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古川柳つれづれ 雷をまねて腹がけやっとさせ 柄井川柳の誹風柳多留初篇より①  ついでに今までの「誹風柳多留」記事目録

 柄井川柳が選んだ江戸時代の川柳。五七五でつくる昔の川柳を「古川柳こせんりゅう」という。「誹風柳多留」に載っている川柳を以前紹介してきたが、おもしろい作品はまだまだあるので、残っている作品紹介をしていきたい。

 後半には、今までに紹介した作品を並べている。

 今回は、最初にわかりやすい漢字表記にしたもの。次に誹風柳多留掲載番号と原本の漢字表記にしている。前句もつけている。
 


かみなりをまねて腹がけやつとやっとさせ


1 かみなりをまねて腹がけやつとやっとさせ  こはいこわい事かなこはい事かな

 以前に一度紹介しているが、解説をしていなかったので、簡単な紹介を。
 昔は、地震・雷・火事・親父と、恐い物の代名詞だった。地震はどうしようもない。地震大国日本では特に恐い。火事も、家が密集した江戸の町では、一度火が出ると周りへ広がって恐ろしい。親父も昔は威厳をもっていて、家族にとっては恐ろしかった。この句の雷も、避雷針もない時代だから避ける方法がなく、雷が鳴ると隠れてじっとするしかない。
 服を着ずに裸で走り回っている子どもに「ゴロゴロ」と雷のまねをして、「腹巻きをしないと雷様におへそを取られるよ」と言って、やっと腹巻きをさせた。という句。雷様がへそを取るから腹を冷やすなと昔は子どもに言っていた。

 古川柳は、前句まえくという七七の問題があり、その答えを五七五で答える。いい作品には賞金を出すという遊びだった。作者は名もなき一般人。この句の前句は「恐いもの(こはいことかな)」。恐いもの何だ。おおっ、雷だ。

かみなりをまねて腹がけやつとやっとさせ恐いことかな恐いことかな
と、五七五七七になる。昔からの和歌の流れが残っている。
 川柳には、日常の一コマを五七五に切り取る、日常生活を詠んだ句も多い。

 

子ができて川の字なりに寝る夫婦

47 子が出来て川の字りに寝る夫婦  はなれこそすれはなれこそすれ

 「川」の字は、三人が並んでいる形をしている。なんて説明も必要になってきた。「川の字」といえば三人が並んで寝ることだとわかるのは、どの年代までだろう。夫婦が二人並んで寝ていたのに、子どもができたら、真ん中に子どもを寝かせるから、夫婦は「離れる(はなれこそすれ)」ことになる。狭い家に住んでいる庶民の日常。
 

国の母生まれたふみを抱き歩き

120 国の母生まれたふみを抱きあるき  いきみこそすれいきみこそすれ

 故郷を離れて結婚した娘に子どもが産まれた。すぐに訪ねていけるような交通事情ではない江戸時代。飛脚が出産の知らせの手紙(ふみ)を届けた。生まれた子どもを抱くように、その手紙を抱き歩きながら喜びをあらわす母親。子を思う親の気持ちは、いつの時代も同じ。
 前句の「いきむ(いきみこそすれ)」は、出産時に力を入れる「いきむ」ことだろうか。

 

本降りになって出て行く雨宿りあまやどり

597 本ぶりに成てなって出ていく雨やどり  前句不明

 日常生活の一コマ。雨が降ってきたので雨宿りしていたけれど、いつまで待っても雨がやまない。「ええい、もう行こう」と出る時は本降りになっていた。よくある日常生活を切り取って表現する。江戸の昔も今も同じ人間。
 

 文章があんまり長くならないように、A4の1ページにおさまるようにnoteには書いているので、今回は、ここまで。
 
 

見出し画像はぱくたそからお借りしました。



 今まで古川柳の紹介記事を書いてきたが、私の江戸時代のマガジンに入れているので、調べにくい。どの句がどこにあるか、誹風柳多留の記事だけをここでまとめておく。
 最初の数字は初篇(1)から十篇(10)までの番号。

