古川柳つれづれ 役人の子はにぎにぎをよく覚え 柄井川柳の誹風柳多留初篇より③
誹風柳多留初篇の作品紹介3回目。
江戸時代の古川柳は、七七で題材を示し(前句)、一般から募集した作品(五七五)を柄井川柳が選んでいる。そこで選ばれた作品の中から、現代にも通じそうな作品を私が選んでみた。
江戸の空気にふれてほしい。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。
役人の子はにぎにぎをよく覚え
78 役人の子はにぎにぎを能覚 うんのよい事うんのよい事
よく知られた句。前句(問題)が「運のよいこと(うんのよい事)」。運がいいものな~に?
運がよくてワイロをもらえる。役人はワイロをよくもらっていた。ワイロがまかり通る外国のニュースが流れたりもするが、日本だってワイロ天国だった。賄賂と漢字でも書ける。
手を開いたり閉じたりの「にぎにぎ」の動作でワイロをもらっているので、役人の子どもも自然とそれを覚えてしまったのだろうという皮肉。
これ小判たつた一晩いてくれろ
165 是小判たつた一晩居てくれろ あかぬ事かなあかぬ事かな
これまた有名な、よく知られた句。前句の「あかぬこと」は、「らちがあかない」=うまくいかない、ことをいう。たまに小判が手に入ったが、またすぐ出て行く一般庶民。「いてほしい」ではなく、「これこれ小判さん。たった一晩でいいから、ここにいてくれろ」というセリフを句にしている。
これ小判たった一晩いてほしい
これでは当たり前すぎる。言葉ひとつで感じが変わる。
赤とんぼ空を流るる竜田川
36 赤とんぼ空を流るゝ竜田川 前句不明
赤とんぼが空に並んで飛んでいる。まるで竜田川に紅葉が流れているようだ。
百人一首にあるように、竜田川は紅葉の名所として有名。
ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは 在原業平
神代の昔でも聞いたことがない、竜田川の水面を紅葉が赤く染めているとは。
江戸の庶民は百人一首をよく知っていた。それは遊びとしてのかるたがあったからだ。いろはかるたとともに、百人一首のかるたも、「ひらがな」の読める江戸庶民は遊んでいた。作者、在原業平についても、物語やお芝居でおなじみの人物だった(エッチな貴公子として)。文字が読め、雑学豊富な江戸庶民が多かった。
神代にもだます工面は酒が入り
101 神代にもだます工面は酒が入 手伝にけり手伝にけり
前句が「手伝いにけり」、誰かをだます手伝いをしたのだろう。人をだますには昔から酒が必要。その昔というのが神代から。神話時代には、スサノオノミコトがヤマタノオロチに酒を飲ませ、酔って寝込んだところを退治した。ヤマタノオロチをだますにも酒が必要だった。江戸庶民は日本神話の知識も豊富だった。古事記日本書紀を読むのではなく、それをもととした創作がたくさん作られ、それを読んでいた。
いろんな歴史の知識は物語から学んでいた。雑学が江戸庶民の心を豊かにしていた。