幸伏 線寿(こうぶし せんじ)

小説書き。 短編小説の練習中。 長編は基本ハイファンタジー。

幸伏 線寿(こうぶし せんじ)

小説書き。 短編小説の練習中。 長編は基本ハイファンタジー。

記事一覧

最後の一枚

祖父の古い本棚の奥から、一枚の写真を見つけた。 黒と白のモノクロ画の中で、2人の青年が軍服を着ている。 彼らは肩を組んで笑顔を浮かべていた。 私はその写真を持っ…

朝自棄

『きょう未明、○○州△▽のアパートで大規模な火災が発生し、付近の住民から911通報がありました。火は約4時間ほどで消し止められましたが、焼け跡から6人の遺体が発見さ…

人生

俺は生粋のゲーマーだ。 365日、寝ているとき以外は常にマウスやコントローラーを握るという生活を、もう十何年と続けている。 今までプレイしてきたゲームの数は、何千…

故日、焦がれ 前編

俺には5年前から付き合っている彼女がいる。 出会いは高校の部活動。 バスケ部に所属した俺は、1つ上の先輩でマネージャーをしていた彼女にだんだんと惹かれていったのだ…

夢見の夢

人はなぜ眠る時に夢をみるのか。 諸説あるが、一説には普段の生活に起きた出来事など、脳のあらゆる情報を整理するためとされている。 しかし、医学が発達した現在でもよ…

ここはどこ?

体の節々が痛む。 目を覚ますと、視界は真っ暗で何も見えない。 俺は何をしていたんだっけ。それまでのことを全く思い出せない。 音もなければ臭いもない。頼れるのは触…

暑さと冷房と間取りに関する慨嘆

日本、暑すぎやしませんか。 本書執筆当日(2023年7月11日)、 最高気温35℃、最低気温25℃、湿度61~89%。 はい、異常です。異常による異常。超異常気象です。 まだ7月もはじ…

衰え

ある日、買い物に行きたかった私はふと、店まで走り、走って帰ろうと思いたった。休みの日はつい、ぐうたらしてしまう。普段、運動をしないのに、その日は自分でも分からな…

わくちーん

おい! 副反応で39.6も熱出るって聞いてねぇよ! 1、2回目全然なんともなかったし! 2日安静にしても熱下がりきらねぇんだけど! ずっと頭痛続いてんねん! 「わくちー…

デストロイドエアコン

昨今の暑さは異常だと思う。 こんな時はエアコンなしではやっていけないなぁと、エアコンの下で一筆とっている。 この暑さの中、隣の兄の部屋のエアコンが壊れたという噂…

灼熱

もう暑すぎる 四季はいいけど、体に異常きたすような気候は良くないと思う 誰がそんなふうにしたん?本当に許せない 夏は暑いものだからって夏も流石に調子乗りすぎ やって…

何がしたい? その質問にすぐ答えられるだろうか。 人間の行動は欲望を満たすためにあると思う。 欲望のすぐ満ちる行動というのもあるだろうが、それが全てではない。当然…

金輪際

記録には残らないけど、 記憶にはないけど、 些細な記念はあると思う。 自身が生まれたのも奇跡で、 今この瞬間も新たな命が生まれている。 初めて泣いた日、 初めて言葉…

誰そ、想ふ

人は過去に囚われていては善き未来へと羽ばたけない。果たして自分は何を考えているのか、何のために生きるのか、遥か先のことでも、前が見えなくては、明暗も色彩も、人の…

色褪せぬ色景色

家の前で頭に積もった真っ白な雪を払う。季節外れ の雪だ。もう3月末である。 横にある倉庫はドアが開いていて、雪かきがこちらを覗いていた。久しく使われていないせいか…

天気不予報士

また、予報を見るのを忘れた。 昼と朝晩の気温差が激しいこの時期、朝早いアルバイトに向かうと半袖ではいられない。眠い目をこすりながらタイムカードを切り、正装に着替…

