ ヴィーダーゼーエン)も同様にauf(~まで)と

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ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第一回/Don't think, feel!【えるぶの語り場】

ユン・ドンジュ『空と風と星と詩』第一回/Don't think, feel!【えるぶの語り場】

ソ:個々の詩を取り上げる前に全体的な感想を聞いても良いかな?

シュ:大きく三つの感想を持ったかな。
一つは喇叭とか十字架とか、キリスト教的なモチーフが多いということ。
これは宗教を勉強している僕としては入り込みやすかったな。

二つ目は「生きづらさ」を感じた。
これは推測だけど朝鮮人として当時の日本で生きていたということに起因するのかなと思う。

三つ目は、言われているほど政治色を感じない

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『兎とよばれた女』part6/未完成な自伝【えるぶの語り場】

『兎とよばれた女』part6/未完成な自伝【えるぶの語り場】

シュ:今回は最後まで読んできてもらったわけだけど、恒例の感想タイムからいきましょうか。
ソフィーは前回までは「存在の不安定さ」という部分に着目していたかと思うのだけど、そのあたりも含めてどうでしたか?

ソ:根底にある不安というものは感じ取ったわけだけど、今までほどそれについては考えなかったかな。
彼女は自分が何者であるのか?ということに非常に敏感ではあると思うけれども、かぐや姫の章で「自分が女性

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『兎とよばれた女』part5/かぐや姫とプラトン【えるぶの語り場】

『兎とよばれた女』part5/かぐや姫とプラトン【えるぶの語り場】

シュ:早速なんだけど、ソフィーはかぐや姫に対してどのような印象を持っている?

ソ:俺がかぐや姫に対して持っているイメージとしては、男たちに対して無理難題を押し付ける悪女のようなイメージがあるね。

シュ:僕もかぐや姫については、悪女の印象を持っていたのだけど、矢川の語るかぐや姫を読んで少し印象が変わったんだよね。
気取った天上の女というよりは、社会の中(穢れた地上)で悩みながらも生きている一人の

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『兎とよばれた女』part4/本書における神さまと美の定義【えるぶの語り場】

『兎とよばれた女』part4/本書における神さまと美の定義【えるぶの語り場】

ソ:シュベールに聞きたいのだけど、この作品に出てくる神さまは、どんな神さまだと思う?
例えばだけど俺は、新約・旧約という神で考えたときに、本書に関して言うと新約聖書で語られている慈しみ深い全知全能の神さまのイメージは全くないんだよね。
兎を必要としてしまっているからね。
ほら、一神教の神さまって人間を必要としないわけじゃん。
そこで、この神さまのイメージは何に一番近いのだろうか?と思ったわけだよね

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『兎とよばれた女』part3/矢川澄子と2人の男【えるぶの語り場】

『兎とよばれた女』part3/矢川澄子と2人の男【えるぶの語り場】

シュ:今回は「いまはむかし 神さまと兎の住む小さな島国の物語」という二章に該当する部分を読んできてもらったわけだけど、
この章では第一章「翼」に登場した男女は出てこなくて、一匹の兎と姿の見えない神さまとの共同生活が描かれていたよね。
僕は初見で読んだときに、話が急に変わりすぎて「なんだこれは!?」驚いたのを覚えている。

改めてこの章を読んだ感想としては「全体的にエロさが漂っていたな」というのが感

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