【短編小説】最後の約束
624文字/目安1分
「わたしたち、ずっと友達でいようね」
ガラにもなく抱き合って、わんわん泣いた。
家が近所で、物心つく前から一緒にいる。いつも二人で遊んだし、しょっちゅうお互いの家に行くし、お風呂も一緒に入るし、毎週のように泊まりに行く。テストの前も、悩んだ時も、好きな人に振られた後も、当然のように同じ時間を過ごした。
それなのに、遠くに引っ越して転校しちゃうなんて。
一生の別れというわけじゃない。何も直接じゃなくても、顔を見る手段も声を聞く手段も、そんなのはいくらでもある。けどそういうことじゃない。家族のように、姉妹のように、時にはまるで恋人のように、常に一緒だったのが離れてしまう。それだけで一大事だ。
「メールするね」
「うん」
「ビデオ通話もしようね」
「うん」
「手紙も書く」
「わたしも」
「悩みができたらわたしがいるからね」
「わたしも」
「すぐ連絡してね」
「うん」
「エッチな写真も送るね」
「それはいいや」
わたしたちはいつの間にか寝てしまうまで、お互いをギュッと抱きしめて、涙を流し続けた。
離れていても、ずっと一緒。
最後の約束を、二人で交わした。
次の日の学校。わたしはなぜか一番に教室に着いた。席に座るもやることがない。もう空いてしまった机をぼーっと眺める。
元気でやれよ。心の中でこっそりとエールを送る。
するとその席に、泣き明かして散々な顔になった、今日出発するはずのそいつがやってきた。
わたしは訊ねる。
「あれ、引っ越しは?」
「なんかね、来月だった」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?