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江戸の古川柳、 柄井川柳の「誹風柳多留」②

 柄井川柳が選んだ、一般庶民の川柳。
 江戸の昔も、今と変わらぬ人が生きていた。


322 恥ずかしさ知つて女の苦のはじめ  ふへることかな ふへることかな
 幼い子どもは天真爛漫に行動する。初潮が始まり女になっていくと、これから封建社会の中で苦しみが増えていく。女も男も庶民には苦しいことがたくさんあるが、それでも川柳を作ったりして、世の中を笑い飛ばしていた。

323 男じゃといはれたきずが雪を知り  おもひ出しけり おもひ出しけり
 「さすが男じゃ。よくやった」と若い頃におだてられて思い切ったことをして傷を負った。それが年老いてくると、冬の寒さにうずいてくる。傷がうずくので、ああ、雪が降りそうだとわかる。若かりし頃を思い出してしまう。

340 関とりの乳のあたりに人だかり  すさまじいこと すさまじいこと
 大きな相撲取りがやってきた。おおっ、関取、と人々が近づく。関取が大きいので、集まった人々は、関取の胸の辺りまでしか背の高さがない。

462 車引くるまひき女を見るといきみ出し  次第次第に 次第次第に
 荷車を引いている車引きは、若い女がいると、急に調子に乗り出す。ひゅーひゅーと声をかけたりもしただろう。江戸の男も今の男も、やっていることは進歩していない。

471 飛鳥山毛虫になりて見かぎられ  ほしゐことかな ほしゐことかな
 飛鳥山は花見の時は人が多いが、花が終わり葉になり毛虫が出てくるころになると人がいない。見かぎられてしまった。
 飛鳥山公園は、八代将軍徳川吉宗が享保の改革のとき、庶民の楽しみの行楽地とするため、桜の名所とした。政治的に作られた公園だから、花が終わると人も来なくなる。オリンピックの後の年のようだ。

511 若後家にずいきのなみだこぼさせる  かたいことかな かたいことかな
 若後家とセックスし、久しぶりの行為に随喜の涙を流すほど興奮させた。お題が「かたいこと」だから、ちょっと卑猥かな。
 「ずいき」はサトイモやハスの茎だが、ハスイモから作る肥後ズイキは性具として女性を興奮させるとされた。今の男が、AV見ながら覚えて、このバイブ、この道具を使えば女性を興奮させられると勘違いして思うのと一緒の男の妄想か。

718 まおとこを見出して恥を大きくし  りきみこそすれ りきみこそすれ
 女房に不倫された。それを見つけた夫が大騒ぎをして、かえって周りに知られ恥を大きくした。江戸の時代も女性の不倫がけっこうあった。とはいうものの、不倫は不義密通で、「御定書百箇条」には「密通いたし候妻、死罪」とあり、「密通の男」も死刑とされていた。浮気された夫は、妻とその相手を殺しても「構い無し」だった。

28 天人もはだかにされて地ものなり  ひくいことかな ひくいことかな
 地物(じもの)は素人女。羽衣を脱いだ(盗まれた)天女はただの女となる。江戸の人々は、天人も神も仏も笑い飛ばした。

664 はやり風 十七屋からひきはじめ  気の付かぬこと 気の付かぬこと
 十七屋は飛脚屋のこと。はやり風邪や流行は旅をする飛脚屋から広がる。今のコロナと同じ。
 十七屋は十七夜と同じ発音。十五夜、十六夜(いざよい)の次の夜。十七夜は別名、立待月(たちまちづき)という。たちまち着く(飛脚)、たちまち月のダジャレだ。店の名前にまでダジャレ。それが日本語だ。

533 寝てても団扇うちわのうごく親心  すわりこそすれ すわりこそすれ

560 子を抱けば男にものが言ひ安し  ととのへにけり ととのへにけり

577 長噺ながばなしとんぼのとまるやりの先  くたびれにけり くたびれにけり
 槍を持った人がうろうろしていても、それを武器として使うことのないのどかな江戸の街だった。
 そんな町だからこそ、不義密通は死罪だとはいうものの、話を大きくせず、そっと離縁して終わることも多い。それが現実だろう。

609 旅戻り 子をさし上げて隣まで  久しぶりなり 久しぶりなり

619 母おやはもつたいないが だましよい  気を付にけり 気を付にけり

 古典とは言いながら、解説がなくてもわかる江戸の人々の日常生活だった。



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