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短編小説「まだ小さな手」

息子の部屋から物音がする。
ドアを開けると、息子が一人で着替えていた。

「手伝おうか?」

『だいじょうぶ。ぼくひとりでできるもん!』

そう言って、真剣な顔でボタンと戦っている。

小さな指が不器用に動く。
最後の一つがなかなか閉まらないようだ。

『うーん…』

歯を食いしばって頑張っている。


カチッ

手を貸そうとした瞬間、最後のボタンが留まった。

『やった!』

息子の顔が輝いている。

「おー、できたねー」

頭を撫でようと手を伸ばしたが、息子は軽くよけた。

『もう子供じゃないもん』

その言葉に、はっとする。

そうか…。


あの頃を思い出す。

産まれたばかりの息子を抱いた時。
小さくて、か弱くて。

オムツを替えるのも怖かった。
ミルクの温度も心配で仕方なかった。

でも今は、自分で着替えができる。

成長って、こんなに早いものなのか。


『パパ?』

息子の声で我に返る。

「ん?  ああ、何でもないよ」

『ぼくね、おおきくなったら、なんでもひとりでできるようになるんだ!』

息子は腰に手を当て、体を後ろに反らしながら言った。

「そうだな。お前は俺の自慢の息子だ!」

『うん!』

息子は大きく頷いて答えた。

これからも、こうやってどんどん成長していくのだろう。


その時、外がピカッと光り、数秒後にゴロゴロと雷が鳴った。

『パパー…』

息子は眉を下げ、手を前に伸ばしながら近づいてきた。

「はい、わかった。おいで」

いつまでこうしてくれるかな。
俺は息子の小さな体を抱き上げた。

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