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まだまだ「誹風柳多留」三篇④ 一人では何もできない江戸の町

 柄井川柳が選んだ「誹風柳多留三篇」の紹介、最終回。五七五に込められた今も昔も変わらぬ庶民の生活の一場面を紹介していく。

557 にげしなに 覚て居ろおぼえていろは まけたやつ  さそひこそすれさそひこそすれ
 古川柳の紹介でよく使われる作品。逃げる時に「覚えていろ!」と言うのは負けたやつだ。今も昔も一緒だね。「今日はこれぐらいにしておくか」BY吉本新喜劇。

511 寝所ねどころを へし折ておって置く 一人者  おとづれにけりおとづれにけり
 朝、布団を半分に折って、そのままにしておく一人者。
 独身時代は何でも自由にできた。今は結婚するメリットが少ないと、独身のままの人が多いのだろう。結婚しなくても生活できる。金銭面の不安がないだけでなく、ネットで人と人とのつながりが増えてきた。だから結婚しない。そのように見えるけど、逆に、「本当にこの人とずっと一緒にいたい」と思える人が減ってきたのだろうか。つながりが深まったように見えて、実は本当のつながりは減ってきているのが現代なのだろうか。

546 物もふ に 手間をとらせる真っぱだか  ねんの入れけりねんの入れけり
 お客が来て、「もの申す(物もう)」と声がする。「はいはい」と返事はしたものの、真夏の家の中では冷房もなく裸でいたので支度に手間がかかる。

619 男の子 はだかにすると とかまらず  そのはずのことそのはずのこと
 とかまらず=つかまらず。まあ、裸の方が涼しく自由で気持ちいい。

657 入りもせぬ物のをきく雨やどり  こみ合いにけりこみ合いにけり
 「直」は「値」。昔は、漢字の区別はそんなにはっきりしていなかった。
 急に降ってきた雨。店に入り、雨宿り。なかなかやみそうにないので、いりもしない品物の値段を店員さんに聞いては間をもたす。

705 こん礼の あした むすこは見世みせで てれ  いろいろがあるいろいろがある
 婚礼の翌日の店での様子。結婚した後は、周りからもいろいろ言われるよね。結婚したばかりの息子が店へ出て、照れている。

449 ふけいきと いひいひ げいしゃ 宿の月  どこもかしこもどこもかしこも
 不景気で仕事がない。不景気だと言い、自分の家(宿)で月をながめている芸者。
 コロナ禍の今も、芸人など、家でボーッとしているのか。ネットを使って配信しているのか。相手がいて初めて結婚できるように、相手がいてはじめて芸人という職業は成立する。芸人や役者だけでなく、大工などもそうだろう。一人では成立しない仕事が、江戸の町にはたくさんあった。

507 その気味といふが 師匠の にげ所  ふとひことかなふとひことかな
 その気味とは、「そんな感じ」という意味。「これでいいですか」という質問に答える師匠は、「そんな感じ、そんな感じ」と、いつもちゃんと答えず、その場を逃げている。

585 尺八はいしやう(衣装)のいが いっち下手  そのはづのことそのはづのこと
 虚無僧こむそうが尺八を吹いて家々を回る。衣装がまだ新しいのは、虚無僧になりたてで尺八も一番下手。そういう点に気づいた句。ナルホド。

744 また一度 十七八で はい ならい  首尾のよいこと首尾のよいこと
 17・8歳で、もう一度「ハイハイ」を習う。との意味。女の元へ行く時の夜這いの姿をいっているのだと思われるが、はいはいポーズは女性の方のバックからの体位でもある。う~ん、えっち。

670 長屋中けんしが済むと井戸をかへ  めいわくなことめいわくなこと
 昔は井戸で生活用水をまかなっていた。長屋では共同の井戸を使う。その井戸で飛び込み自殺も多くあった。死体の検死がすんだ、その井戸は仕えなくなってしまう。水死の死体は水を含み膨れ上がっている。自死は必ず誰かに迷惑をかけている。一人で生きているわけではなく、一人で死ねるわけでもないのだ。
 今は井戸を使うことはほとんどないのでわかりにくい。今でも自殺者の出た部屋は使えなくなる。電車が遅れると、どっかで人身事故が起きている。自分一人で完結しない。助け合って生きるのが人間で、助け合わなければ何もできなくなってしまう。自分だけでは何もできないのが人間社会だ。

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