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向暑はるの日常 2022年

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2022年の日常です。
運営しているクリエイター

#おうち時間を工夫で楽しく

夢から痛みを持ってくる

夢から痛みを持ってくる

どこか分からない駅の改札で、偶然懐かしい人に会った。

偶然のくせに、それが中学の頃の部活の先輩だと気づくまで全く時間がかからなかった。

夢というのは、現実で起こりそうで起こりえない絶妙なラインをついてくる。

おー!とお互いが同じタイミングで認識しあった。

マスクを少し外して口元を見せながら名前を呼び合う。

先輩なのに、自然と呼び捨てで呼んでしまうのはあの頃と変わらなかった。

顔立ちの良

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3/4

3/4

来週には満開とキャスターは笑った。

でもその1週間後の今日は、外には出ずに終わりそうだ。

寝る前に充電していたカメラのバッテリーも、今日は休むと言わんばかりに充電中の光がまだ点滅している。

虚しい1日の始まりだ。

布団から出ることを後回しにして、頭上に転がるスマホを開いた。

目覚ましの音楽はまだ鳴っている。

確かこの曲は、向暑はるが高校生の時に一つ上の先輩たちがコピーしていた。

今日

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一人は楽だと言うけれど

一人は楽だと言うけれど

気づけば終業30分前になっていた。

残りの業務もあと一つ。

どうやら定時で帰れそうだ。

いつものように人が出入りする会社の入り口付近で、いつものようにドアの閉まる音がした。

それと同じタイミングで誰かの叫び声が聞こえた。

痛々しい叫びだった。

指でも挟んでしまったのかと、恐る恐る入り口のドアに近づいた。

そんな軽い話ではなかったと、目の前の光景を見て知った。

さっきまで普通に仕事を

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美術館に訪れる自分が好きだ

美術館に訪れる自分が好きだ

美術館によく行く。

でも行ったところで作品に対して何も感じないことが多い。

トイレ行きたかったなーが感想になってしまう時もある。

休日を利用して3つの美術館をまわったけど、どれも何も感じなかった。

でもこれが時間の無駄だとか、お金の無駄だとかは思わない。

向暑はるは、展示品ももちろん見たいけど、どちらかといえばあの空間が好きで訪れているし、そこにいる自分のことが好きだったりする。

車の

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銃弾では届かない距離で繋がっている

銃弾では届かない距離で繋がっている

銃声が鳴り響く。

その近くで怒号が響く。

たった一つの引き金で誰かが泣いて、それに感化された別の誰かが引き金を引く。

それぞれが持つ正義が不幸の連鎖を呼んでいる。

そんな馬鹿ばっかの戦場が、向暑はるの生きている世界にあるらしい。

テレビから悲惨な光景が映し出されるが、未だにCGを使ったフェイク映像だと信じている。

それらの国同士の戦いに、向暑はるや周囲の人間に直接関わりがあるわけでもな

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性格悪く、頭良く

性格悪く、頭良く

女子高生四人が電車に乗ってきた。

電車が発車するや否や、三人が教科書を広げて勉強を始める。

一人はスマホを構いながら音楽を聴いていた。

教科書担当の一人がこう言う。

頭がいい人はいいよね。勉強しなくてもいいもん。

ずる賢い人を性格が悪いと表現するなら、たぶん向暑はるは性格が悪い。

学校では授業中以外、勉強する姿を見せてこなかった。

だって勉強熱心って思われちゃうでしょ。

でも授業中

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社会の実験台になってから

社会の実験台になってから

一年前くらいに、向暑はるは”東京”に降り立った。

何度も尋ねた地ではあるし、住んでもいたけど、それまでとは比べ物にならない威圧と窮屈さが漂っていた。

手には地元からの”片道切符”を汗とともに握りしめていた。

そして数週間後に向暑はるは社会の実験台になっていく。

これまでは自分自身の実験台の中で生きてきたから、指揮者はもちろん向暑はるだったし、

その”施設の中”にいるみんなは向暑はるの好き

