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江戸の川柳① ほととぎす二十六字は案じさせ 柄井川柳の誹風柳多留七篇

 三十一文字みそひともじ短歌のこと。川柳、俳句は十七文字。字数の決まった日本の定型詩
 短歌は神代の昔から創られたが、五七五七七の五七五だけを使った川柳、俳句は、ともに江戸時代に完成した。ここでは江戸時代に作られた川柳を見ていく。
 「川柳」の名のもととなった柄井川柳からいせんりゅう(1718~1790)が選んだ、一般人の創った川柳を集めた「誹風柳多留はいふうやなぎたる七篇」(1772刊)の紹介。全5回の①。
 読みやすい表記にし、次に、記載番号と原本の表記、そして七七の前句まえくをつける。自己流の意訳と、七七のコメントをつけているものもある。 



居酒屋のけんくわけんかかたりの方へおち

33 居酒屋のけんくわけんかかたりの方へおち  こまりこそすれこまりこそすれ

 困ること(こまりこそすれ)な~に? と七七のお題を出された。川柳は、こうして出題される大喜利おおぎりのようなもの。一般から作品を募集して、優秀作には賞金が出た。
 うん。居酒屋でけんかが起きた。ばたばたしているうちに、けんかしていた二人の姿がない。こりゃ代金を払わないためのだまし(かたり)のけんかだったんだ。けんかのオチは「だまし」だった。食い逃げされて店の人はさぞ困ってしまうことだろう(こまりこそすれ)。作品、できた!

支払いのときにはいつも消える人
ただで飲み食い仲間をなくす

 現代でもそんな人はいる。ウソけんかをして食い逃げしないだけましか。 



あればかり男かと母じやけんじゃけんなり

52 あればかり男かと母じやけんじゃけんなり  しらせこそすれしらせこそすれ

 「あれだけが男じゃないよ。もっといい男がいるよ」と、口では邪険じゃけんな言いぶりだけど、娘のことを心配する母親の思い。娘から「つきあっている」と知らされた(しらせこそすれ)、あるいは誰かから聞いて娘に確かめる、母の言葉をそのまま句にしたもの。

男ならこの世にもっといるだろう
そうは言っても別れられない



ほととぎす二十六字はあんじさせ

116 ほとゝぎす二十六字はあんじさせ  きつい事かなきつい事かな

 「ほととぎす」の短歌を作ろうと思うが、三十一文字みそひともじのうち、「ほととぎす」の五文字はあるので、残り二十六字を考える(案じる)。だが、それが難しい(きつい事かな)。
 五七五の川柳に親しんでいる江戸っ子は、百人一首でもカルタとして遊んでおり、短歌も作ることができる。ほととぎすの初音も歌にするくらい楽しんでいた。
 身分社会の時代だけれど、お金のない町人もたくさんいたけれど、川柳を作ってこづかい稼ぎをしようとしてもいたけれど、それでも心は豊かな江戸時代。

「ほととぎす」使って短歌を作るには
残りの二十六字むずか

 川柳も、七七の前句をあわせて三十一文字になる「歌(=短歌)」。川柳投稿者は三十一文字のうち、五七五の十七文字を考える。たった十七文字で、江戸の素人集団がさまざまな日常を表現しているのが川柳だった。 



新枕にいまくらほどなくごおんごんとい

272 にいまくらほどなくごおんごんとい  らくな事かならくな事かな

 「新枕にいまくら」だから新婚初夜。「ごんごん」と家具が揺れるえっちな話かなと思うけど、残念。結婚の披露宴が長引いて、二人が床についたのは明け六つの鐘(午前6時)がゴーンゴンと鳴る時間となっていた、という句。
 前句の「らくなこと」はどういう意味だろう。何が楽なんだろう。誰か教えてください。よくわからないけど、五七五だけで完成した句となっている。

新婚の初夜の前には披露宴
寝不足飲み過ぎなんにもできず

 


 次回、来週日曜日につづく。 



 タイトル画像は多彩な題材を奇想天外に描いた江戸時代の浮世絵師、歌川国芳うたがわくによし(1798~1861)の作品の模写。「龍宮玉取姫之図」より、龍とか巨大な姫が描かれているけど、その部分ではなく、下部のタコの部分の模写。国芳くによしは、いろいろな題材を表現豊かに描いている。これも江戸の発想豊かな芸術のひとつ。



 古川柳のまとめは、こちら


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