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【短編小説】さがしもの

667文字/目安1分


 自分がこの世に存在しているという理由だけで、なんとか正気を保っている。たぶん自分が許したら簡単にこわれる。

 死にたいわけでも生きたいわけでもない。
 いや、少し嘘をついた。本当は楽しくありたい。幸せを感じたい。笑っていたい。

 だからと言って多くのことは求めない。普通でいい。
 いやいや、これも嘘だ。欲しいと思ったものが、やりたいと思ったことが、いつでも好きに手に入れられる。気の許せる人に囲まれる。何より自分の心に余裕がある。

 そういうのが一番いいに決まっている。

 だけど、その普通がほど遠い。周りが簡単そうに持っている普通が、自分には手に入れられない。周りが普通。自分は異常。自分にとってはこれが普通なのに。

 そう、これが普通。何もない。できることと言えば、この普通を受け入れて、静かに飯を食って布団に入って、そうして次の朝を迎えるだけだ。
 あぁ、嫌だ嫌だ。

 自分を救えるのは自分しかいない。でも救えるだけの力がない。だから何かに救いを求めるのに、誰も見向きもしない。みんな自分のことで精一杯なのだ。そういうもんだと思うしかない。

 自分にとっての幸せはどこにあるんだろう。
 明日が楽しみになる夜は。楽しいと思える瞬間は。心から笑える日は。
 日の光を全身に受けられる自分は、どこにいるんだろう。
 自分は今、何の途中にいるんだろう。
 何を探せばいいんだろう。
 そもそも自分に探し物なんてあるのだろうか。

 こんな更地みたいな生活の中で。
 同じ場所を行き来するだけの道で。

 希望なんて、どこを探したら見つかるんだ。

 布団だけがいつも優しい。



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