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日本に住む大人なら「源氏物語」冒頭文を完全暗記しちゃえ

 世界の人に、日本の代表的小説を聞くと「源氏物語」が出てくるのではないだろうか。
 「小説」という言葉を使うと少し違うかも知れないが、人間心理を扱った長編物語として世界で最初の作品ともいわれる「源氏物語」が日本を代表する作品であることは確実だ。そんな有名な作品でありながら、小学校、中学校ではほとんど扱わない。
 「徒然草」や「枕草子」、「奥の細道」は学校で扱う。「方丈記」は、内容的にちょっと難しい。「源氏物語」は内容が小中学生にふさわしくない。だって恋愛小説だ。淡い初恋の物語ではなく、恋愛といえば肉体関係が続いてくる。セックス小説でもあるのだ。だから、
紫式部「源氏物語」、主人公は光源氏、
と、そのくらいまでしか教えない。
 でも大人なら恋愛小説だろうが官能小説であろうが遠慮することはない。これだけ有名な小説を知らないというのでは、日本に住んでいる意味がない。中身を知らなくても、冒頭文だけ知っていたら、しかもすらすら暗記できたら、日本人だけでなく、海外の人も、ひゃーっと驚くことだろう。

 ということで、「源氏物語」冒頭文。

 いづれの御時おほんときにか、女御にょうご更衣かういあまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。

 光源氏の母、桐壺の更衣の登場シーンだ。
 たったこれだけ。たったこれだけ覚えて、すらすら言えれば、ちょっと自慢できる。
 覚えてみよう。


 現代表記で書くと、

 いずれの御時おおんときにか、女御にょうご更衣こうい、あまた、さぶらいたまいけるなかに、いと、やんごとなききわには、あらぬが、すぐれて、時めきたまう、ありけり。

 たったこれだけを何度も口に出して覚える。口に出さなければだめ。今とは違う言葉も多いので、英語を覚えるように何度も発音を繰り返す。その時、ゆっくり言うのはだめ。少し早口で声に出す。英単語を覚える時に、ゆっくり口にしたりはしない。暗記は音楽を覚えるように、リズミカルに口に出して覚える

 女御は、天皇に仕える女官。といっても夜の相手もつとめる、つまり「妻」になる。妻が宮中にはたくさんいて、身分が高い第一婦人が中宮ちゅうぐう。紫式部や清少納言はそれぞれ別の中宮に仕えていた。
 中宮や女御の親は、自分の娘が天皇の子を産んで、その子が次の天皇になることを望んでいた。それが「摂関政治」だ。孫が天皇になれば自分が摂政、関白となって政治を動かす。そのため娘は天皇を惹きつける魅力ある女性にしたい。娘に教養をつけさすために賢い女性を家庭教師として娘につけた。紫式部や清少納言はそうした家庭教師として藤原氏にリクルートされたのだ。
 藤原氏も、この時代には一族が増えて、たくさんの藤原氏の家がある。その中で権力をにぎり摂関政治をするためには、娘を天皇の妻にしなければならない。そして娘が天皇の息子を産まなければならない。藤原氏同士、かなりの競争がある。

 さて、天皇の妻として上位が中宮で、その次の位が女御となる。女御の次の位が更衣。もともとは天皇の衣装の世話をしていた女性を更衣といったのだろう。そこからついた名だろうから、身分が高い訳ではない。
 光源氏の母、桐壺はその更衣の身分だった。それを頭に置いて、訳してみよう。

 どの天皇の時代であろうか、女御や更衣がたくさん仕えている中に、高貴な身分ではないのに、特別に天皇のお気に入りとなっている方(桐壺の更衣)がいた。

 昔は歴代の天皇名を覚えている人もたくさんいたが、現実世界の天皇と、想像上の物語に出てくる神武天皇などを融合させて一緒に覚えている。「源氏物語」の物語の中には桐壺帝など架空の天皇を登場させている。歴代天皇名にしても、歴史と神話が合体している。本当にいた人物と、実在したかどうかわからない人物がいる。夢とうつつが一体化するのは当時の人々には当たり前のことだったのだろう。だから「物語」という。
 天皇の周りには女性がたくさんおり、誰が天皇の相手をして男児を出産するか、それが最大の関心事だ。江戸時代の大奥と同じ。自分の息子が将軍になれば、生母は権力をにぎれる。
 摂関政治の平安時代は、妻問婚の時代で、天皇以外の貴族は、女性の家に夜だけ訪ねる結婚だった。だから女性にとって実家の力が強く影響する。実家の実力を背景に生きていた。実家と一族の運命を託されて女性は宮中に勤めている。そんな中で、急に出てきた身分の低い女性(桐壺)はおもしろくない。そういう伏線を秘めた冒頭文。

 内容については他に詳しい文章が多い。ここでは暗記だけ。

 さあ、もう一度声に出して暗記してみよう。繰り返すことが暗記のコツ。学問に王道なし。日本文化を継承しよう。




ちょっと毛色の違う、江戸の黄表紙の現代語訳は、こちら、


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