鎌倉にカツオも食わず三年いる 柄井川柳「誹風柳多留」十篇③
柄井川柳が選んだ江戸古川柳、「誹風柳多留」の最終回。以前掲載したものと同じものを再度投稿する。
noteで「誹風柳多留」1篇から10篇まで、たくさんの古川柳を紹介した。川柳を通して江戸の生活が少しでもわかってもらえただろうか。
表題の句は、「三年」を、「さんねん」ではなく「みとせ」と読む。「かまくらにカツオもくわず みとせいる」。耳で聞くとすぐわかるが、「鎌倉に鰹もくわず三とせ居る」と書かれていたら、「三とせ」、「三と背」?……んっ、よくわからない。読めるようにと読み仮名をつけたら、よけい見にくくなってしまう。
もともとは「歌」として、口で歌って耳で聞く文学として発展してきた短歌からできたのが、俳句であり川柳。本来が、目で見る文学ではなく、耳で聞く文学なのだから、声に出して読んでみたほうが、よりわかりやすいかもしれない。
363 鎌倉に鰹もくわず三とせ居る (前句不明)
鎌倉に鰹も食わず三年いる
鎌倉は鰹が名産品。けれど離縁するために鎌倉の縁切り寺、東慶寺に三年いる場合は(三年いれば離縁できる)、一応お寺の尼さんの立場なので、生ものは食べられない。名産のカツオが食べられないというわけだ。
378 二度目には娘で通る わたし舟 (前句不明)
これも東慶寺がらみ。江戸と鎌倉の間の六郷の渡し(現在の東京都大田区と神奈川県川崎市を結ぶ)を、行きは既婚者だったが、帰りは(三年経って離縁でき)独身(娘)になったというのだ。男尊女卑の時代だが、女性からの離婚も、時間はかかるが可能だった。
404 此花を折るなだろうと石碑見る (前句不明)
飛鳥山には「飛鳥山碑」があるが、漢文で長々と書かれている。意味がわからない。かなは読めるが漢文は読めない。たぶん「この花折るな」と書いてあるのだろうという句。(当時の本にある漢文には、だいたいルビがついている。中国の漢詩も、当時の人は物語や、ルビつきの本の中で覚えている)
572 初かつほ片身となりへ なすり付 よいしあん(思案)なりよいしあんなり
初鰹片身隣へなすりつけ
初鰹は高価なので、片身を隣に買わせて、二軒で鰹一本を買った。
686 高いよと初てにおどかす初鰹 ふみ込みにけりふみ込みにけり
高いよと初手におどかす初鰹
鰹売りも相手を見ている。買いそうにない客には、「こいつは高いよ」と最初に言う。生きるための食事ではなく、贅沢品としての食事を金持ちでなくとも楽しんでいた。
593 人来る ときんば ついと わきへのき やめられぬ事やめられぬ事
「ときんば」は「時には」の文語的表現。人が来たら、ついっと離れる。人が来る前には、くっついていちゃいちゃしていたのだろう。それが男と女の「やめられぬこと」。
711 どつこいと おどり子 またを おつぷさぎ はづみこそすれはづみこそすれ
「どっこい」と踊り子股をおっぷさぎ
踊り子は、踊りもできないのに売春だけするものもいた。客がそのつもりで行為におよぼうとすると、「どっこい、そうはいかないよ」と客をあしらい、足を閉じ、股をふさいだ、という句。ところが前句は「はずみこそすれ」となっている。この客はケチだったけど、チップをはずめば、そっちもできることを暗示している。
602 内義同士けんくわねの有る事と見へ やめられぬ事やめられぬ事
内義同士けんか根のあることと見え
普段はうまくつきあっているのに、内儀(おかみさん)同士のケンカは、根の深いもの(根のあること)だろう。
636 本性に成ると辻番 いけんする まかりこそすれまかりこそすれ
本性になると辻番意見する
辻番は、今の交番みたいなものか。警察ではなく、自衛団だが、その場所も人も辻番と呼ばれた。辻番には夜中に酔っ払いがよく来る。酔って動けないので、その晩はそこで寝かせ、酔いが覚めてからベテランの辻番が「夕べは大変でしたよ」と意見する。
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見出し画像はぱくたそから借りた写真。
実はnoteに同じ記事を載せたのだけれど、タイトル画像に春画の模写を載せたので18禁となり、ちょっと見る人に引かれた部分がある。「誹風柳多留」の句は、多くの人に見てほしい。江戸時代にこんな文化があったことを知ってほしい。それで画像だけ変えて再投稿したもの。
春画も、いやらしいというよりは、美しい。芸術作品であると思う。有名作家が力をこめて描いている。けれど、表舞台には立てない日陰の存在だ。
女性の写真も美しい。けれどぱくたその素材は、無料写真ということで表舞台にはなかなか立てない(?)。noteに発表される作品のようだ。すばらしい作品はたくさんあるのに、多くの人に見つけられない限り、表舞台には出られない。埋もれないように、たくさん見つけてみたい。
川柳は、一人で楽しむものではなく、みんなの中で楽しむもの。お題にあわせて投稿し、お題にピッタリかどうか柄井川柳によって優劣をつけられる。他人がいてこその文学だ。春画も、それを見て楽しむ人がいてこそのもの。嫁入り道具に使われることもあって、性教育やネットのない時代の実用品だった。
相手を考えながらつくる作品。
前述のとおり、古川柳が少しでも気になったらスキしてください。