誹風柳多留まとめ

1-①

かみなりをまねて腹がけやつとさせ/子が出来て川の字なりに寝る夫婦/武蔵坊とかく支度に手間がとれ/役人の子はにぎにぎをよく覚え/これ小判たつた一晩居てくれろ/清盛の医者ははだかで脈をとり/病みぬいたやうに覚える四十三/道問へば一度にうごく田植笠

1-②
天人もはだかにされて地もの也/恥ずかしさ知つて女の苦のはじめ/男じゃといはれた疵が雪を知り/関とりの乳のあたりに人だかり/車引女を見るといきみ出し/飛鳥山毛虫に成て見かぎられ/若後家にずいきの泪こぼさせる/寝て居ても団扇のうごく親心/子を抱けば男にものが言ひ安し/長噺とんぼのとまる鑓の先/旅戻り子をさし上げて隣まで/母おやはもつたいないがだましよい/はやり風十七屋からひきはじめ/まおとこを見出して恥を大きくし

1徒然-①
雷をまねて腹がけやっとさせ/子ができて川の字なりに寝る夫婦/国の母生まれた文を抱き歩き/本降りになって出て行く雨宿り

1徒然-②
ないやつのくせにそなへえをでっかくし/隣から戸をたたかれる新世帯/食い潰すやつに限って歯をみがき/ままごとの世帯くづしが甘へて来/勘当も初手は手代に送られる

1徒然-③
役人の子はにぎにぎをよく覚え/これ小判たった一晩いてくれろ/赤とんぼ空を流るる竜田川/神代にもだます工面は酒がいり

1徒然-④
江ノ島を見て来た娘自慢をし/御一門見ぬいたやうな銭使ひ/妙薬をあければ中は小判なり/歌かるたにも美しひ意地があり

1徒然-⑤
その手代その下女昼はもの言はず/夜蕎麦切ふるへた声の人だかり/病上がり母を使ふがくせになり/一人者 内へ帰るとうなり出し

2-①

母の名は親仁のうでに しなびて居/わがものでたばこは人にしいられる/あいさつに女はむだな笑ひあり/改元の日は片言を店へふれ/まよい子の親はしやがれて礼を言ひ/ほうばいがていしゆ見るとて寄りたがり/本ぶくのびくには結つてみたく成/草の庵朝寝おこせばさるぐつわ/役人のほねつぽいのは猪牙に乗せ/突出しの ひつじほど喰う恥ずかしさ

2-②
添乳して何かていしゅにかぶり振/もろ白髪まではあぶなき女房也/はげあたま能い分別をさすり出し/去り状の跡へ紺屋が出かして来/懸り人寝言にいふが本の事/手習子かへると鍋をのぞいて見/ぐち噺おくって出ても小半時/あたりからやかましくいふ年に成/おふくろはただこっくりを願って居/手の筋を見ると一と筋けちをつけ/尺八にむねのおどろくあら世帯

2徒然-①
この部屋に一人寝ますと気をもませ/婿のクセ妹が先へ見つけ出し/また一度手紙を開く枕あて/蟻一つ娘盛りを裸にし/女房はまず荷が着くと開けたがり

2徒然-②
掛人小さな声で子を叱り/お妾をよく見て帰る柊さし/兄は訳知らずに祝ふ小豆飯/五右衛門は生煮への時一首詠み/着飾って乳母は裸を追い回し

2徒然-③
乳母が手へわたると羽子も二つ三つ/座頭の坊しごく大事に芋を食い/焼香を先へしたので後家と知れ/女房になぶられて出る地紙売り/吸い付けて煙をいただく野がけ道

2徒然-④
地獄でも目明しをする首二つ/隅田川所の人はかもめなり/二十五と四十二で込む渡し舟/催促も質屋はゆるりゆるりとし/かるたの絵我が敷島の道ならで

2徒然-⑤
穴蔵へ気強い嫁は一人降り/姑の嫁には氷孫に溶け/そば切りの明かりをかする夜はまぐり/手の筋を見ると一筋けちをつけ/ほととぎす「聞かぬ」と言へば恥のやう

3-①

仲条はむごったらしい蔵をたて/ふきがらをじうといわせるちんこ切/にへきらぬ娘を伯母へとまりがけ/けいせいは一はぢかくとはやり出し/料理人まわらぬ舌でほめらるる/国者に聞けば四五人居士に成/知れぬ字を砥へ書て聞くちんこ切/すっぽんの首を関守見て通し

