マガジンのカバー画像

小説を読んでみた

229
運営しているクリエイター

記事一覧

【読書ノート】『「妹」という祝福』(『家族シアター』より)

【読書ノート】『「妹」という祝福』(『家族シアター』より)

『「妹」という祝福』(『家族シアター』より)
辻村深月著

主人公(私:亜希)には1こ上の姉(由紀枝)がいる。
由紀枝は真面目だ。そして、親の言うことをよく聞いて、習い事も、成績も良い。そして、何より「イケてない」。「私」は由紀枝ことを馬鹿にしていた。そんな姉とは、当然仲はよく無い。由紀枝のようにはなるまいと、「私」は、ファッションを研究したり、髪型を工夫したり、明るくて、中学では、主流を標榜して

もっとみる
【読書ノート】『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』

【読書ノート】『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』

『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』
汐見夏衛著

反抗期真っ只中の、中学2年生の主人公(加納百合)が、親子喧嘩で飛び出して、防空壕跡地に入っていくと、昭和20年の終戦前にタイムスリップするところから物語は始まる。

戦時中の日本で、二十歳の特攻隊員佐久間彰に恋するという物語。

物語の主題は何か?
戦争の虚しさを恋愛感情を通してより、リアルに表現するということなのだと思った。

女子中学生に

もっとみる
【読書ノート】『豪奢luxe 』(『常設展示室』より)

【読書ノート】『豪奢luxe 』(『常設展示室』より)

『豪奢luxe 』(『常設展示室』より)
原田マハ著

主人公の下倉紗希は、何年もその画廊に通い詰めて、ようやく就職することができた。

バリバリ仕事に取り組んでいた時、クライアントであるイケイケのIT企業の社長に見そめられて、彼の愛人になる。彼はお金にモノを言わせて高級ブランド品で、紗希を飾りつける。紗希は、常に待機していることが求められて、画廊の仕事を辞めることを迫られる。紗希もあっさり画廊を

もっとみる
【読書ノート】『自転しながら公転する』

【読書ノート】『自転しながら公転する』

『自転しながら公転する』
山本文緒著

中卒フリーターで元寿司職人の貫一と高卒でアパレルブランドショップの契約社員の都の出逢い、別れ、再会の物語。

・自転しながら公転するということはどういうことか?
個人や社会が常に変化し続けるということ。自転は個人の内面的な変化や成長を指し示し、公転は社会や環境の中での関係や立場の変化を示している。

この概念は、個人の発展や社会の変革に関連する哲学的なテーマ

もっとみる
【読書ノート】『チャーリーパーカー・プレイズ・ボサノヴァ』(『一人称単数』より)

【読書ノート】『チャーリーパーカー・プレイズ・ボサノヴァ』(『一人称単数』より)

『チャーリーパーカー・プレイズ・ボサノヴァ』(『一人称単数』より)
村上春樹著

モダンジャズの代表のチャーリー・パーカーは、天才と言われながら、晩年、薬漬けになって廃人の様に亡くなったとされているのだけど、実は、秘蔵のアルバムがあったという妄想の不思議な世界の物語。

モダンジャズとボサノヴァの違いは?
ボサノバはリズムを強調しない静かな8ビートの特徴がある。ボサノバの基本的なリズムはギターで刻

もっとみる
【読書ノート】『ラーゲリより愛を込めて』

【読書ノート】『ラーゲリより愛を込めて』

『ラーゲリより愛を込めて』
辺見じゅん著

一言で言えば、
第二次世界大戦後のシベリアで日本人捕虜たちは過酷な環境で労働させられる。ロシア語が堪能な山本幡男は帰国の希望を持ち続け、仲間を励ます。幡男は終戦後帰国することができず、シベリアで咽頭癌で、なくなる。そして、幡男の遺書は、日本にいる幡男の家族に伝えられるという話。

インテリな幡男が、書き記す遺書は、捕虜仲間たちが、手分けしてそれぞれの記憶

もっとみる
【読書ノート】『雨上がりの花』(『ギフト』より)

【読書ノート】『雨上がりの花』(『ギフト』より)

『雨上がりの花』(『ギフト』より)
原田マハ著

「私」の先輩藤田さんは、仕事ができる。自分にも厳しいが、後輩にも厳しい。ところが、藤田さんは、離職することになった。仕事ができる彼女は、ヘッドハントされたのだろうと噂されていた。

彼女の離職で、「私」は内心ほっとしていた。そして、藤田さんの後任としての地位を引き継いだのだった。出て行く藤田さんには、最早何も感じなかったのだけど、実は、彼女の離職は

