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【小小説】ナノノベル

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短いお話はいかがでしょうか
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#note

イレギュラー・ミッション

イレギュラー・ミッション

「アテンションプリーズ。個別のインスピレーションをコネクションしてジェネレーションを正常にセットした後、可燃性フラストレーションをポゼッションによってシミュレーションを完了させてください」

 要求が高いな。僕にはそこまで理解できない。ビニール傘は未開封のまま整列している。スポティファイはエラーなく再生されている。しかしこのままでは行き詰まることは想像できる。やるべきことはとても多い。わかってはい

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魂のハイライト

 みんなにいいところを見せたい。いいことをしたら誉めてほしい。認めてほしい。スキになってほしい。そのために日々精進し、試合となれば全力を尽くす。自分を輝かせることによって人々を喜ばせることができる。それがプロとしての誇りだ。芝生の上の選手たちも、モニターの前の私たちも、その心にきっと変わりはないのだと思う。
 けれども、いくら頑張っても、いつもいつもいいことばかりを続けられるわけではない。運に見放

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疑惑の人

疑惑の人

「者共、疑ってかかれー!」
 うわーっ、僕がいったい何をしたんだ?
「お前元気か?」
「お前起きてるか?」
「お前さそり座か?」
「どこから来たかー」
 一気になんなんだ?

チャカチャンチャンチャン♪

「もっともっとかかれー!」
 何だ? 何が目的なんだ
「お前家から来たか?」
「お前仕事するか?」
「お前兄ちゃんおるか?」
「お前人間嫌いか?」
「夢あるか?」
 何と返せばいいのやら……

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スロー・インプット(ゆとり時代)

スロー・インプット(ゆとり時代)

 捜査官は容疑者をゆったりと泳がせていた。何も急く必要はない。1パーセントの見込み捜査も持ち込まない。そいつが現代的なコンプライアンス。誤認逮捕はかなわない。あくまでも慎重に、捜査はゆったりと行うものだ。容疑がはっきりと固まるまでは見失わない範囲で泳がせる。200年、300年、たっぷりと時間をかけて。積み上げられた捜査資料の中身は殴り書きのままになっている。整えるには早すぎる。(そういう時代だ)

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モダン・オーケストラ

モダン・オーケストラ

 指揮者は時が満ちるのを待っていた。
 待つことを忘れた現代人にとって、それはどれだけ長い時間だっただろう。打楽器も弦楽器も物音一つ立てない。奏者はみんな魂を研ぎ澄ますように静止している。
 動くものをとらえることに慣れすぎてしまった。動かないものたちの前には、戸惑いだけが広がって行くようだ。きっと聴き手にとっても心をあけておくための大切な時間に違いない。

(始まったら聴き入ってしまうのだろう)

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キックオフ前説

キックオフ前説

 みんなが試合開始を待っている。
 私が笛を吹けば待ちに待った試合が始まる。
 しかし、私は軽い気持ちで笛を吹くことはできない。
 私はもはや石ではない。より責任ある審判として言うべきことは言う。

「諸君! 準備は整ったか?」
 VARは大丈夫か。何かが起きてからでは遅い。何事も備えあれば憂いなしなのだ。備えというものは、何かが動き出してからでは手遅れだ。芝は美しく整っているか。線審は旗を持った

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おばあさんの贈り物

おばあさんの贈り物

「玩具はみんな飽きたな」
「まあ、じゃあ何がいいかな」
「魔法使い」
「そうね。もっと素敵なものがあったわ」
「えーっ。何?」
「あとのお楽しみね」

チャカチャンチャンチャン♪

「何これ、食パン?」
「食べ物じゃない」
「だよね」
「こうやって開くの」
「わーっ! 鳥みたい」
「こうして閉じたり開いたりできるの」
「えーっ、飛べるの?」
「風が吹くとほらパタパタ音がする」
「面白いね。飛べるの