最後の一枚

最後の一枚

祖父の古い本棚の奥から、一枚の写真を見つけた。

黒と白のモノクロ画の中で、2人の青年が軍服を着ている。
彼らは肩を組んで笑顔を浮かべていた。

私はその写真を持って祖父のもとへ行った。

「おじいちゃん、この人達は誰?」

祖父は、しばらく写真を見つめていたが、やがて重い口を開いた。

『これは、若い頃の私とその時の親友だ。私たちは、陸軍部隊での戦友だった…』

祖父は思い出すように、ゆっくりと

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朝自棄

朝自棄

『きょう未明、○○州△▽のアパートで大規模な火災が発生し、付近の住民から911通報がありました。火は約4時間ほどで消し止められましたが、焼け跡から6人の遺体が発見されました。警察と消防は――』

見間違いかと思った。いや、そう思いたかった。
朝のニュースで流れてきたこの映像、……俺の家だ。

妻は……娘は……
嫌な胸騒ぎがして、慌ただしく携帯を手に取った。

『お掛けになった番号は――』

繋がら

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人生

人生

俺は生粋のゲーマーだ。

365日、寝ているとき以外は常にマウスやコントローラーを握るという生活を、もう十何年と続けている。

今までプレイしてきたゲームの数は、何千?何万?だろうか。
そんなのもう、数えていない。
世間的に有名な作品はもちろん、ほとんど知られていないようなマイナーな作品まですべてやりきった。

他人は俺を奇異な目で見るが、そんなことはもう気にならない。
ゲームへの情熱は、俺の生き

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故日、焦がれ 前編

故日、焦がれ 前編

俺には5年前から付き合っている彼女がいる。

出会いは高校の部活動。
バスケ部に所属した俺は、1つ上の先輩でマネージャーをしていた彼女にだんだんと惹かれていったのだ。

当時、何気なしにバスケ部に所属した俺は、部活動への意欲などなかった。
練習も適当にやっていたし、さぼるような日もあった。

そんな俺が変わったのは、ある練習試合でのこと。

日々の練習を疎かにしていた俺は、試合中足を捻挫してしまっ

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夢見の夢

夢見の夢

人はなぜ眠る時に夢をみるのか。

諸説あるが、一説には普段の生活に起きた出来事など、脳のあらゆる情報を整理するためとされている。

しかし、医学が発達した現在でもよく分かっていないというのが実状である。

睡眠は眠りが浅い「レム睡眠」と、眠りが深い「ノンレム睡眠」という周期に分かれている。
人が夢を記憶しているのは「レム睡眠」のときだけで、「ノンレム睡眠」のときの夢は記憶に残らないらしい。

人以

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ここはどこ?

ここはどこ?

体の節々が痛む。
目を覚ますと、視界は真っ暗で何も見えない。

俺は何をしていたんだっけ。それまでのことを全く思い出せない。

音もなければ臭いもない。頼れるのは触覚だけだ。
手を伸ばして辺りを探るも、手の届く範囲には何もないことがわかった。

床は冷たく硬い。
コンクリートでできているのだろう。

地面を這いながら少しずつ周囲の感覚を確かめてゆく。
すると、手が床ではない何かに触れた。

(やわ

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暑さと冷房と間取りに関する慨嘆

暑さと冷房と間取りに関する慨嘆

日本、暑すぎやしませんか。
本書執筆当日(2023年7月11日)、
最高気温35℃、最低気温25℃、湿度61~89%。
はい、異常です。異常による異常。超異常気象です。
まだ7月もはじまって2週目真ん中辺りというところ。まだ8月の本気が控えてるって…。
誰か嘘だと言ってください。
冷たい水をください。できたら愛してください。
…………

今は「梅雨」と呼ばれる時期です。読み方は「つゆ」でも「ばいう

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衰え

衰え

ある日、買い物に行きたかった私はふと、店まで走り、走って帰ろうと思いたった。休みの日はつい、ぐうたらしてしまう。普段、運動をしないのに、その日は自分でも分からないくらいにやる気があった。その時既に、暑さにやられていたのだろう。私は急いで準備を進めた。まさに今から走る人です。というような走りやすい格好をして、外に出た。わかっていたが、暑い。家を出る前に確認した気温は35度。やめとけばよかったなと思わ

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わくちーん

わくちーん

おい!
副反応で39.6も熱出るって聞いてねぇよ!
1、2回目全然なんともなかったし!
2日安静にしても熱下がりきらねぇんだけど!
ずっと頭痛続いてんねん!

