短編小説「ある珈琲店の一杯」
私が初めてこの小さなコーヒー屋に足を踏み入れたのは、秋も終盤に差し掛かり、寒さが厳しくなる時だった。
店外まで漂う深いコーヒーの香りに誘われ、気づけば毎日通うようになっていた。
マスターが淹れるコーヒーは、どこか懐かしさを感じさせた。
でも、飲んだことのない新たな風味。
一口ごとに、その不思議な感覚を味わっていた。
ある日、他の客がいないのを見計らって、カップを拭くマスターに声をかけた。
「いつもありがとうございます」
『いえ、こちらこそ。いつも私の自慢のコーヒーを楽