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夜舞ダンス

「ヨマイです。よろしく」
「へぇー、何て書くんですか?」
「夜に舞うと書いて『夜舞』です」
 
舞踏の界隈は狭い。だからこそ、その輪の中に入りたくなかった。世界でただ独りの人間になっても、美しく突っ立つ人間でありたい。それが私の理想であり、私が観客に媒介したい命題でもある。だからなるべく孤独な創作活動に励んだ。
 
私は基本舞いたいと思った場所で舞う。流石に迷惑をこうむる場所では自粛するが、極力素直な感性に従う。すると時に聴衆が出来て投げ銭をくれる。基本無許可のゲリラスタイルなので、警察が来るまでのタイムアタックだ。批判されても仕方がない。理解はしてるが、素直が私の証明だ。
 
私は夜が好きだ。街灯の下に羽虫同様集まり、陰影を楽しむ。光と影を、自分がコントロールしてる。その全能感が想像の源泉を沸騰させる。そして時間の概念が消える。朝焼けに時刻を教えて貰うことも間々ある。
 
ある夜、酔っぱらった女性が声を掛けてきた。
 
「安っぽい言葉ですけど、感動しました。またどこかで踊る事があったら連絡ください」
「毎日どこかで踊ってます」
「ああ、じゃあ、いつかの巡り合わせを期待しますね。応援してます」
 
受け取った名刺には香川陽子と書かれていた。芸能雑誌の編集者らしい。独りで舞い出してから、はじめて同性から貰った名刺だ。正直嬉しかった。

私が孤独に拘るのは何故か。それはもしかしたら孤独が和らぐこの瞬間の為なのかも知れないな。そんなことを感じながらひとつ夜を舞った。

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