古川柳つれづれ 江ノ島を見て来た娘、自慢をし 柄井川柳の誹風柳多留初篇より④
誹風柳多留初篇の作品紹介4回目。江戸の古川柳は現代にも通ずる。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。
江ノ島を見て来た娘 自慢をし
172 江の島を見て来たむすめじまんをし 今がさかりぢや今がさかりぢや
コロナがおさまって(!?)旅が盛り。旅行に行け行けと叫ばれる。外国人も日本にやってくる。そして観光地は外国語が飛び交い、日本人は隅に追いやられる。外国人に頼りすぎて、コロナ禍でえらい目にあったというのに、喉元過ぎれば熱さを忘れるで、また外国人天国になる。
江戸の昔も「今が盛りじゃ」と観光地巡りが盛んだった。江戸の町から江ノ島までは女の足で二~三泊かかるので、いつでも行けるわけではない。だから旅行に行った娘は周りに自慢する。今と一緒じゃん。
御一門見ぬいたやうな銭使ひ
185 御一門見ぬいたやうな銭遣ひ 今が盛りぢや今が盛りぢや
172「江ノ島~」と同じ前句。「今が盛りのものな~に?」という質問に、172では「江ノ島観光」という答えが出た。
この185では、「今が盛り」だから、なくなる前の(なくなるのを見抜いたように)今のうちにお金をたくさん使う、というのだ。
じゃあ、「御一門」とは何か。物語の本を読んだり芝居を見たりしていた江戸の町の人々にとって「御一門」は、「平家の一門」だと想像がつく。平家の一門は、この世の春を謳歌していたが、後に源氏に滅ぼされる。そんな将来がわかっていたように、今のうちに金を使っている。という句。
妙薬をあければ中は小判なり
305 妙薬をあければ中は小判也 ありがたひ事ありがたひ事
「ありがたいものな~に?」といわれれば、一般庶民にとっては、やはり現金か。
病気で寝込んでいるところに、「薬だよ。よく効く妙薬だよ」と持ってきてくれた。昔の医者は薬を作って渡すだけだから、知り合いから薬をもらうこともある。まあ、薬といっても漢方薬だから、その辺の草を取ってきても薬になる。薬草だ。アロエは万能薬といわれたが、昔は傷がつけばヨモギの汁をつけ、お腹が痛くなればゲンノショウコを煎じて飲む。ゲンノショウコは「現の証拠」=「すぐに効果が現れる」というくらい腹痛に効くといわれた。
そんな薬を開いてみれば、中身は小判。お金さえあれば薬も買えるし、おいしいものも食べられる。栄養さえつけば元気になる病気もある。そりゃ、ありがたいことだ。
歌かるたにも美しひ意地があり
373 歌かるたにも美しひ意地が有 よくばりにけりよくばりにけり
江戸時代には百人一首のかるた遊びがおこなわれた。美しい娘たちが特に好んでかるたをしたが、勝負となれば札を取ろうと「よくばり(よくばりにけり)」、意地を張ってしまう。
江戸時代は、差別的な身分社会ではあるけれども、今の我々よりも心に余裕のある毎日だったかもしれない。
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