3-②
麦ばたけざわざわざわと二人逃/仲人も夜ふけて呼べば虫をやみ/屁をひっておかしくも無い一人者/うたた寝も上ひんなのは本を持ち/三度迄産婦へ聞いてじれさせる/三声めのたのみましょふはぞうり取/ていしゅからものを言ひ出す朝がへり/礼もせぬくせに藪医のなんのかの/けだもの屋藪いしゃ程は口をきき/麦めしできたへ直して嫁を取

3-③
朝湯には一人か二人通りもの/わんとはし持って来やれと壁をぶち/文枕たわけな夢を見るつもり/夜夜中二三度くるふあら世帯/女房へ乳だ乳だと追っつける/母おやもともにやつれる物思ひ/添とげてのぞけばこわい清水寺/傘を半分かして廻りみち

3-④
ふけいきといひいひげいしゃ宿の月/その気味といふが師匠のにげ所/寝所をへし折て置く一人者/物もふに手間をとらせる真っぱだか/にげしなに覚て居ろはまけたやつ/尺八はいしやうの能いがいっち下手/男の子はだかにするととかまらず/入りもせぬ物の直をきく雨やどり/長屋中けんしが済むと井戸をかへ/こん礼のあしたむすこは見世でてれ/また一度十七八ではいならい

3徒然-①
ものさしで雪をつっつく日記づけ/女房の留守もなかなかおつなもの/貸本屋何を見せたかどうづかれ/女房を持って朝寝に傷がつき

3徒然-②
衣川さすが坊主の死にどころ/傾城の枕一つは恥のうち/四百づつ折々母はたばかられ/たぬき汁化かされたのが一の客

3徒然-③
女房を恐がるやつは金が出来/師匠様親類書きの伯父になり/湯浄瑠璃着物を着るとけちな声/眉毛へも女六部は手を入れず

3徒然-④
来た月を入れてはつはつぐらいなり/食いかけて下女は返事をしてもらい/居続けに初めて見出す白あばた/ころび合おふくろさまのやうに見へ

3徒然-⑤
勘当を許して口が二つ増え/女湯の方へはらせる血の薬/雨蛙すぐに其角がわきをつけ/妖怪の中でもぬゑは細工過ぎ

4-①

女湯へおきたおきたとだいて来る/麦ばたけ小一畳ほどおったおし/海あん寺真赤なうそのつき所/あいそうも男へすれば疵になり/見せもせず無筆は文をもてあまし/武士のけんくわに後家が二人出来/弥陀しゃかの違ひ不縁の元となり/あの女房すんでにおれがもつところ/御袋のやうだとかげでけちをつけ/なりひらのかさをかかぬもふしぎ也/ほれたとは女のやぶれかぶれなり

4-②
金時が行きそうな所らしやう門/不心中五十三次ぱっとしれ/女の詩歌よりどふかにくらしい/わがすかぬ男のふみは母に見せ/仲人の夫婦わらいが上手なり/こし元のけしやうにきびに手間が取れ/かかさまがしかると娘初てはいひ/去り状を取る内年が三つふけ/四日目は乞食で通る日本ばし/おやぶんは水浅黄迄着た男/座頭の坊やっぱりぬいた方へにげ/くどかれて娘は猫にものをいひ

4徒然-①
十二月人を叱るに日を数え/聞き分けもなくまた来ては蚊を入れる/香の物へし折って食ふ一人者/夜蕎麦売りいつの間にやら子をでかし

4徒然-②
かの後家が来たと楽屋の窓で言ふ/唐辛子辛いと言ふにそれ見たか/米の飯まで食わせたと泣いている/けどられた下女は嫌みを聞き飽きる

4徒然-③
他人には響かぬ乳の恥ずかしさ/女房は途中で会ってさへぬもの/間男に一言もない世話になり/あくる晩女房を叱る旅疲れ

4徒然-④
うるさくてどふもならぬと雛を出し/本くじはまた検校にしょしめられ/料理人気のへるほどにくずを出し/女房は客へ添乳の申し訳

4徒然-⑤
紫は石の上にもいた女/裃の音ばかり聞く綿帽子/姑の気に入る嫁は世が早し/間男が抱くと泣き止む気の毒さ

5-①

旅あんまはちにさゝれるような針/うらやんでぢゞいを起すしうとばゞ/船頭も跡のばゝあは義理で抱き/はへぬのを十六七はくろうがり/おしいかなひそうの娘むごん也/あいそうに聞く三みせんのやかましさ