もっとみる
【読書ノート】『ミツザワ書店』(『さがしもの』より)

【読書ノート】『ミツザワ書店』(『さがしもの』より)

『ミツザワ書店』(『さがしもの』より)
角田光代著

主人公(ぼく)は、サラリーマン作家。ある文学賞に作品を応募したら、選考で選ばれたところから物語は始まる。

受賞時のインタビューの時、受賞の喜びを誰に伝えたいかという質問に、本当は、ミツザワ書店の店主とこたえたかったのだけど、無難に両親と言ってしまった。

ミツザワ書店は、高齢のおばあさんが、一人でやっている田舎の本屋だ。様々な本が無造作に積み

もっとみる
【読書ノート】『ホーリー』

【読書ノート】『ホーリー』

『ホーリー』
吉本バナナ著

クリスマスに恋人との待ち合わせ前に起こる出来事を描いた作品。恋人とのすれ違いやトラブルの発生を予想したが、実際には物語は順調に進展していた。

タイトル通り、この神聖な日における尊い行為によって、主人公の心は一層幸せに満たされる。

キーワードを挙げてみる。

①クリスマス
キリストの誕生を祝う宗教的な意味を持つ。また、クリスマスは愛や思いやり、家族や人々との絆の大切

もっとみる
【読書ノート】『白夜行』

【読書ノート】『白夜行』

『白夜行』
東野圭吾著

大阪の廃墟ビルで質屋を経営する男性が殺害された。被害者の息子、桐原亮司と容疑者の娘西本雪穂には、不可抗力から、それぞれに過ちを犯してしまう。

その過ちに漬け込でくる裏社会の人々の中で、静かに、抵抗しながら、表社会への復帰を試みる。

盛り沢山な、悲劇。登場人物がそれぞれ非常に魅力的で、物語に惹き込まれる。

罪を意識した者が、世の中生き抜いていくために、そして、お互いの

もっとみる
【読書ノート】『信仰』

【読書ノート】『信仰』

『信仰』
村田沙耶香著

ある日、主人公(永岡)は、石毛からカルト商法の誘いを受ける。元彼女の斉川を教祖に仕立てるのだという。

信仰とは?
異なる哲学者や思想家によってさまざまに解釈されている。
①信仰が主観的な宗教的経験や感情に基づくのではなく、合理的な考察や論理的な推論に基づくものであるという意味がある。
②信仰が個人の信念や価値観を超えて、普遍的な真理や存在の本質に関連するものとして考える

もっとみる
【読書ノート】『マイホーム』(『この世の喜びよ』より)

【読書ノート】『マイホーム』(『この世の喜びよ』より)

『マイホーム』(『この世の喜びよ』より)
井戸川射子著

非常によくわからない物語なのだけどね。

芝川(主人公)という主婦は、荒川という主人公の旧姓の分譲住宅の販売員から、新築戸建てのセールスを受けるところから物語は、始まる。販売員の荒川さんは、主人公(芝川)の旧姓であり、かつての自分が、投影されているようだ。
荒川さんは、誰もが憧れるとされる新築戸建てこそが、幸せを象徴するものとして、芝川に体

もっとみる
【読書ノート】『レキシントンの幽霊』

【読書ノート】『レキシントンの幽霊』

『レキシントンの幽霊』
村上春樹著

なかなか、主題が、掴みにくい物語。

ケイシーはピアノ調律師のジェレミーと一緒にレキシントンの屋敷に住んでいる。ある時、『僕』はケイシーに家の留守番を頼まれる。留守番の初日の夜、『僕』は深夜に大勢がパーティをしているような物音で目を覚ます。『僕』は、あのパーティは、幽霊の集まりだったのだろうと納得する。

キーワードを挙げてみる。

①アッシャー家
エドガー・

もっとみる
【読書ノート】『コイビト』(『授乳』より)

【読書ノート】『コイビト』(『授乳』より)

『コイビト』(『授乳』より)
村田沙耶香著

ホシオと名付けたハムスターのぬいぐるみを恋人と思う「あたし」は、同じようにムータというオオカミのぬいぐるみを愛する少女、美佐子と出会う。

かなり、村田沙耶香ワールド全快のシュールな物語。

オオカミのぬいぐるみ
自然界の野生や野性を象徴する。オオカミは強さや勇気、自立心、そして集団や家族の結束を表現する。また、オオカミはしばしば知恵や洞察力を持つ存在

もっとみる