古川柳つれづれ 隣から戸をたたかれる新世帯 柄井川柳の誹風柳多留初篇より②
江戸時代の誹風柳多留初篇の作品紹介2回目。
江戸の古川柳が、現代社会をちくっと(小さく)えぐる。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。
ないやつのくせにそなへをでつかくし
64 無いやつのくせにそなへをでつかくし かざりこそすれかざりこそすれ
「ないやつ」は、金のないやつ。「そなえ」はお正月のお供え、鏡餅。七七の前句が「飾りこそすれ」で、金がないくせに、鏡餅は大きいものを飾っている。という句。
ないやつのくせにそなへをでつかくし飾りこそすれ飾りこそすれ
鏡餅を飾ることは少なくなったけど、別の豪華な何かを飾っている人は今もいる。それを皮肉る。
隣から戸をたたかれる新世帯
98 隣から戸をたゝかれる新世帯 目立こそすれ目立こそすれ
隣からドンドンと戸をたたかれる。「うるさいぞ」という思いかもしれない。新世帯だから新婚さん。しかも訳ありで婚礼もしていないのだろう。「家」へ嫁いだのではないから姑もいない。二人きりの生活。封建社会とはいうものの、こういう世帯もあった。
今も昔も近所でちょっと「目立つ」新婚さんは気になる存在。それが家の中でどたばたやっている。一人者にとっては、特に腹の立つことだろう。
食い潰すやつに限って歯をみがき
46 喰つぶすやつに限って歯をみがき ねんのいれけりねんのいれけり
歯をみがくというのは当時は一般的ではなかった。ちょっとおしゃれな若者が、房楊枝で念を入れて(念のいれけり)磨いている。そういうやつは親の身代を食い潰してしまうのだ。という皮肉。
今も、親のすねをかじりながら、念の入ったオシャレをする若者はいるだろう。
古川柳は、こういう人間観察を句にしている。
ままごとの世帯くづしが甘へて来
52 まゝ事の世帯くづしがあまへて来 めいわくな事めいわくな事
前句が「迷惑なこと」。世帯くずしは、結婚生活をくずすこと。ままごとのような新婚生活をしていたが、別れてしまって親のところに甘えてくる。という句だが、本当の子どものままごと遊び、という説もある。ままごと遊びの新婚生活で、けんかをして親のところに甘えてきたというわけだ。幼い子どもでも、結婚する年齢の者でも、なにかあったら親にあまえてしまう。江戸時代でも、そうだったんだなあ。
勘当も初手は手代に送られる
68 勘当も初手は手代に送られる たびたびな事たびたびな事
「もう親でも子でもない。勘当だ」と息子を家から追い出すことがあった。さすがに娘ではないみたい。完全に親子の縁を切る勘当もあるが、ちょっとした懲らしめの場合もある。そんな時は、店の手代が息子を勘当先まで見送ってくれる。ところが前句は「たびたびなこと」なので、何度も重なると、本当に縁を切られてしまう。「初手」は最初のこと。
そんなウソ勘当を描いた山東京伝の「江戸生艶気樺焼」なんて黄表紙も江戸の町で大ヒットした。
江戸時代の日常生活の一コマは、今の時代にも通じる日常。
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