5-②
高砂は今もついでに行くところ/ぞう兵は又来ましたと後三年/信長へお国ものだと申上げ/雨舎り煙管を出して叱られる/着かへずに芝居帰りの夜をふかし

5-③
留守ねらうやつはあいつとあいつなり/近所には居るなと母は弐両かし/千両は壱分かけても気にかゝり/うたゝねの顔へ一冊やねにふき/朝帰り旦那がまけてしづか也/あまでらに行つて我身にして帰り/手紙には狸台には鯉をのせ/かし本屋是はおよしと下へ入れ/御つゞきが有るかと聞いてわるくいひ

5徒然-①
「気ばかりさ」などと御隠居酌へさし/銭のないやつは窓から首を出し/間男のふんどしをとく旅の留守/一人者客にしばらく留守をさせ

5徒然-②
病人のみんな見ておく医者のくせ/裃で浄瑠璃よほどひどく酔い/ぬき足で帰る亭主は邪推なり/旅帰り大きな腹のままで去り

5徒然-③
四五両のおこわを息子夕べ食い/雛祭り旦那どこぞへ行きなさい/股ぐらをぱっかり開けてこれが勝ち/妹の先へ片付く気の毒さ

5徒然-④
おさへればススキ離せばキリギリス/気がへると小遣帳をやめにする/三囲の雨は「豊か」の折句なり/「大根種有」は村でのよい手なり

5徒然-⑤
あいぼれの仲人実はまわし者/「いくらいります」と質屋はズラリ抜き/転ぶからそれで流行ると芸子言ひ/どっからか出して女房は帯を買い

6-①

こんじきの男蜆に喰ひあきる/なんになりますと大工は切つてやり/とむらいのあたまにしては光り過/ぶどう棚なつたと旦那大さわぎ/麦秋に書出しを遣るかるい沢/小判ではいやだとにげるつくし売/妹の無げいは姉のふらちゆへ/金時は鬼が出ないとねかしもの/女にはいつそ目のある座頭の坊/へんな日に斗髪ゆひやすむなり/おどり子の母くどくのを聞て居る

6-②
ほれたやつ見ぐるしい程つかわれる/子が一人出来てそれなりけりになり/ぬきん出てとなりのじゑきしよつて来る/うらないにさいなんと出る通りもの/すゞみ台ぎしりぎしりと人がふゑ/浪人は長いものから喰はじめ/夫婦づれ女房に先きへ出やという/うたゝ寝の書物は風がくつて居る/出合茶屋あやうい首が二つ来る/雨乞も女はたんと口をきゝ

6-③
風呂しきをとくとかけ出す真桑瓜/蛙とぶ池はふかみの折句なり/しかられて枕へ戻るやみあがり/田舎不義とう丸籠が二つ出来/酔たあす女房のまねるはづかしさ/道ならぬ恋に明店弐けん出来/為になる間男だからしたといひ/屁をひつて嫁は雪隠出にくがり

6徒然-①
子を抱いて総身のすくむ相撲取り/和尚様苦しいわけは二世帯/とびじらみ女房にゆすりぬかれたり/女房の聞くやうに読むにせ手紙

6徒然-②
形見分け以後は音信不通なり/嫁の留守孫も味方におびきこみ/小言かと思へば女勢揃へ/あくる日は夜討と知らず煤を取り

6徒然-③
乳母が尻たたいて御用憂き目をみ/金が続かぬと若後家地をかせぎ/心中があるで強くも叱られず/後の月一人一人にごみを出し

6徒然-④
何が恥ずかしいものだところばかし/母のない芸子五月まで隠し/女房はおふくろよりも邪魔なもの/はなれ馬よくよく腹の立つ気色

6徒然-⑤
日本勢人参蔵でつかみやい/読めぬ字を「何」といふ字に読んでおく/締めているのが入り婿へ恥づかしい/「じっとしていな」と額の蚊を殺し

7-①

からかつたうへで三つ組かしてやり/藪いしやへ断いふて御やくゑん/ごふく店夫婦げんくわで行ところ/はねの有いひわけ程はあひるとぶ/ぶん廻しあんまり人の持たぬもの/朝帰りそりやはじまると両どなり/その方でもつとなさいと土弓いひ/当分はひるもたんすのくわんが鳴り

