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江戸の川柳 女房はおふくろよりも邪魔なもの 柄井川柳の誹風柳多留六篇④

 表題は夫婦の男女の機微と、さらには親子関係をも詠んだ句。五七五でどっちもがわかる。
 江戸時代に名もなき庶民が創った川柳を読みやすい表記にし、次に、記載番号と原本の表記、そして七七のお題(前句まえく)をつける。自己流の意訳と、七七のコメントをつけているものもある。

 


何が恥ずかしいものだところばかし


178 何がはづかしいものだところばかし  じだらくなことじだらくなこと

 自堕落じだらくに(じだらくなこと)女遊びをする男。「みんなしていることさ」「何が恥ずかしいものか」と女にえっちを迫って押し倒している。やってる男の方こそ恥ずかしい行動だろうに。まさに「自堕落じだらくなこと」だ。

何が恥ずかしいものかと押し倒す
これじゃレイプになってしまうぞ


 

母のない芸子げいこ五月いつつきまで隠し


157 母のないげい子五月いつつきまでかくし  さかさまなことさかさまなこと

 「さかさま」は、道理に反すること。道理に反して妊娠してしまったのだろう。
 母親のいない芸子げいこ(踊り子)は妊娠五ヶ月になるまで周りから気づかれなかった。四ヶ月を過ぎたので堕胎もできない。こうなると出産するしかない。

妊娠を気づかれぬまま出産し
トイレへ捨てる母親悲し

 川柳は江戸の話なのに、現代でもときどきニュースになる。出産直後の死体遺棄。本当になんとかならなかったのかな。

 


女房はおふくろよりも邪魔じゃまなもの


342 女房はおふくろよりも邪魔なもの  くらことかなくらひことかな

 逆を言えば、女房はだましにくいけど、おふくろはだましやすいという息子の思い。
 有名な川柳もある。

母親はもったいないがだましよい

 前句の「くらことかな」は、暗い=愚かな、という意かな。

母親をだますことには慣れている
だけど女房は一枚上手うわて

 五七五の十七文字で、家庭状況と男の生育歴までわかってしまう言葉のすごさ。



 はなれ馬よくよく腹の立つ気色けしき


 427 はなれ馬よくよく腹のたつ気色けしき  こわことかなこわひことかな

 放れ馬が暴れている。よほど腹の立つことがあったのだろう、という句。腹を立てているのは馬の方。馬の気持ちを考えて創っている。
 昔は、といっても私の子どもの頃は、田舎の家には畑仕事を手伝う牛や馬がよく飼われていた。
 その牛や馬が逃げ出し暴れていたら、そりゃ恐い(こわことかな)。牛や馬って大きい。あんなものにぶつかったらひとたまりもない。
 江戸時代には乗り物としての馬もいたので、たくさん馬を飼っていただろう。

暴れ馬辺りかまわず駆け回り
周りはひたすら逃げ回るだけ


 

 馬や牛がいなくなったのは、昔と現代の違いだけれど、人と人との関係は、昔も今もそんなに変わらない。
 温故知新で、昔を知って今を豊かに生きたい。
 


 タイトル画像は江戸時代中期の画家、伊藤若冲じゃくちゅう(1716~1800)の模写。若冲は年を取ってからも、いろいろな画法を貪欲に学んでいた。




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