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社会の中で話すのは向いてないんだろな

社会の中で話すのは向いてないんだろな

覚えた言葉だけでは自分のことを表現できない。

語彙力の乏しさに嫌になることがある。

友達と話す時は口が止まらないくらいに饒舌になるのに、

それ以外の場では、人が変わったように言葉が出ずに、気持ちの悪い間がその空間を支配する。

緊張とかそういうものではない。

単純に”大人としての”語彙力が足りないのだ。

向暑はるは今日も何度か言葉が詰まった。

言いたいことは頭の中では整理できているのに

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パン屋とカフェは朝が早い

パン屋とカフェは朝が早い

向暑はるは朝が弱い。

平日は社会の圧力に無理やり起こされてしまうけど、

何もなければ正直いつだって寝ていられる。

大学生の頃は、”朝に起こされる”ことなんてなかったから、目覚ましもかけなかったし、1限も取らなかった。

だからと言って寝るのが遅いわけでもなくて、日が回る前に寝たとしても結局朝は起きれないのである。

そんな人間も社会の圧力に慣れてしまったのか、休日の朝早くに目を覚ましてしまっ

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春を感じた

春を感じた

毛布を丁寧に3枚重ね合わせて、向暑はるはその中に包まれていたはずだ。

寝る前は。

朝起きると、1枚は足の下に、1枚は頭の上に、最後の一枚はベットの下に落ちていた。

どうやら春がきたらしい。

毛布がないと夜を過ごせない季節は、どうやら今年も乗り越えた。

それでも朝はまだ肌寒くて、落ちていた毛布を拾って身体に巻いた後、二度寝についた。

暖かくなっても毛布は気持ちが良いのでまだ当分は離さない

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何かが足りないと思える時間が一番幸せ

何かが足りないと思える時間が一番幸せ

倦怠期に入ったカップルは口を揃えてこう言う。

片想いの時期が一番幸せだったと。

足りないものが満たされた時から、情熱や自尊心というのはどこかに置いてきてしまう。

付き合うことに情熱を注いでたあの頃の彼らはもういない。

ゴールをもっと先で考えてれば、今でも彼らは仲良く過ごしているのかもしれない。

ドーム規模の会場でライブができたあのミュージシャンは、

その頃から彼の書く新譜が暇潰しのよう

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正義も視点を変えれば悪となる

正義も視点を変えれば悪となる

ヒーローが敵を倒した。

街全体が歓喜に包まれ、ヒーローは正義となり、倒された者は悪となる。

漫画やアニメの基本的な構成である。

これを見ている第三者はこのヒーローに憧れ、その正義こそが正しいと思いこむ。

ではここに、ある設定を追加しよう。

ヒーローが倒した敵の名前はテキ。

幼少期からテキの容姿は醜いと周囲から罵倒され、テキは自分を塞ぎ込んでしまうようになる。

そんなテキを救ってくれた

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背中を押されても頑張れない

背中を押されても頑張れない

応援することを、背中を押すと言う。

でも向暑はるは背中を押されることは好きじゃない。

だって貧弱なこの身体が、みんなに背中なんて押されてしまったらコケてしまう。

それに、目の前の道が平坦とは言えない疎らな道だとしたら、背中を押されてもその勢いで逃げ出してしまう。

だったら、一緒に横に立って手を引っ張ってくれるような応援があったっていい。

手を引っ張ってくれるもの。

向暑はるにとってそれ

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オールドレンズにまた恋をした

オールドレンズにまた恋をした

向暑はるは急いでいる。

2年も待たせたくせに急いでいる。

早く取りに来てと言われなければ、死ぬまで気づかずに過ごしていたかもしれない。

全く覚えていなかったのに、それが自分の物だと自覚した瞬間、急に愛が芽生えて会いたくなる。

待たせた相手が”人”じゃなくて良かったと思う。

2年前に修理に出していたカメラのレンズがそのまま放置されているらしい。

高校の時の後輩が働いているカメラ屋に、修理

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