7-②
立聞に持つた十能の火がおこり/江戸衆は数がいけぬとかるい沢/どつさりとざるへぶち込む浅ぎ裏/ねかす子をあやしてていしゆしかられる/朝寝する人をおこすは昼といふ/酢のわけを聞いて酒屋の内義起き/二日酔のんだ所をかんがえる/品川の客にんべんのあるとなし

7-③
おんだされましたとていしゆだいて来る/小間物屋男に櫛をうりたがり/村中の嫁入へかす無事な馬/わるものに成りはじまりはあざを付け/狼はさい布斗を喰ひのこし/こね取りはさきをぬらしてさあといふ/おやといふ二字と無筆の親はいひ/りやうり人すとんすとんとおしげなし/本堂に余つたが後家じまん也

7徒然-①
居酒屋のけんか騙りの方へおち/あればかり男かと母じゃけんなり/ほととぎす二十六字は案じさせ/新枕ほどなくごおんごんといふ

7徒然-②
もてぬやついっそ地口を言ひたがり/店中で知らぬは亭主一人なり/「どふだな」と隣へ見舞ふ大晦日/数へ日は親のと子のは大違い

7徒然-③
くどくやつ吸いつけながらにじり寄り/いっそ蚊のくふもこらへる弾き語り/どこへ行くもんだと家をついと出る/嫁の礼おふくろばかりしゃべりぬき

7徒然-④
吉原はもみぢ踏み分け行く所/うちわでは思ふようにはたたかれず/「ぬきみでもつまりませぬ」と一人者/ぬれ事をまことにしたで嶋へ行き

7徒然-⑤
晴天に持もって通るは借りた傘/一里塚西瓜の皮ですべるとこ/あかね裏着るうち下女も律儀なり/繁盛な店は裾野の呉服店

8-①

おやは子の為にかくして溜めるなり/僧はさし武士は無腰のおもしろさ/かし本屋無筆な人につき合ず/ちやんころが無いとみゝずを掘て居る/かし本屋無筆にかすも持て居る/壱人もの店ちんほどは内に居ず/銀ぎせるおとした噺三度きゝ/うつかりとのぞかれもせぬごふく店/川どめに手にはを直す旅日記

8-②
そば切でさへもてんやは汁ずくな/毎年の事万歳をおかしがり/てんでんに宿所をかたる雨舎り/出されたを出て来たにする里の母/旅の留守内へもごまのはいがつき/川を越す女壱寸づつまくり/ぬれる外よい智恵の出ぬ雨舎り

8-③
通りぬけ無用で通りぬけが知れ/二人して出すとはけちな出合茶屋/又伯母といふかとしかる後の妻/兄弟の中へ寝るから中納言/前九年ひつぱり合て一首よみ/足斗洗って仕廻う関相撲/絵が無いと男女の知れぬ百人首/小べんをすわつてしろとぜげんいひ

8徒然-①
雛の箱まだ文も見ず開けたがり/我が好いた男の前を駆け抜ける/見つかって椎の実ほどにして逃げる/得心の娘うふふんと笑ふなり

8徒然-②
いやならばいやといやれはいやみなり/どふいふ気だかと赤子に雛を見せ/床をする噂で弟子がみんな引け/甲冑を帯したとこへ暑気見舞

8徒然-③
笑われるたびに田舎の垢がぬけ/竹の子は一本抜いてまず逃げる/「ものもふ」のたびに凧から駆けつける/桜ほどだらだらされぬ紅葉狩り

8徒然-④
書き置きはめっかりやすいとこへ置き/江戸の真ん中で別れる情けなさ/戸塚から五文で来たと御用言ひ/吉原へ紅葉をこぼすつむじ風

8徒然-⑤
わたしをばばかした気さと内儀言ひ/愛想のよいのを惚れられたと思ひ/朝帰り一人しゃべって静かなり/朝帰り回らぬ舌で言ひ負ける

9-①

あの金をどふするのだと息子いふ/みんみんがなくぞとむす子おこされる/松茸の出そうな名也男山/筆まめは名迄せいしやうなごんなり/手の墨を洗ふをしかる渡し守/人は人なぜ帰らぬとおやぢいひ/金魚うり是か是かとおつかける/おくさまのよぶおどり子はおどる也

