魂のハイライト

 みんなにいいところを見せたい。いいことをしたら誉めてほしい。認めてほしい。スキになってほしい。そのために日々精進し、試合となれば全力を尽くす。自分を輝かせることによって人々を喜ばせることができる。それがプロとしての誇りだ。芝生の上の選手たちも、モニターの前の私たちも、その心にきっと変わりはないのだと思う。
 けれども、いくら頑張っても、いつもいつもいいことばかりを続けられるわけではない。運に見放されたように、何もかも裏目裏目に出てしまうこともあるのだ。
(いいとこなしの日)
 そんな時間をどう切り取ったら、いいように見せることができるのか。
 それもまた私たちに課せられた大切なテーマに違いない。

 さて、ハイライトに参りましょう。

「試合前、選手たちはバスに乗って到着です」
「予定時刻通りでしたね」
「今日は渋滞も激しかったということですが」
「流石はベテラン・ドライバーといったとこでしょうか」
「見事なハンドルさばきだったと思われますね」
「バスが来なければ試合も始まりません」

「選手たちが順に降りてきました」
「イヤホンをしている選手が多いですね」
「最新のイヤホンでしょうか」
「コンパクトな形の物が多いですね」
「やはり大きいと荷物にもなりますしね」
「最近は線がないんですね」
「線は絡まったりしますからね」
「落ちたりはしないんですかね」
「耳にしっかりとフィットしているんでしょう」
「アスリートだからね」

「どんな音楽を聴いているんでしょうか」
「わかりません」
「Jポップとかですかね」
「中には落語やラジオを聴いている人もいるんじゃないですか」
「そうなんですね」
「英会話のレッスンというのもあるんじゃないですか」

「さて、キックオフ前の円陣です」
「これは素晴らしい円陣でした」
「やはりキャプテンが中心ですね。少し痩せましたか」
「例年ですと正月に食べていた餅をやめたそうですよ」
「なかなか真似できないですね」
「やはりキャプテンがいいとチームがまとまりますから」
「能力は勿論ですが人間性も大事ですよね」
「心の整え方ね」

「キャプテンを中心にがっちりと堅い円陣が組まれました」
「円陣の美しさから気合いが感じられましたよ」
「繰り返しになりますが大変美しい円陣でしたね」
「そういったところからチーム状態が出ますよね」
「と言うと?」
「歯車が噛み合っていないと円陣もばらばらになりますから」

「なるほど。そういったところも注目してほしいですね」
「地球的に美しいですね」
「やはり丸くなるというのは基本になりますか」
「勿論です。ボールだって丸いわけですから」
「絵のようでしたね」
「1つにまとまってこそ戦術も機能するわけです」

「なるほど。形から入るんですね」
「子供たちにも見習ってほしいところです」
「はい」
「俺が俺がでは上手く行きませんから」
「仰る通りです」
「円陣から魂が出てたね」

「さて、円陣が解けて選手が散らばって行きます」
「もっと見ていたかったな」

「試合はつつがなく運ばれ結果スコアレスドローでした」
「円陣がよかった」
「次戦に期待することにいたしましょう!」
「勿論です!」
「ありがとうございました」
「いやよかった」



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