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所感

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エッセイやら何やら。
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今日という日のこと

今日という日のこと

今日で三回忌。

GWが近づくにつれてどうも心がざわざわしていたし、研究が年度初め早々に忙しくなったのもあってしばらくは情緒が不安定だった。

そういえば去年のこの日もメンタルがやられていた。
感染症拡大の不穏な空気感や人と会えないことが悪さをしていて、無人の公園で新緑と傾く夕日を眺めながら、ひたすらぼんやりしていたことを覚えている。
散った桜と咲きこぼれる藤を見て、時は待ってくれないのだと感じた

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卒業によせて

卒業によせて

実際のところを言うと、自分が修了する実感は正直湧いていない。春からの生活環境がこれまでと大差ないからだ。
無事に学部の単位を取得し、卒業が確定したと同時に大学院への進学も決まった。暮らす家もキャンパスもこれまでと同じで、院生が使う部屋は学部生の部屋のすぐ隣。研究室も現在進行形で所属するところから変化なし。
4年間を無事終えられることへのめでたさは、卒業袴の撮影会ですれ違った大学の清掃員さんに「おめ

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卒業研究中間発表会までを振り返る

卒業研究中間発表会までを振り返る

 今年もあと数時間。例に漏れず振り返りをすると、思い出すことの大半が卒業研究に付随した話ばかりだったので、忙しさで忘れないうちに現時点での所感を残しておきたいと思う。

研究活動開始 まず真っ先に述べるとすれば、新型感染症拡大の影響を色濃く受けたということ。大学に設置されている機器の使用が難しいのはもちろん、研究そのものが通常よりも2ヶ月ほど遅れたスタートで、かつ学部棟にいる学生も少ない。人と話す

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今年も来年もまた、自分のために書き続ける

今年も来年もまた、自分のために書き続ける

11月は手帳の季節だ。
12月はじまりの手帳を使う私は、せっかちな質だから、毎年11月になったとたんに新しい手帳を買い求めている。

紙媒体の手帳をきちんと使うようになったのは高校3年の12月ごろ。大学受験のスケジュール管理はもちろん、日記帳を兼ねて記録をつけはじめたのが一番最初だった。

当時は来る日も来る日も考え事をしていて、そういうものを鍋の底が焦げるまで強火でぐつぐつと煮込んでいた。
同時

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霧たちのぼる山奥、図書館の思い出

霧たちのぼる山奥、図書館の思い出

感染症対策による規制の緩和により、後期になってようやく自由に大学図書館に入れるようになった。

水を打ったような館内、木立に見える本棚、土ともまた違う古い紙の匂い。
いつも霧のたちのぼる山奥を連想する。

この場所は、私の人生からは切り離せない場所。
久々の空間に心が踊ってしまう。

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小学校にある図書室の本の並びを、今でもありありと思い出すことができる。

貸し出しカウンターに近い入

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最後の夏休み、私たちはきっと大丈夫だと思った

最後の夏休み、私たちはきっと大丈夫だと思った

学部生最後の夏休み。
このご時世ゆえに久しぶりに仲間と宅飲みをした。

締まらない乾杯の音頭を取って、まずはそれぞれの進路について話す。
みな概ね順調で、うち一人はひとり暮らしをしている部屋をじきに引き払うそうだ。

ほろ酔いの勢いで、「今年はまだ一度もしていないから」と言って半ば強引に線香花火をした。
ぬるい夜風が強く吹くから、ろうそくに火が全然つかない。
仕方ないのでチャッカマンと花火で火を直

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私の『人生はまだまだ続く』

私の『人生はまだまだ続く』

20と数年生きていて、その大小はあれど、「人生の曲がり角」というか、ターニングポイントだったと思う日がいくつかある。

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高校2年生の私は、学校帰りにいくらかの軍資金を携え、商品が雑多に入り乱れる某遊べる本屋の前に立っていた。
と言っても本を買いに来たわけではない。当初買う予定のなかったCDの初回限定盤を手に入れるためだった。