「わくちーん」なんて可愛い書き方したけど
お前のこと許してねぇからな!

デストロイドエアコン

デストロイドエアコン

昨今の暑さは異常だと思う。
こんな時はエアコンなしではやっていけないなぁと、エアコンの下で一筆とっている。

この暑さの中、隣の兄の部屋のエアコンが壊れたという噂を聞いた。
エアコン使えないなんて(・ー・) オワッタナ
( ^ω^ )ドンマイ( ¯∀¯ )/
自分の部屋ではいくらでも使えるという優越感に浸った。

しかし、私は兄の行動力を見くびっていた。
私のバイト先はスーパーの他に電化製品など

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灼熱

灼熱

もう暑すぎる
四季はいいけど、体に異常きたすような気候は良くないと思う
誰がそんなふうにしたん?本当に許せない
夏は暑いものだからって夏も流石に調子乗りすぎ
やっていい事と悪い事の区別もつかないわけ?
そんな季節とはもうやっていけないです
もう、こないで!

欲

何がしたい?
その質問にすぐ答えられるだろうか。

人間の行動は欲望を満たすためにあると思う。
欲望のすぐ満ちる行動というのもあるだろうが、それが全てではない。当然、嫌なこともやらなければならないときがある。
嫌なことは欲望ではないのではないか、という声が聞こえてきそうであるが、私はそうは思わない。

では、嫌なことなのになぜやるのか自身に問うてみてほしい。もちろん、嫌なことは嫌で、やりたくないこ

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金輪際

金輪際

記録には残らないけど、
記憶にはないけど、
些細な記念はあると思う。

自身が生まれたのも奇跡で、
今この瞬間も新たな命が生まれている。

初めて泣いた日、
初めて言葉を発した日、
初めて足で立った日、
初めて1人で物を買った日、
初めての友達、
初めての恋、
初めてのキス、
初めての別れ、
初めての上下関係、
初めての自慰、
初めての受験、
初めての運転、
初めての一人暮らし、
初めての酒、

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誰そ、想ふ

誰そ、想ふ

人は過去に囚われていては善き未来へと羽ばたけない。果たして自分は何を考えているのか、何のために生きるのか、遥か先のことでも、前が見えなくては、明暗も色彩も、人の表情も、何も分からない。

凛とした早朝の雨空、まだ成熟していない柘榴を頬張る。甘味は微かに感じるが、まだ酸味が強い。もとより期待はなかったが、期待をしていた。若い芽を摘むことは未来を摘むことと為す。若き者が杯を酌み交わすようにはなれない。

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色褪せぬ色景色

色褪せぬ色景色

家の前で頭に積もった真っ白な雪を払う。季節外れ
の雪だ。もう3月末である。
横にある倉庫はドアが開いていて、雪かきがこちらを覗いていた。久しく使われていないせいか、雪かきは綺麗なまま保たれている。やっと使われると知って、いつもより頬を赤らめているように見えた。

家の中に入ると、母が料理をつくっている後ろ姿が見えた。
おかえり。
ただいま。
毎日の挨拶だが、これが安心する。母は相変わらず少し小さい

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天気不予報士

天気不予報士

また、予報を見るのを忘れた。

昼と朝晩の気温差が激しいこの時期、朝早いアルバイトに向かうと半袖ではいられない。眠い目をこすりながらタイムカードを切り、正装に着替える。エプロンの紐をキュッと締めると、身も引き締まる気がする。挨拶は絶対とされていて、それは欠かさない。7時からの業務はまだ人も少ない。客のいない店内は道がスッキリしていて、堂々と歩いて作業場へ向かう。自分の作業場へ着くと、社員とチーフマ

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