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川柳 「誹風柳多留」五篇① うらやんでジジイを起こす姑ババ

 永六輔の「大往生」に、病院関係者の川柳が載っている。

無理矢理に生かされている薬漬け

百薬を飲み過ぎ万病で入院中

待合室患者同士が診察し

見舞客みんな医学の解説者

クラス会無料の医療相談日


 コロナ禍で、「コロナは○○だ」「ワクチンの効果は○○、副作用は○○」と、にわか医師が巷にあふれている。ワクチンを打てば必ず全員に副作用があると思っている人に、「そりゃあ違うだろ」と言えばケンカになる。そこで川柳。

注射した後の発熱0.2割(2%)

 川柳は毒を笑いで包み込む(私作のこの川柳の例では笑えない)。


 身分社会の江戸時代に、川柳や狂歌の笑いで政治や社会を批判する。幕府や身分制度という、そんな大きなものへの批判じゃなくても、いつもは口答えできない姑の悪口を言う。女房への苦情をいう。そんな川柳もいっぱいある。当時の人々の欲求不満解消法の一つではあったのだろう。


128 おしいかな ひそう(秘蔵)の娘 むごんなり  よくばりにけりよくばりにけり
 秘蔵っ子の娘は、美しくなったが人前でしゃべれない。恥ずかしがり屋で話せないこともあるが、障害があってしゃべれないのかも知れない。たぶん障害の方を詠んでいるのだろう。江戸時代は、目の見えない人、口のきけない人、障害がある人も、差別があろうがなかろうが、当たり前に社会に出て生活していた。
 座頭市という映画があった。勝新太郎主演でシリーズ化し、勝の死後はビートたけしも座頭市を演じている。この原作は、子母澤寛の「座頭市物語」で、盲目のヤクザが主人公だ(「ワンピース」の海軍大将、藤虎のモデルといった方がわかりやすいかも)。目の見えない人の職業は、あんま、ハリ、マッサージだけでなく、音楽家もいる。そもそも「平家物語」を伝えたのは、盲目の琵琶法師たちだった。金貸しもしていた。障害者が社会にどんどん出ていた。出て行かなければ生活できない。生きていけない。差別があっても、そのまま受け入れる。そういう社会。

34 うらやんで ぢゞいじじい起すおこす しうとしゅうとばゞばば  いつ見てもよしいつ見てもよし
 嫁を迎えた姑が、夜の若夫婦の声を聞いて興奮し、横で寝ている夫を起こす、という句。

38 船頭せんどうも跡(後)のばゝあばばあは義理で抱き  いつ見てもよしいつ見てもよし
 渡し船の船頭が、女子どもを抱きかかえて船から降ろす。特に若い娘には優しく抱きかかえるが、ババアには義理で抱きかかえるという句。「ババア、ババア」と差別的に発言して、「義理だ」といいながらも、抱きかかえて降ろす。仕事だといわれればそれまでだが、差別的であって、それでも相手を受け入れて、やさしく接している。老人や障害者と一緒に生活している庶民の生活の基本だ。


376 あいそうに聞く三みせんしゃみせんの やかましさ  まねきこそすれまねきこそすれ
 「まねいた」客の三味線のへたくそさ。愛想で聞いていても耳障りでうるさく聞こえる。そこで「やかましさ」と表現している。

32 旅あんま はちにさゝれるような針  おちつきにけりおちつきにけり
 当時の按摩(あんま)は鍼(はり)も打っていた。マッサージ師兼鍼灸師だった。江戸の町の按摩と違い、旅先の按摩の鍼は下手くそで、ハチに刺されたように痛かった。

41 はへぬのを十六七は くろうがり  かくしこそすれかくしこそすれ
 「十三ぱっかり毛十六」という言葉があった。13歳で初潮が始まり、ぱっかり陰部が開く。16歳で陰毛が生える、という言葉。そんなものは個人差があるが、16・7歳になってもまだ毛が生えなければ、それはそれで気苦労だ。勝手に若い娘の気持ちを想像しての一句。

 見出し画像は、山東京伝作・北尾政美画「心学早染草」の模写。良い心、悪い心を擬人化し、善玉、悪玉の言葉を生んだ。「魂(たましい=たま)」を「玉(たま)」にしたアイデア。今、コマーシャルで「善玉菌・悪玉菌」といっているのも、この作品があったからこその言葉だ。


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