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川柳 「誹風柳多留」五篇③ 朝帰りダンナが負けて静かなり

 夫と妻、母と子、周りの人との関係。
 人間は一人では生きていけない。人と人との間で生きるから「人間」なのだろう。人間関係にはいろいろあるし、ストレスもたまってくる。ストレス解消のためにも川柳を作ればスカッとすることもある。川柳を読むことによってもスカッとすることもある。
 江戸時代の古川柳を読めば、江戸時代の人もこんなことで悩んでいたんだと、現代に生きる我々が、ホッとすることもある。

46 留守ねらう やつは あいつとあいつなり  たくさんなことたくさんなこと
 亭主の留守に、女房にちょっかいを出すのはあいつだろう、という句。当時は、セックスがしたくなれば男性なら女郎買いに行く。それが当たり前の時代だった。セックスはしたいけれども、その金が惜しいと思いタダでエッチしようと思う者が、あいつとあいつとなる。

101 近所には居るなと 母は弐両(二両)かし  さいわゐな事さいわゐな事
 勘当かんどうというものがあり、悪いことをしたら家から追い出される。勘当されたその息子が家の周りをうろうろしている。勘当したのにそばにいれば、まわりがうるさいから、「近所にいないでくれ」と、あまい母親はこづかい2両を与えた。

108 千両は壱分いちぶかけても気にかゝり  よくばりにけりよくばりにけり
 千両箱に入る1000両は、今の1億円くらいだそうな。1は1両の1/4。1分は、たいした金額ではないけれども、いざ大金を持てば、ちょっとした金額まで気になってしまう。

176 うたゝねの顔へ一冊 やねにふき  釣り合つりあいにけり釣り合にけり
 よく知られた句。うたたねをしている顔の上に乗っている本が、屋根のように見える。

348 朝帰り旦那がまけて しづかなり  だましこそすれだましこそすれ
 ダンナが朝帰りの夫婦げんか。ダンナは何も言えずにケンカにもならない。それでうまくいっているのだろう。夫婦のことを詠んだ川柳が多いが、今も昔も変わらぬ人間関係。いや、朝帰りはしてなくても、夫婦げんかの時は、ダンナが静かにしているにかぎる。

371 あまでらに行つて我身にして帰り  たのしみな事たのしみな事
 「我身」は自分の自由な身ということで、尼寺(鎌倉の東慶寺)に三年間駆け込んでいたので離婚できた。自由の身になった、という句。夫は三行半みくだりはんを渡せばすぐに離婚できたが、妻は離婚するのに(駆け込み寺で)三年かかる。それでも互いに離婚ができる仕組みが江戸時代にあったのだ。

619 手紙には狸 台には鯉をのせ  そそう也けりそそう也けり
 手紙には「狸進上」と書いてあるが、お祝いに届いた台の上には「鯉」がいる。「(たぬき)」と「(こい)」の漢字の間違い(どちらも音読みが「里(リ)」になる)。

656 かし本屋 是はおよしと下へ入れ  まねきこそすれまねきこそすれ
 江戸の町には貸本屋がたくさんあった。本は、買うには高いので、貸本で楽しんだ。江戸の町人は寺子屋で文字を習っている。ひらがなは多くの人が読める。だから、当時の本には、漢字にはルビがふってある。読書人口は多かった。
 その本屋が、「この本はおよしなさい」と下に隠した。やばいエロ本なのだ。当時のエロ本は「春本」という。エッチな絵は「春画」。「春」はエッチの目印だった。本屋は、隠しながらも「まねきこそすれ」だから、たてまえでは隠しながら、「ほら、どうだ。おもしろいぞ」と誘っている。それが商売。

688 御つゞきが有るかと聞いて わるくいひいい  めつためったやたらにめつたやたらに
 「御つづきがありますか」と聞くのは、あの人と「縁つづきですか」、「関係がありますか」ということ。それを聞いて、「ない」を確認してから、あの人の悪口をこれでもかこれでもかと言う。

 悪口を言い続けながら「誹風柳多留」五篇の紹介はここまで。

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見出し画像は、山東京伝作・北尾政美画「心学早染草」の模写。


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