見出し画像

「枕草子」冒頭文を完全に暗記しちゃえ①

 昔、「春はあけぼの、やうやう」と暗記した。無理矢理暗記させられた人も多いだろう。あれだけ苦労したのに、それを今でも覚えていて、言えるだろうか。

 半世紀も前に習っただけなのに、「春の小川はさらさらいくよ♪」(「春の小川」文部省唱歌)と歌える。人によっては、いや、「春の小川はさらさら流る♪」だと議論になる。実はどっちも正しく、歌詞が何度かかわっているのだ。それをちゃんと覚えているのだから議論にもなる。

 「枕草子」や他の古典をそれだけ覚えているだろうか。

 春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは少し明りて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
 夏は夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。蛍の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
 秋は夕暮。夕日のさして、山のいと近うなりたるに、からすの寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、飛び急ぐさへあはれなり。まいてかりなどの列ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。
 冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も白き灰がちになりて、わろし。


 ちょっと長いが、たったこれだけだ。ちゃんと覚えているだろうか。「春の小川」ほどスラスラ言葉が出てくるだろうか。

 忘れていても大丈夫。ちょっと練習すればすぐに思い出す。思い出したら、2・3日してもう一度練習すれば、記憶が定着していく
 暗記するのが初めての人は、まずは「春」から覚えよう。覚えたら忘れるので、忘れたらまた覚えよう。「学問に王道なし」。何度も繰り返すことによって覚える

 現代の読み方(表記)で読みやすく書くと、

 春は、あけぼの。ようよう白くなりゆく山ぎわ、少しあかりて、むらさきだちたる雲の、細くたなびきたる。

 夏はよる。月のころは、さらなり。やみもなお。蛍の多く飛びちがいたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、おかし。雨など降るも、おかし。

 秋は夕暮れ。夕日のさして、山の、いと近うちこうなりたるに、からすのどころへ行くとて、三つ四つみっつよつ二つ三つふたつみつなど、飛び急ぐさえ、あわれなり。まいて、かりなどのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとおかし。日、り果てて、風の音、虫のなど、はた、言うべきにあらず。

 冬は、つとめて。雪の降りたるは、言うべきにもあらず。しもの、いと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭もて渡るも、いと、つきづきし。昼になりて、ぬるく、ゆるびもていけば、火桶ひおけの火も、白き灰がちになりて、わろし。

 「枕草子」は平安時代に清少納言が書いた作品で、鴨長明の「方丈記」、吉田兼好の「徒然草」とともに日本三大随筆といわれる。
 「をかし」の文学ともいわれ、清少納言が「をかし」(=興味深い。おもしろい。趣がある。)と感じたものが並んでいる。
 冒頭文では、春は、「あけぼの」の時刻が「をかし」なのだ。すばらしいと言っている。「春眠暁を覚えず」(春は眠くて朝起きられない)の季節に、明け方がいい、と言っている。以下、全て「すばらしい」ものが並ぶ。夏は夜がいい。秋は夕暮れ。「秋の夕暮れ」というイメージも、ここから生まれたのだろう。冬は早朝(つとめて)がいいって、寒い寒い時間だ。それぞれの季節の、それぞれの時間帯が清少納言は好きだと言っている。
 あなたの好きな季節から完全暗記をしてもいい。覚えたつもりの文も、もう忘れかけているだろう。好きな季節をまず完全制覇してしまおう。繰り返し繰り返す。繰り返して覚えていく。初めて会った人の名前を覚えるのと一緒。繰り返して覚える。えっと、藤川さんだ。藤森さんではなかった。藤川藤川。そういうふうに繰り返して覚える。冬はつとめて。つとめて、つとめて。早朝が「つとめて」。つとめて、つとめて。繰り返すことが覚えるコツ。時間があれば何度も覚えよう。



この記事が参加している募集

#とは

57,754件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?