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チープ夜空

チープ夜空

「夜空なの。それにしてはチープな星ね。
もしや雨?」
 そう見えるなら、
 いっそ雨として認められるのもいい。
「やっぱり違うわね。
雨ならもっと繊細でなくちゃ。
傘もないし」

チャカチャンチャンチャン♪

「これを星と思えるかしら。
もしやふりかけ?」
 そうだったかもしれない。
 星よりもずっと降りやすい。
「いいえ違うわ。
ふりかけにしては彩りに欠ける。
誰がこれでごはんを食べる?
いっそ

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バナナワナ・リフレイン

バナナワナ・リフレイン

 コアラの形の店構えは見覚えがあった。以前もここに来たはず。そして、少しの躊躇いを乗り越えて扉を開けたのだ。

「いらっしゃいませ」
 ここは世界各国のバナナを取り揃えた専門ショップだ。ほとんどが高級品で、その辺のスーパーではなかなか目にすることもできないものもある。へー、こんな色のバナナも……。と昔来た時も感心したものだと微かに記憶がよみがえる。それはこの魅惑的なバナナの香りのせいかもしれない。

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5G緊急提言記者会見

5G緊急提言記者会見

「俯瞰的、総合的な観点から見るに、我が国における電話料金は極めて高く、早急な改善を強く要望するものであります。月々の家計から決まって出て行く他のものと比較してみても、これは著しく高いと言わざるを得ない」

「その原因はどの辺りにあるとお考えですか?」

「聞くところによると各社様々なプランを出しておるようですが、グローバルな観点から照らし合わせ、これは一般的には猫だまし、また猫まんま、電撃的には猫

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猫の目の404

猫の目の404

 noteを開こうとする度に、繰り返し問題が発生していた。ジョギングに行き、お風呂に入り、アイスを食べて、改めてアクセスを試みる。時間をずらせば、多くの問題は解決する。
「繰り返し問題が起きたためジャンプします」
 飛ばされた先は庭だった。猫がいる。
(ちょうどよかった)
 404美術館に出展する絵を考えていたところだ。

 猫は動かない。僕はまだ筆を取らない。まだ今ではない。猫はじっとこちらを見

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株コーディネーター(善と悪の闘い)

株コーディネーター(善と悪の闘い)

 悪はこの世からなくならない。(いいえ。この私の中からさえも決してなくなることはないだろう)だけど、悪によってこの身を滅ぼされるのはごめんだ。私にできることは少しでも善の力を引き出すこと。そうして何とか世界のバランスを保ち、自分という存在を維持するのだ。
 善なる蓄えを増やすため、私は限られた資金をかき集め株のコーディネーターを頼った。

 彼女は注意深く私の顔色を観察した。それから腹の中を探るた

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夏の残像

夏の残像

 麦藁帽が並んでいた商品棚は、今はもうかぼちゃのオブジェであふれていた。熱狂の蝉たちはもういない。替わって到着した虫たちが秋のクラシックを奏でている。十月の旅人が、クーポンを握りしめて街をさまよい歩いている。
 素麺の包装がキッチンの隅で泣いていた。買い溜めした蒟蒻ゼリーも、まだたくさん余っている。「もっと夏は続くもの…」(夏は暑く長いもの)と思っていたが、気づいたら終わっている。何度終わりを経験

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新桃太郎仮説

新桃太郎仮説

「桃太郎を覚えてる?」
「勿論。昔話の名作だよ」
「実は桃太郎は半分以上子守歌なんだ」
「歌なんかあったかな」
「最初に桃が流れてくる。
テーマソングに乗って
どんぶらこ♪ どんぶらこ♪
この節がメインなんだ」
「そうだっけ」

「どんぶらこ♪ どんぶらこ♪
どんぶらこ♪ どんぶらこ♪
どんじゃらけ♪ どんじゃらけ♪
どんぱんぱん♪ どんぱんぱん♪
どんぶらこ♪ どんぶらこ♪
どんびゅらこっこっこ

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