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古川柳つれづれ 蟻一つ娘盛りを裸にし 柄井川柳の誹風柳多留二篇①

 江戸時代に柄井川柳が選んだ誹風柳多留はいふうやなぎたる二篇の古川柳作品紹介。
 前回は初篇の作品を紹介した。「初篇」があるということは続きがあるということ。川柳の作者は、名もなき庶民だが、川柳に熱中した江戸人がたくさんいたということだろう。だから初篇に続いて二篇が作られた。
 江戸の心を少し知ってほしい。それが現代につながるものも多くある。

 漢字等を読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。自己流の意訳川柳を載せているものもある。
 


この部屋に一人寝ますと気をもませ

15 この部屋に壱人ひとり寝ますと気をもませ  にく事かなにく事かな


 「この部屋に一人で寝ます」と気をもませて言った。どういう状況なのかを考えなければならない。五七五の川柳に続く前句の七七が「憎いことかな(にくひ事かな)」だから、うーん、「私は今夜はこの部屋に一人でいますよ」と女が言う。むむ、うん。憎いこと言うなあ。よし。「夜這いを誘っているのだ」と男は勝手に解釈したのだろう。

「この部屋に一人寝ます」と気をもませ憎いことかな憎いことかな

 もともとは五七五七七の和歌からできた川柳だから、前句の七七とあわせて見なければならない。

 よっしゃと夜這いをかけても相手はそんな気がなければただの猥褻行為。
 夜這いという風習はなくなってきたけど、今も勝手に相手の気持ちをいいように解釈して行動し、泣きをみることも多いだろう。だからカップルが減ってきたのだろうか。ふられるショックを味わいたくない。
 逆に、強制的な猥褻行為をする。ニュースになる。うーん。

 江戸の昔も現代も、男と女の悩みは同じようなことかな。

 現代風に言えば、

「帰りたくない」と女は気をもたせ
 


婿むこのクセ妹が先へ見つけ出し

105 むこのくせ妹がきへ見つけ出し  じまな事かなじやまな事かな


 見事結婚をした夫婦は大家族の一員となる。男が女の家に入ることもある。周りに家族がいるので、夫婦二人でなかなかいちゃいちゃできない。で、夫のクセも妻ではなく、同居の妹が第三者の目で先に見つけた。もう、「じゃまなこと」だなあ。

彼のクセ妹が先に発見し

 結婚していなくても、家へ呼んだ彼のクセとか性格は、家族の方がよくわかったりする。いやいや、実は妹と彼は、ずっと前からつきあっていたんだ、というのはメロドラマの見過ぎ……。
 


また一度手紙を開く枕あて

212 また一度手紙をひらく枕あて  のこりこそすれのこりこそすれ


 「枕当まくらあて」は、枕にあてる紙。昔は頭に油を塗っていたので、枕が汚れないように紙を敷いた。「枕紙まくらがみ」ともいう。「残っていた(のこりこそすれ)」手紙を枕紙にしたけど、ついつい昔の手紙を開いて読んでしまう。

断捨離は手紙も一度見返して

 現代では、こんなところか。

 


あり一つ娘盛りむすめざかりを裸にし

333 あり一つ娘ざかりをはだかにし  つら事かなつら事かな


 アリが一匹着物の中に入り込んだ。うわあ取れない。男なら、さっと着物を脱いでアリをさがすが、相手は花も恥じらう娘盛り。恥ずかしくてたまらないけど、アリはどうしようもない。そこで着物を脱いで裸になるのは「つらいこと」である。「つらいこと」は何だろう。あっ、若い娘が恥ずかしがることだ。なんて昔の人は思っていた。

 今はどうだろう。若い娘どころか、老若男女皆が「恥」を忘れている。道路にゴミを捨てても恥ずかしいと思わない。電車の中で大声でしゃべっていても恥ずかしいと思わない。
 他人が見ているから恥ずかしい。他人が見ていなくても、自分の心に対して恥ずかしい。現代人よ、そんな思いを忘れていないか。

アリひとつ若い娘を裸にし

というと、本当のアリンコじゃなくて、またヘンな意味に解釈されるかな。
 


女房はまず荷が着くと開けたがり

344 女房はまずがつくとけたがり  うきうきとするうきうきとする


 通販の荷物でも何でも、女房は荷物が届くと「うきうきと」開けたがる。男は外でウインドウショッピングもできるが、江戸時代の女は家からあまり出ない。だからよけい届いた荷物にうきうきしたのだろう。ネット通販の現代では、男もうきうきしているだろう。

女房は通販届くと開けたがり

 男だってすぐ開けたがる人もいるので、こうすれば男女兼用の川柳でいいかな。

配偶者はいぐうしゃ通販届くと開けたがり

 「配偶者」なら男女兼用の言葉。

 身分社会の江戸と現代は違うところもあるけれど、共通する人の心もある。


 今回はここまで。
 次回に続く。
 

タイトル画像はぱくたそからお借りしました。

 

 


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