親の教育方針により、まともにお小遣いをもらうようになった

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愛でなくして何と呼ぼうか

愛でなくして何と呼ぼうか

大学1年生の春。私たちはサークルで出会った。

男子3人、女子3人。
入学したての6人は、それぞれが新しい生活を始めたばかりでどこか浮ついていたことも作用してか、すぐに打ち解けた。

各々のペースでサークルに打ち込み、何人か、もしくは皆で大会へ遠征すれば、そのついでに旅行をした。大会に限らず遠方に出かけたこともあった。

また6人全員が偶然理系だったのもあり、試験が近くなればファミレスや誰かの家に

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知ることは生きること

知ることは生きること

理系の代表格と言っても過言ではない、数学と物理が大の苦手だ。

本当に、ビックリするほど出来ない。
中学受験で(当時の自分にしては)やたら難しい算数を叩き込まれたからか、すっかり苦手意識がついてしまっている。
あの忌々しい金色の表紙のテキストのことは忘れられない。
ゆえに高校時代はテストの結果はいつも真っ赤っか。逆に現代文と地理は絶好調。

理系/文系という概念がそもそもナンセンスだという議論はさ

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ライク ア ヒーロー

ライク ア ヒーロー

2019年7月15日。
私は東京・日比谷野外大音楽堂にいた。

ロックバンド・キュウソネコカミ初の野外ワンマンライブ。
なかなかの抽選倍率をくぐり抜け、東京往復のために夜行バスに揺られた日。
最高に眩しく、楽しく、幸せな空間だった。

その約1年後、2020年7月16日。
私は日比谷野音で買ったバンドのTシャツを着て、パソコンとにらめっこしていた。

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キュウソはまさしくライブバンドだ

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2年6組を抜け出して

2年6組を抜け出して

「…先生、この日の午後は学校の大掃除の予定ですが、早退とか…できますかね」

確か、そんな風に言った気がする。

職員室に入って左手奥。年に何度かある、進路相談という名の二者面談での出来事。

担任はわずかに怪訝そうな顔をしたけれど、私はたいへんに真面目な生徒だった(今でもそうかもしれない)から、正直に、事実をありのままに述べた。
話を聞いて少し考えたあと、私たちの早退(予定)を許可してくださった

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サイダー

サイダー

親の教育という観点で見れば、どちらかというと厳しく過保護な家庭で育ったと思う。
中学生になるまでは徒歩もしくは自転車でひとりで出かけることは暗黙の了解的に原則禁止にされていたし、高校生になるまで自分で自由に使えるお金は無かった。

だから時たま許しを得て(送迎付きで)友達の家に行ったときだけ飲める、ジュースなどの甘い飲み物は、私にとって特別なものだった。
家には麦茶か牛乳しかなく、自分でも買いに行

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小中学生時代を懐かしむ読書遍歴

小中学生時代を懐かしむ読書遍歴

まえがき先日、TVで劇場版「若おかみは小学生!」が放映されていた。
もうとんでもなく懐かしい。それこそ小学生の時に図書館で借りてさんざん読んでいた児童書が原作だ。劇場で公開されたとき(2018年)に観に行っていたが、気になって地上波でも観てしまった。

「若おかみは小学生!」は、両親を交通事故で亡くした小学生の関織子、”おっこ”が、祖母の営む旅館に預けられるところから始まる。そこで出会うユーレイた

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何の役に立ち、何が面白いのか

何の役に立ち、何が面白いのか

私は理系の大学院に進学する。

元々、大学入学当初は教員を目指していた。親が教員で、その影響を受けて抱いた、幼い頃からの夢だった。大学受験の時点で教育学部には合格できなかったが、別の学部に合格し、そこで教職課程を取ることにした。「子供たちのための教育を」という熱意もあったし、順調に単位も取れていた。

しかし教育実習の申し込みをする段階でふと気づいてしまった。「ああ、私は教えたいのではなく、私自身

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