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江戸の川柳 押さへればススキ離せばキリギリス 柄井川柳の誹風柳多留五篇④

 子どもの行動や、子どものような行動をする大人のしぐさも、江戸時代の人々は観察して川柳を創っていた。
 江戸時代の人々が五七五で創り、柄井川柳が選んだ「誹風柳多留はいふうやなぎたる五篇」の古川柳紹介。
 読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、七七の前句を記す。
 自己流の意訳を載せているものもあり、七七のコメントもつけているものもある。



 おさればススキ離せばキリギリス

409 おさればすゝきはなせばきりぎりす  おしわけにけりおしわけにけり

 前句「おしわけにけり」は、草を押し分けてキリギリスをさがしているのだろう。キリギリスは草の葉先にとまり、ギースチョンと鳴く。近づくとすぐに逃げてしまう。よしっ、つかまえたと思ったらススキの葉しかない。くそっ、と思い手を開くと、実は葉の間にキリギリスがいて、見事に逃げられてしまった。
 昔、キリギリス取りをした人ならうなずける話。トノサマバッタやショウリョウバッタのように捕まえやすくないのがキリギリス。
 古語で「キリギリス」は「コオロギ」で、「コオロギ」は「キリギリス」のことだと習ったが、江戸時代になると「キリギリス」は今のキリギリスでいいだろう。この逃げ方もキリギリスだ。

逃げ足の速いバッタはキリギリス
捕えたときの喜び格別

 バッタはキリギリス、トンボはギンヤンマを捕まえたときがうれしかったなあ。 



気がへると小遣帳こづかいちょうをやめにする

458 気がへると小遣帳こづかいちょうをやめにする  おしわけにけりおしわけにけり

 こちらの「おしわけにけり」は、生活を見直すことかな。生活を見直すために小遣帳こづかいちょう(家計簿)をつけたが、つければつけるほど気が減る(気が滅入る)ので、結局つけるのをやめたという句。 



三囲みめぐりの雨は「豊か」の折句おりくなり

488 めぐりの雨は豊かの折句おりくなり  せいを出しけりせいを出しけり

 「精を出すもの(せいを出しけり)」な~に?
 おっ、雨乞いの句を作ることだ。雨乞いの句といえば宝井其角三囲みめぐりの句。あれっ、この句は「折句おりく」になっている。折句おりくは五七五の最初の言葉が何かの言葉になっているもの。

ゆうだちや たをみめぐりの かみならば
(夕立や田を三囲みめぐりの神ならば)

 其角の句は、当時の江戸の人はよく知っていた。三囲みめぐり見巡みめぐり(見てまわる)の懸詞かけことばになっており、「ゆたか」の折句になっていることも知っていただろう。そこで「精を出すものな~に?」と聞かれたときにChatGPTよろしくそれらを結びつけたもの。

三囲みめぐりの俳句は「ゆたか」の折句なり
「ゆ」と「た」と「か」から始まる俳句
 



大根種有だいこだねあり」は村でのよい手なり

508 大根だね有りは村でのい手なり  せいを出しけりせいを出しけり

 これまた「精を出すもの」な~に? 
と聞くと、この作者は、農民なのに精を出して習字がうまい人もいるなあと思って創った句。「大根の種あります」と書いた看板の文字がうまい(能い手なり)。これは村一番の習字がうまい人が書いたのだろう、と思った。
 江戸の町人は寺子屋で文字(かな)を習っていたが、農民は文字を教えてもらえなかった。だから文字を書ける人自体が少ない。そういう身分社会を知ることにもなる。 



 タイトル画像は、曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」より、犬坂毛野けの胤智たねとも。犬塚信乃と同じく女装の麗人。女田楽一座で女として敵を狙う。敵討ちの図。毛野けのは「智」の玉を持つ八犬士の一人。 

犬坂毛野


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