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よすけの短編小説まとめ

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書いた小説を投稿した順にまとめています。短いのから長いの。暗いものから明るいものまで。ほっと一息つけるように。
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2022年10月の記事一覧

【短編小説】さがしもの

【短編小説】さがしもの

667文字/目安1分

 自分がこの世に存在しているという理由だけで、なんとか正気を保っている。たぶん自分が許したら簡単にこわれる。

 死にたいわけでも生きたいわけでもない。
 いや、少し嘘をついた。本当は楽しくありたい。幸せを感じたい。笑っていたい。

 だからと言って多くのことは求めない。普通でいい。
 いやいや、これも嘘だ。欲しいと思ったものが、やりたいと思ったことが、いつでも好きに手に入

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【短編小説】ただいま

【短編小説】ただいま

458文字/目安1分

 今日も一日働いた。

 業務がかなり立て込んだ。クレームが起こってしまった。後輩の尻拭いをした。非を認めないあいつ。いろいろなことが重なった。それでも期日は迫ってくる。
 休日の仕事も覚悟しないとかなと思いながら、それでもなんとかする方法を考える。

 とにかく、疲れた。

 心は体にも影響する。動き回る仕事じゃないのに、体が重くなる。ため息が増える。
 だからといって辞

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【短編小説】塩むすび

【短編小説】塩むすび

1,526文字/目安3分

「塩って『えん』とも読むでしょ。だからえんむすび。つくってあげるから、あんたんち貸してよ」

 そんな言葉から、俺はおにぎりをつくってもらうことになった。塩むすびを少し変えて縁結び。バカみたいだけど、まぁいいか、と思った。

 話の流れで好きな人に好きな人の相談することになってしまった。
 たまたま話すタイミングがあって、そこからなぜかお互いの好きな人の話になって、本当

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【短編小説】時がとまる

【短編小説】時がとまる

517文字/目安1分

 視界に入った瞬間、全身が一つの心臓になったかのように、ドクンと大きく脈を打った。
 雷に打たれた感覚などとよく言うが、それとはまた違う。でも、もう気になっちゃって仕方がない。目が離せない。逸らしても見てしまう。
 こんなことが、まさか自分に起こるとは。

 ちっちゃい顔に黒マスク。茶色の髪は肩を越えるくらいの長さで、おそらくパーマをかけている。切り揃えられた前髪がとてもい

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【短編小説】無題

【短編小説】無題

894文字/目安1分

 元気にしているかい?

 いや、元気なわけないよね。わかるよ。正確に言うと、体はいたって健康で心もそれなりに落ち着いているけど、何かどうしようもない気持ちになっている。そんなところかな。もっと言えば、むしろ今が一番楽しいと思っているところもあるね。でも、それ以上に楽しいはずの未来を手に入れられずにやきもきしている。当たっているでしょ。
 やることは山積み。ちょっとずつ溜ま

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【短編小説】ドライブ―助手席―

【短編小説】ドライブ―助手席―

3,297文字/目安6分

 わたしは君の考えていることが分からない。

 車の免許を取ったと聞いた時は、内心はしゃいだ。景色の綺麗な山道とか、夕陽が沈む海沿いとか、勝手に思い描いてその気になっていた。有名なハンバーグ屋さんだっていつか行きたいと思っていたから。いわゆるドライブデートってやつに憧れがあって、それが叶うと分かって嬉しくなったんだ。
 でも、だからと言って相手が誰だっていいわけじゃない

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【短編小説】ドライブ―運転席―

【短編小説】ドライブ―運転席―

796文字/目安1分

 ドライブデートが苦手になってきた。
 お前との距離をもっと近づけたくて、運転免許を取って、バック駐車も練習した。理由をつけて誘うところまではうまくやれるのに。俺だって最初はいい感じなんじゃないかと思っていたんだ。

 それ以上の距離が縮まらない。

 木々の緑と青空のコントラストが映える山道、水平線から夕陽の道ができる海沿い、おいしいと有名な年中行列になるハンバーグステー

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【短編小説】思い出にはならない

【短編小説】思い出にはならない

1,529文字/目安3分

「君と過ごした日々を思い出にしたいんだ」

 そんなことを言われてから早二日。要するに振られたってことだ。わたしがこんなにも好きなのに。自分で言うのは恥ずかしいけど、わたしを狙っている人だってけっこういる。手放すなんてありえない。
 ちょっと掴めないところがあって、不思議な雰囲気を持っている。自分というものがしっかりある感じ。わたしが知らないことも教えてくれて頼りにもな

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【短編小説】帰ってきた

【短編小説】帰ってきた

780文字/目安1分

 非日常と日常の狭間でふわふわしている。

 毎日ただ過ごしているだけでは味わえないそれは、たとえ大雨が降ろうと、大渋滞が起ころうと関係なかった。時間通りに起きないといけない。決まった時間の電車に乗らないといけない。定刻に働き始めないといけない。そういうのも、その時は気にしないでよかった。自分の心が一番自由になれた瞬間の連続だったと思う。

 そういえば、先週からの終わって

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【短編小説】百秒のひとりごと

【短編小説】百秒のひとりごと

567文字/目安1分

 歩く時、最初に右足を出すか左足を出すか迷う時がある。誰も見ちゃいないのに、周りの目線がやたら気になる。休むことも大事だともっともらしい理由をつけて、今日の残りの予定を全部すっぽかす。
 やることは多いのに、まるで手につかない。時間はたっぷりあるはずなのに、いつの間にか一日が終わっている。
 すべてを無駄にせずにいられたら、もっといろいろと手に入れられるのだろうか。

 忘

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【短編小説】トワイライト

【短編小説】トワイライト

771文字/目安1分

 同じ空がどこまでも続いている。
 薄明かりに流れる雲の影。草木を抜ける風。小鳥は地面から飛び上がり、電線にとまった。すすきが揺れて、静けさが踊る。

 わたしは今日、夢をあきらめる。

 最初はとても小さな「やってみたい」からだった。できなくても楽しくて、できたらもっと楽しくて、とにかく夢中になった。「やってみたい」が「やりたい」になり、それがいつしか夢へと変わっていった

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【短編小説】最後の約束

【短編小説】最後の約束

624文字/目安1分

「わたしたち、ずっと友達でいようね」

 ガラにもなく抱き合って、わんわん泣いた。
 家が近所で、物心つく前から一緒にいる。いつも二人で遊んだし、しょっちゅうお互いの家に行くし、お風呂も一緒に入るし、毎週のように泊まりに行く。テストの前も、悩んだ時も、好きな人に振られた後も、当然のように同じ時間を過ごした。

 それなのに、遠くに引っ越して転校しちゃうなんて。

 一生の別

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