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百人一首「かるた会」論①

 正月になると、百人一首のかるたをすることがある。小中学校でも、多くの先生が「かるた会」をする。国語の授業だけでなく、クラスで、学年で、学校全体で「かるた会」をすることも多い。学校以外でも、子ども会やいろんな場で、いろんなかるた会が実施されている。ここでは私の「かるた会」論を述べてみたい。


 かるた会の目的は、

・古典に親しむ
・仲間づくり


だいたいこの二点になるだろう。


 今は、競技かるたに興味を持っている子も増えているが、あれは「スポーツ」。国語では競技性よりも「古典」を重視したいので「ちらし」で実施する。また、読みも節をつけずに棒読みにしている。

 「ちはやふる」(末次由紀)で、早く取ることに夢中になる仲間に、大江奏が、「かるたが『歌』であることを忘れたくないんです」とつぶやくシーンがある。



 子どもたちの「かるた会」はスポーツではなく古典なのだ。「歌」を教える方法としては、「源平」よりも「ちらし」の方がいいと考える。
 スポーツとして楽しむ場合もある。目的をどこにおくかによって方法は違ってくるだろう。

 百人一首をするメリットは、歌に親しませることと、歌を覚えることによって「係り結び」等、古典の文体、文法が身近になること。それが目的となる。

逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり

人はいさ心もしらずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける

 自然と「~けり」「~ける」の使い分けを身につける。「けり」が終止形で、「ける」は係り結びで連体形になっている。「ぞ」→「ける」。強調の「ける」がたくさん使われたので、いつの間にかそれが終止形になった。などということは知らなくても、「ぞ~ける」と自然と身につく古典学習が、かるたを覚えること。「学習」なんて意識しなくても身につく。


 競技は1時間に1回を目標とする。1時間持たすために途中で雑談を入れる。


吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ

 山と風をくっつけたら嵐になるだろ。「山」+「風」→「嵐」。ダジャレだよ。昔の人も一緒。だじゃれをかっこよく「掛詞(かけことば)」と言っていたんだ。言葉と言葉を掛け合わす。
 そういう話をしていく。

あしびきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む

 「あしびきの」は「山」を出す「枕詞(まくらことば)」。「あしびきの」→「山」。枕詞は飾りの言葉。意味はない。(正確には意味が忘れられた)
 「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の」は「長い」を出すための「序詞(じょことば)」。枕言葉は五音で、決まったものだが、序詞は決まったものではなく、何かの言葉を出すための前置きの言葉。
 枕詞や序詞を使って言いたいのは「長い夜やなあ(長々し夜)」ということ。山鳥は関係なくなる。「山鳥の長い尾のように長い夜だなあ」ということ。「長い夜」だけでは伝わらないからいろいろ飾り付けている。

瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ

 ほら、岩があるだろ。向こうから一緒に流れてきた水がここで別れる。でもまたどこかで一緒になりたい。むか~し昔、この和歌が毎回流れてるドラマがあった。……てな雑談をする(いつの時代の話や)。「せ(瀬)で始まるのは、これしかない一字札



 文学史も覚えさせたいので、「次は清少納言の歌だよ」「枕草子の作者の歌だよ(夜をこめて鳥のそらねははかるとも よに逢坂の関はゆるさじ)」とか、「次は紫式部だよ(めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半の月かな)。おっと、これは一字札だ」「め! ……めぐり逢ひて~」とかする。
 清少納言、紫式部は国語だけでなく社会科でも習う、おなじみの人物、日本の有名人だ。

めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにし夜半の月かな



このたびは 幣(ぬさ)も取りあへず手向山 紅葉の錦(にしき) 神のまにまに

 ちょっと進歩形では、「~もみぢのにしき神のまにまに」「はい!」。「まにまに」で覚えている子が多いので、取り終わってから、「この歌の作者は菅原道真。彼は死後、天神様となった」と説明する。
 神戸の場合は、菅原道真が太宰府に流される途中、立ち寄ったので、飛び梅にちなむ「梅ケ香町」、飛び松にちなむ「飛松町」。道真のために板で囲った宿を作ったのでついた「板宿町」。地名の由来の話をしてもいい。そんな説明をした次の時間は、「次は、受験の神様(天神様=菅原道真)の歌だよ」「板宿の名前のもととなった人の歌」と、読む前に言ったりする。そこで「はい!」と取れる子がいたらしめたもの。「よっしゃー!」と、ほめる。私の指導を聞いていることがわかる。

 藤原定家「小倉百人一首」を使ったかるた、カルタ、歌留多、骨牌の子どもたちへの指導法を4回にわけて述べます。



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