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祇園精舎の鐘の声、「平家物語」冒頭文を完全に暗記しちゃえ

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
 たけき者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

 現代の読み方(表記)で読みやすく書くと、


 祇園精舎ぎおんしょうじゃかねの声、
諸行無常しょぎょうむじょうの響きあり、
沙羅双樹しゃらそうじゅの花の色、
盛者必衰じょうしゃひっすいことわりをあらわす。

 おごれる人も久しからず、ただ春のの夢のごとし。
 たけき者もついには滅びぬ、ひとえに風の前のちりに同じ。

 沙羅双樹は、「さらそうじゅ」とも読むが、ここでは「しゃらそうじゅ」と読もう。古典は、学校にいたときに、使っている教科書により、いろんな読み方で習っている人がいるが、とりあえず統一しておく。
 そして、これを何度も声に出して読む。ゆっくり読むのではなく、リズムをつけてスイスイと読んでいく。ちょっとまちがえてもいいので、スラスラ声に出す。歌を覚えるのと一緒。だから、歌の歌詞が覚えられる人なら、こんな日本語すぐに暗記してしまう。昔の言葉だけど日本語。英語を覚えるのより簡単だ。繰り返し繰り返し声に出して言う


 「平家物語」冒頭の現代語訳は、

 祇園精舎の鐘の音は「諸行無常」の響きをしている。
 祇園精舎は鐘をつくのだからお寺。インドのお寺で、お釈迦様が説法を行った場所といわれている。「諸行無常」は仏教の教えの一つ。「諸行」=全ての物事、この世にある全てのもの、それは「無常」である。「無常」は字のとおり、常ではない。固定したものではない。変化する。この世の全ての物事は変化している。人は年老いていくし、物質も古くなる。宇宙も膨張を続けている。全てのものは変化している。それが真理だ。
 宇宙が膨張し続けているという最新科学と同じことを、紀元前に釈迦は説いていた。仏教とは、葬式をするためのものではなく、哲学的な教えが本来のものだ。「諸行無常」の「無常」は、「ああ無情」の情けがない方の「無情」ではない。「万物流転」の方の、常に変化するという意味の「無常」。
 ちなみにこの文は、日本人が作った「平家物語」という物語の中にある。「平家物語」は琵琶法師に言われ記録されているものなので、作者(だれかはわからない)は当たり前に「鐘の声」と言っている。だが、実際のインドの寺院に、日本のようなゴーンという鐘はない。日本人が、インド(天竺)の様子を想像し、お寺には鐘があるだろうと思って書いた文章なのだろう。
 沙羅双樹はサラソウジュ、あるいはシャラソウジュという植物の名前。これはインドの植物で、日本では育たないので、日本で一般にサラソウジュとして植えてあるのは、よく似た花のナツツバキだそうな。また、花の名は、サラ、あるいはシャラともいう。沙羅双樹の双樹そうじゅは2本(双)の木(樹)という意味。お釈迦様が亡くなるときに、2本あったサラの木(沙羅双樹)が白くなったといわれている。サラソウジュの花の色は、盛者必衰の真理を示している。盛んな者、栄えているものは必ず衰える。諸行無常であるから、たとえ元気で盛んなものでも、必ず衰えていく。

 ここまでが漢文調で描かれている。
 その次は、和文調になる。いわゆる和漢混淆文(わかんこんこうぶん=和漢混交文)だ。中国語の翻訳調の文から、中国語(漢字の熟語)と和語(昔からある日本本来の言葉。漢字では訓読み)を合体させた、「日本語」の文体になっていく。同じようなことを繰り返し述べている。

 おごり高ぶっている人も長くは続かない。春の夜の夢のようだ。
 春の夜は短い。冬は夜が長かったが、春になると昼が長くなり、夜が短くなる。だから春の夜の夢はすぐに覚めてしまう。はかないものの象徴なのだ。
 猛々しく力を持った者も最後は滅んでしまう。風の前のチリのようなものだ。一吹きで吹き飛んでしまう、はかないものだ。

 権力をほしいままにした平家が、源氏に滅ぼされてしまう、源氏と平家の戦いを描いた「平家物語」の冒頭文が、こういう言葉で始まっている。

 「平家物語」は作者不詳だが、目の見えない琵琶法師が、琵琶を弾きながら語ったもの。仏教の教えを説くという目的があるので、こういう出だしになっている。
 ちなみに、小泉八雲の「耳無芳一」は、「平家物語」を語るのがうまい琵琶法師だった芳一が、平家の亡霊に呼ばれるという話。琵琶法師は「平家物語」を語りながら仏教の布教をしていた。

 さあ、最後にもう一度声を出して暗記してみよう。
 何度も繰り返すことが完全暗記のコツ。
 明日も、もう一度声に出して言ってみよう。


ずっと前に書いた文章だけど、タイトルに惹かれるのか、今もけっこう読まれている。ちょっと読みにくいので、漢字の読みにルビをふってみた。
何か変わらなければ他も変わらない。
2022/07/10 参議院選の日

うれしいことにこの記事は今でもよく読んでもらっているが、残念なことにコメントがない。noteはコメントが入れられる媒体なのに何もないのはさみしい。ぜひともコメントを入れてください。
読み物として見てくれている人、暗記しようと実用的に見ている人それぞれだろうが、質問や改善点を教えてほしい。noteは人と人とがつながれる道具なので、この文を読んだ人は、ちょっとした意見でいいので教えてくださいね。

2023/09/21

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