9-②
日ぐれからかこわれへ来るよ入道/百人の中へ一声ほととぎす/歌がるた見物をするはづかしさ/茶ののめる庵はみやこの辰巳也

9-③
ふり袖の天命を知る吉田丁/弟のけしようはあねのわるさなり/思ふむねあつて時政ちゝくらせ/人形を鑓のかわりに能つかい/色色にからだのかわるばくちうち/ぬゑ程にさわぐをきけば毛虫なり/はだかの子おもしろがつてにげる也/戸を明けておやおやおやと雪の朝

9徒然-①
女客亭主愛想に二人抱き/あくせくと塗っても後家は拭いて出る/十三日ふだんの顔は不精者/幸村は生きる気でない紋所

9徒然-②
放れ馬大手を広げては逃げる/江の島は名残を惜しむ旅でなし/夜出すとこなたのせいと嫁へ言ひ/木の下にむき捨ててある瓜の皮

9徒然-③
あいつらは長生きをして食べまする/帳面に鯛鯛鴨といそがしさ/来は来たが話し相手のない徐福/こけおどしにも詩は少しつくりたし

9徒然-④
親のすね今を盛りとかぢるなり/まつすぐに白状をする五月目/不快だと嫁を会はせぬにくいこと/釣り竿をしまつて周の代を始め

9徒然-⑤
勘当をとふとふ母はしそこない/うまそうに何やら煮へる雨やどり/「すべて女といふもの」とそこらを見/屋形船姿を変へて一かせぎ

10-①

死ぬと値がすると画書をむごい評/餅の有る内はなまける壱人者/さり状を書くと入聟おん出され/はたちにもたらないたねを後家やどし/戸つかだと思つた晩にとつかまり/あまでらは男の意地をつぶす所/きついやぼどろぼうらしく引ぱられ/美しひ神子打わらのやうに成

10-②
旅のるす何をしよふとまゝな事/政宗ではなはだもめるかたみわけ/町人でしち屋を出るはひどい事/人間の顔でからだはこたつ也/親の気になれとは無理なしかりやう/成程といつて又見る遠めがね/歌がるた子の刻迄がかぎり也/百人のかつえぬやうによみはじめ

10-③
鎌倉に鰹もくわず三とせ居る/二度目には娘で通るわたし舟/此花を折るなだろうと石碑見る/初かつほ片身となりへなすり付/人来るときんばついとわきへのき/内義同士けんくわねの有る事と見へ/本性に成ると辻番いけんする/高いよと初てにおどかす初鰹/どつこいとおどり子またをおつぷさぎ

10徒然-①
一歩でもあるうち息子とかまらず/つかまった時分は娘空財布/藪医そのくせにうるさく多言なり/焼き魚団扇を読んで叱られる

10徒然-②
飲まぬやつ一日拝む花の山/しよせんなく桜へ登り降りられず/枝豆でつっぱってくる重のふた/言ひ訳を聞かぬは闇と月夜なり

10徒然-③

歌がるた好いた男を入れたがり/「いつもお若い」とは後家へあてこすり/宿近く草履をはいた人に会い/たいくつの中を流るる富士の雪

10徒然-④
歌がるた仲間へ息子まぎれこみ/大道へ二汁五菜を吐いてゐる/ふき味噌を子になめさせて叱られる/倒れ者おととい剃った医者にかけ

10徒然-⑤
美しひ顔をくづして子をあいし/おそろしきものの食いたき雪の空/番頭は柱で肩をもんでゐる/納ってから竹光をさしはじめ


古川柳紹介は、とりあえずここまで。


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