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江戸の川柳 心中があるで強くも叱られず 柄井川柳の誹風柳多留六篇③

 表題は親子の関係を詠んだ句。古川柳こせんりゅうには親子関係の句も多い。
 江戸時代の川柳を読みやすい表記にし、次に、記載番号と原本の表記、そして七七のお題(前句まえく)をつける。調子に乗ったら、自己流の意訳と、七七のコメントをつけているものもある。

 


乳母うばが尻たたいて御用憂き目うきめをみ


74 乳母うばが尻たゝいて御用うきめをみ  きのどくな事きのどくな事

 「何を言ってんだい」と御用聞きの小僧が調子に乗ってポンと乳母の尻をたたいたら、「なにを生意気な」と乳母にとっちめられた。それを「きのどくな事」と言っている。

調子乗りあの子にちょいと触れたなら
その後ずーっと口も聞かれず

 そりゃそうだ。ちょっと触れたつもりでも、いやな男に触られたら気持ち悪い。セクハラになってしまう。我が若き日の苦い思い出のひとつにも。いや、二つ、三つ……。


 

金が続かぬと若後家ごけ地をかせぎ


89 金がつゞかぬと若後家ごけ地をかせぎ  つがも無いことつがも無いこと

 「地をかせぐ」とは、素人が売春すること。主人の遺産でさんざん遊んでいた後家が、お金が続かなくなった。
 「つがもない」は、道理にあわない、とんでもないの意。

有り金がなくなり体売る女
使った金はダンナの遺産


 

心中があるで強くもしかられず


134 心中が有るでつよくもしかられず  じだらくなことじだらくなこと

 「自堕落じだらく」(じだらくなこと)は、だらしないこと。
 江戸の町では心中事件が話題になり、物語にも作られたので、ある意味あこがれている若者もいた。江戸初期の近松門左衛門の心中物なんて古典になっている。
 子どもの結婚には反対だけど、反対すると心中するかもと、あんまり強く出られない親。おやおや。

自堕落じだらくな息子に何も言えぬ親
言えば何するそれさえ不安

 わざと心中のまねごとをする話に「江戸生艶気樺焼えどうまれうわきのかばやき」があり、主人公の艶二郎えんじろうはニセ色男として、その後の江戸でよく知られた。


 

のちの月一人一人にごみを出し


107 のちの月壱人ひとり壱人ひとりにごみを出し  じだらくなことじだらくなこと

 「のちの月」は、旧暦九月十三夜の月見。豆名月、いも名月とも言い、枝豆、栗、里芋などを食べた。
 これらの食べ物は、豆の殻、栗の殻、里芋の皮と、全部ゴミが出るもの。
 「自堕落じだらく」(じだらくなこと)=だらしない、といっているので、ゴミを散らかしっぱなしなのかな。

十三夜月見の後にはゴミが出る
片付けられないままで散らかす

 中秋の名月だけでなく、十三夜も月見をする。季節の食材を食べる。自然とともに生きていた江戸時代の人々。

 


 全5回の紹介のうちの3回目の話はここまで。


 

 タイトル画像は江戸時代中期の画家、伊藤若冲じゃくちゅう(1716~1800)の模写。若冲は、極彩色の絵画だけでなく、水墨画も多く残している。いろいろな画法に果敢に挑戦する江戸の画人。



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