7-① 呉服店 夫婦げんかで行くところ 「誹風柳多留」七篇①
不義密通は切り捨てられる。本当に切り殺される。でも五両出したら示談にもできる。そんな江戸時代の夫婦関係。
男と女、夫婦の関係の内面は今も昔も変わらない。
大家族で、周りに気を遣うことはあっても、夫婦間の、二人だけの人間同士ではまた別の話になる。
2 からかつたうへで三つ組かしてやり むまいことかなむまいことかな
三つ組は婚礼の時の三三九度の盃。その盃を借りに行くと、「からかったうえで」貸してくれた。との意味。
当時の庶民の結婚は、今のような豪華な式をするわけではなく、自宅で仲人を入れた儀式をするだけ。だから花嫁花婿の服も借り物。それでも周りの皆が祝ってくれる。そんな時代だった。
364 当分は ひる(昼)もたんすの くわんが鳴り からみこそすれからみこそすれ
タンスの鐶は、引き手の金具。周りが振動するとガタガタと音がする。夫婦二人の新婚家庭では、昼からガタガタ音がする。だから「からみこそすれ」なのだ。
40 藪いしや(医者)へ断いふて 御やくゑん こまりこそすれこまりこそすれ
御薬園は、徳川吉宗の時にできた薬草園。今の小石川植物園。園内に養生所(病院)があった。かかりつけの「ヤブ医者に断りを言って」、御薬園での施療を願い出た。今でいうセカンドオピニオンになるだろう。
67 ごふく店 夫婦げんくわで行ところ ゆたかなりけりゆたかなりけり
呉服店は、「夫婦げんか(をした後)で行く所」だ。仲直りのしるしに何か高級な服を買うのだろう。
呉服店は、越後屋が有名。現在の三越の前身だ。「越後屋」の屋号はたくさんあった。時代劇の「そちもワルじゃのう」といわれる越後屋が呉服屋とは限らない。
97 はねの有いひわけ程は あひるとぶ 元のごとくに元のごとくに
あひるもニワトリも申し訳程度の羽の使用だが、意外とニワトリが高い木まで飛ぶ映像もある。アヒルも実際は意外と飛ぶのだろう。
99 ぶん廻し あんまり人の持たぬもの のけて置きけりのけて置きけり
「ぶんまわし」はコンパスのこと。板の片一方にクギを打ち、それを軸にして円を描く。まあ、あんまり使うことがない。コンパスとか分度器とか日常生活ではあまり必要ない。
江戸時代に日本で数学は発展した。関孝和は「発微算法」(1674)で筆算による代数の計算法を発明して、和算の基礎を作っている。
江戸時代は意外と学問が一般に広がっており、「天経或問(てんけいわくもん)」という天文学の本も出版された(実際は、中国の本の翻訳)。山東京伝はそれをヒントに「天慶和句文(てんけいわくもん)」という黄表紙を描いている。天文学とは関係なく、お日様やお月様が擬人化されている。「心学早染草」の善玉、悪玉も、当時流行した「心学」を擬人化したものだ。
123 朝帰り そりやはじまると両どなり きつい事かなきつい事かな
「そりゃ、始まるぞ!」とダンナが朝帰りした家の朝の夫婦げんか。江戸の町は長屋が多いので、両隣に音はつつぬけ。
135 その方で もつとなさいと土弓いひ 引つ張りにけり引つ張りにけり
土弓は、弓矢を打って当たれば景品がもらえる。「もっとやりなさいよ」と店の女が客に言う。「その方」の「方」は「型」のこと。「人」ではない。その形(型)でもう一回、と言っている。
当時は漢字がはっきり決まっていない。送り仮名もはっきりしていない。その時々で文字が変わったりしている。庶民が寺子屋で習い使っていた「ひらがな」も、いろいろな文字があった。「あ」は「安」をくずしたものだが、「阿」「愛」「悪」をくずした「あ」もある。それらは変体仮名と呼ばれ、今も百歳以上の人の名前に使われていることがある。
ひらがなは五十音図以外ないのだと、ルールにしばられすぎていたら、変体仮名の名前がある百歳のおばあちゃんの存在を否定することになる。
しばりすぎる世の中は息苦しくなる。
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