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まだまだ「誹風柳多留」三篇①

川叟せんそう(=柄井川柳)評 
明和元申年さるどし(1764年)の頃、秀逸の中より、誹かい(誹諧)にひとしき句躰を書抜かきぬき、誹風柳多留三篇とはなりぬ。
    明和五(1768年)の孟秋(初秋) 吉辰(吉日)

 1764年頃に募集した川柳作品から優秀作を選び、誹諧(俳句)と同じように五七五七七の七七を略した五七五で、「柳多留」第三巻ができた。(「誹風柳多留三篇」)との言葉。

 川柳作品の中に描かれる、今と変わらぬ江戸庶民の暮らし紹介。


17 ふきがらを じうといわせる ちんこきり  やりばなしなりやりばなしなり
 わっ、なんだこれ、NGワードやろ。と思ったけど……。ちんこ切は「賃粉切りちんこぎり」、賃金でたばこの葉を粉のように刻んでいく職人。座り仕事なので、休憩時間も座ったまま。そこで自分も煙草を吸う。煙草は刻んだ葉をつめる、キセル。吸い終わったら、ポンと中身を捨てる。そのときに、灰皿がわりに、近くにある砥石の入った水桶を使ったんだろう。水の中にまだ火の残る吸い殻が入って、ジューっと音を立てる。
 南アメリカ原産の煙草は、あっという間に世界中に広まった。鎖国の日本でも、老いも若きも、男も女もスパスパ煙草を吸っていた。煙草と一緒に梅毒も広がった。そんなにセックスしてるんだというくらい広がった。交通手段が多岐にわたる現代のコロナの感染とは違うが、江戸時代でも世界はつながっていた。

81 知れぬ字をかいて聞く ちんこきり  おし付けにけりおし付けにけり
 客の名前や住所でわからない文字があると、人に尋ねるときに、手元にある砥石に水で文字を書いて聞く。という句。煙草を吸う人が多かったので、賃粉切りも忙しかったのだろう。「へえ、そうなんだ」と、ちょっとしたことに気づいた句。

5 仲条は むごったらしい蔵をたて  いたづらなこといたづらなこと
 仲条ちゅうじょうは堕胎専門の医者。昔からそういう職業があった。それを専門にできるほど需要があったということだ。だから、むごい仕事をして金を儲け、蔵が建った。といっている。

21 にへきらぬ娘を伯母へ とまりがけ  かくしこそすれかくしこそすれ
 娘を伯母の家に泊まりにやる。娘は縁談の返事が煮え切らない。お題が「隠しこそすれ」だから、なにかあるのだろう。それを伯母に聞き出させようと思っている。

35 けいせいは 一はぢひとはじかくと はやり出し  われもわれもと
 傾城けいせいは遊女のこと。勤め初めの緊張の中、ついつい本気でイッてしまうと、それが評判となり、「我も我も」となってしまう。恥ずかしいことをするから男も興奮する。

46 料理人 まわらぬ舌で ほめらるる  われもわれもと
 酔っ払って呂律が回らないお客から「うまいうまい」と褒められる。

65 国者くにものに聞けば四五人居士こじなり  見へつかくれつ見へつかくれつ
 江戸時代は、参勤交代があったので、武士とそこに仕える者は江戸と故郷(国)と両方に住む。長く江戸にいれば、国元の知り合いは年老いて亡くなり、戒名に「居士」をつけられていた。そんな話を国から来た人に聞いている。

114 すっぽんの首を関守せきもり見て通し  いたづらなこといたづらなこと
 すっぽんの首は男性器のこと。女じゃなくて男だとわかれば、関所を通りやすい。「入鉄砲に出女」という言葉があるように、江戸の町に武器としての鉄砲が入らないよう注意し、江戸から女が出ないように特に注意していた。江戸屋敷には大名の女房や娘がいて、それはある意味人質としての意味があった。だから勝手に江戸を離れられたら困るわけだ。


古川柳作品は、「誹風柳多留三篇」より。その通し番号を記載。
見出し画像は、葛飾北斎「北斎漫画」の模写。


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